挫折がテーマの作品
原作よりも感動した
私はこの原作となった、「芸人交換日記」も持っているのですが、映画の方が見やすかったです。
原作の方は、まず、全てがモノローグで構成されているので、臨場感が伝わりにくい感じがしました。
序盤の、田中が日記を嫌がっている展開は面白いのですが、中盤以降はモノローグだと、くどく感じました。
芸人として「笑軍」に勝ち残り、上り調子になっていく感じや、甲本が芸人を辞めたいと言い出す所は、やはり映像でないと伝わってこない部分があると思います。
その辺りを原作では、セリフのみで表現しなければいけなかったので、若干の苦しさがあったと思います。
しかし、そういったテンポの悪さを、映画では補完できていたのではないか、と思います。
また、終盤では、甲本が芸人を辞めた本当の理由や、甲本が病に倒れた事などが、次々と展開され、正直原作は読んでいて辛くなりました。
「とにかく泣かせたいし、感動させたいんだなあ」と作者の意図が丸見えで、興ざめな感じがしました。
しかし、映画では同じ内容のモノローグであるのに、全くクサく感じませんでした。
伊藤淳史さん、小出恵介さんの語りがあまりにも良かったです。
思わず聞いていて、熱い気持ちになって、泣けてきました。
彼らの頑張りや、夢破れた後の生活などが、映像で補完されていたのも、感情移入できた理由の一つだと思います。
原作の「泣かせよう、泣かせよう」という構成に対して、映画はストーリーをきちんと見せているので、不自然さを感じませんでした。
原作がつまらないと感じた人でも、映画は自然に見ることができるのではないでしょうか。
芸人の世界をまったく知らなくても、彼らに感情移入できる
同時期に、品川庄司の品川さんの監督作品、「漫才ギャング」も視聴したのですが、やはり「ボクたちの交換日記」の方が、見易い感じがしました。
まず、二つの作品のベースとして、「芸人は売れなければ食べられない世界」という常識があります。
この辺りが、「漫才ギャング」では全く説明がなく、芸人の世界を目の当たりにしている人以外には、不親切なのではないか?と思ってしまいました。
私は芸人ではないので、話としては芸人は売れないと大変だ、という事は知っていますが、「なぜ彼らが食えなくても芸人を辞めないのか?」は分からないのです。
正直、そんなに辛ければ辞めればいいと思いますし、仕事をしながらでもできるだろう、くらいに感じています。
ですので、「漫才ギャング」では、売れなくてももがく、という展開には最初から感情移入できませんでした。
しかし、「ボクたちの交換日記」では、その辺りを詳細に描いており、「なぜ夢を追うのを辞められないのか」を、一般の視聴者にきちんと説明できていると思いました。
まず、甲本が「芸人を気取りたいヤツ」であること。彼らが若手芸人で作る番組に声をかけられた過去があり、売れかけたこと。
それが主な理由なのでしょう。
この「売れかける」というのが、苦しいですよね。
全く鳴かず飛ばずだったわけではなく、一瞬栄光を掴みそうになった、という苦しさは、私にも理解できます。
そうした彼らのヒリつくような感情が、画面から感じられるようでした。
夢を諦める。才能の限界を認める。
その苦しさは、芸人でなくても日常に転がっている感情です。
終盤には辛い現実の待っている甲本には、誰もが感情移入せずにはいられないのではないでしょうか。
そうした普遍的な、「挫折」をテーマとし、それを伝える熱を持った、熱い作品だと感じました。
結局、あのまま続投していたら、房総スイマーズは売れたのか?
これは完全に私の妄想なのですが、やはり甲本と組んでいても、田中は売れなかったのではないか?と思います。
甲本は、おそらく原作者の鈴木おさむさんや、監督の内村光良さんから見て、売れない芸人の要素があるのではないか、と思うのです。
悪いヤツではないのですが、甲本は借金をしてみたり、後輩に奢ってあげたりという、「芸人を気取りたいヤツ」なんだと思うんです。
そもそも田中の言うとおり、コンビで交換日記をやろうと言い出すことが、センスが無いですよね。
そして最後に、芸人を辞めた甲本が、「タナフク」のコントを見て吹き出してしまうシーンがあります。
きつい場面ですが、やはりそこで笑ってしまう甲本と、テレビの画面にいる田中と福田との才能の差が、そこにはあるように見えました。
しかし、甲本には製作側の愛を感じます。
特に、「俺が田中の足を引っ張っている」というセリフを言わせた所は、愛情が深い。
「才能の限界」を認めて、それを言葉にすることが、どれだけ夢を追う者にとって辛いことか。
どれだけ現実の芸人を辞めた人間が、この苦い感情を受け入れてきたのか。
これこそが、この作品のテーマであるし、見せ場でもあると思うんです。
そうした一番いいシーン、いいセリフが、甲本には充てられているので、愛を感じずにはいられなかったです。
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