日本の持ち家信仰の行方は…?
建物の劣化と資産価値
あー、人も年を取るように、建物も老いていくんだわ。私の家の近所にも問題を抱えていそうな集合住宅らしきものがある。そこは、二階建ての家が連棟になっていて、3棟、乃至は4棟横に連なっている。それが敷地内に何十棟も建っている。駐車場は各家1台分のみ。しかも、家からは離れていて、家の前まで車で乗り付けることはできない。米や灯油を台車で運んでいるお年寄りを見たことがある。不便だろうな。中庭のような共有地はあれど、芝生は剥がれ、水たまりができそうにボコボコしている。買うときは共有地込みの価格なんだけれど、売るときは置いていくんだろう。ご多分に漏れず、空き家がちらほらしているらしい。そこに住んでいるママ友からの情報だと、その家が建てられたのは昭和48年らしい。当時はきっとオシャレで人気もあったのだろう。住んでいる人がいるのに、全くもって失礼な言い方だが、連棟ってトラブルの元だわね。今後、負の遺産となっていくのではないかと近所に暮らす者として心配している。
さて、この物語の青木葉ニュータウンである。バブル絶頂期に織部夫妻が買った時は5,000万。しかし30年近く経って、今の資産価値は1,600万くらいというところ。しかし、織部夫妻は購入額のローンを払うために四苦八苦。おまけに娘の教育ローンも500万ある。新聞の購読を止めるなどの小さな節約を繰り返して、つつましく暮らしているのである。
家のために、その後の人生を我慢して過ごす。そんな人生に何の楽しみがあるのだろうか。本末転倒ではないか。そういう私も家のローンを完済するためには、夫婦げんかもしたし、娯楽を我慢したりしてきた。今でも、固定資産税の通知には泣かされている。悩ましき存在が家なのだ。しかし、こちらは戸建て。集合住宅の煩わしさに巻き込まれることがないのが、何よりの救いか。
建て替えか、修繕か、そこが問題だ
青木葉ニュータウンは建物の劣化と資産価値の暴落で、建て替えか修繕かの選択を迫られるのだが、人の意見って絶対に分かれるのよね。その理由は概ね個人的なことなのだ。修繕するには1戸当たりのの関学が跳ね上がる。住民の老化のためエレベーターが欲しいと言えば、1階の住民は金を払いたくないという。増築して他の部屋を売り出すという手段も、交通の不便さから建設会社が手を引いてしまう。
私は、逃げるが勝ちだと思ったよ。そういう煩わしさからね。資産価値なんてどうしたって下がるに決まっているのだから、もうこれ以上下がらないうちに売り抜けて引っ越しすればいい。頼子はニュータウンに払った金額に固執している。他にも何もないので、この家だけは息子に残してやらなければならないと意固地になってた人もいた。そんなに、ストレスを持ち込む家の存在。もういっそのこと賃貸に住んだ方が幸せなのではないだろうか。
どんなに、時間をかけても、建て替えか修繕かなんて全員一致で決まるわけがない。今はオシャレな都心のタワマンだっていつかはそういうことに翻弄される日がくるのだろうか。子孫に家を残すという神話は、その先崩れ去るかもしれない。日本のような家の建て方では。その点ヨーロッパを見習ってシフトチェンジしていく必要があるのかもしれない。
胡散臭い金持ちオトコ
この物語のもう一つの肝は、織部琴里の恋愛。資産家の黛を三起子から押しつけられた琴里。そのオトコが粘着質だとは気づかずに。やっぱり、結婚する前に借金を返してもらおうだなんて、甘い。常識的にしてはいけないことだと思った。しかし、黛のもっとも卑劣なのは、別れた後の請求書だ。プレゼントしたものまでは請求しなくていいんでないかい。やっぱりクズだわ。織部家は話し合って、それを全額返済したけれども、私はその必要はなかったと思っている。だって、黛の父親は4期もやってる議員さんなんでしょう。スキャンダルを一番恐れるんじゃないのか。息子がそんなみっともないことしてるって世間に知れた日には、堂々としてられないでしょう。
その、胡散臭い黛一家を手なづけた朋美はあっぱれ。やっぱり頭の良さなんだわ、勝つのは。琴里も罪悪感を感じることがなく、女の子三人とも幸せになれたのが何より良かった。
あとは、団地で鳥の餌付けをするオトコ。時々、ワイドショーで問題になっているけれども、青木葉ニュータウンの人々は優しいな。それとも触らぬ神に祟りなしの精神か。心の病気を振りかざされても私なら納得いかないけれどもな。みんな、虎視眈々とニュータウンからの脱出を狙っているのか。そうすると、資産価値はもっと下がるね。生活も不便になるし。
すごく、興味を持って読んだ話だけれど、頼子が雪子に操られているような気がしていた。それがちょっと気に入らなかったわ。あのババアにもひと泡吹かせてやればよかったのに…と意地の悪いことを考えてしまった。こういうシニカルな話は大好き。日本の大問題だと思った。垣谷美雨さんはやっぱり面白いな。
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