既存の恋愛観から新しい恋愛観へ - 雲の上のキスケさんの感想

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雲の上のキスケさん

5.005.00
画力
3.00
ストーリー
4.00
キャラクター
3.50
設定
4.00
演出
5.00
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既存の恋愛観から新しい恋愛観へ

5.05.0
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
設定
4.0
演出
5.0

目次

女性向け漫画だけどちょっと違う

女性は恋愛して結婚しなければいけない、でも女性は就職して男性と同じく仕事もしなければいけない、男性からの視線を気にして生活しなければいけない。このような女性の「しなければいけない」という呪いにかかっている主人公の女性、眉子。しかし、ひょんなことから、そんな“世の中の常識”に逆らって生きている(というか、サラリーマンなどの生活ができない)漫画家のキスケさんに出会います。主人公とキスケさんの、単純な恋愛漫画…と言えばそれもありますが、どちらかというと「ひとりの女性の生き方」や「多様性」を描いていて、今までの「恋愛っていいよ!女は恋愛して結婚するのが幸せだよ」という女性向け漫画に一石投じる漫画です。男性でもおもしろく読めると思います。

ゴールは結婚じゃない

昨今、やっと一般的になりつつあるLGBTに関することや、結婚しない選択をする女性についても、すでに触れられていて、時代がやっと「雲の上のキスケさん」に追いついてきたかな、という感じです。最後、結婚して終わるわけではないふたりの関係に「それそれ!そういうハッピーエンドいいよね!」と思った読者も多いはずです。結婚して出産して子育てして地獄、みたいな報告がたくさん溢れている現代日本の中で「結婚しない選択の先」が見えた気がしました。好きな人とお付き合いしたまま、籍を入れるでもなく、仲良く年を取っていく人生もいいのかも、と思えるラストでした。

アラサー女子の辛いことあるある

主人公はアラサー女子で、一流企業に勤めていますが、キスケさんという男性との出会いをきっかけに辞めます。そして、キスケさんとのゆるゆるしたお付き合い(結婚とかする予定もなし)の中で、今までいかに頑張って辛いことに耐えてきたのかを思い出します。それは、現代のアラサー女子なら誰もが必ず抱えている「辛いことあるある」の連続で、それらのめんどくさいことから解き放たれていく主人公の様子を見ると「いいな~!私もそうなりたい~!」と思います。たとえば「生理痛辛いけど我慢して仕事行く」みたいな。でも、健康のことを考えたら「生理痛で辛いなら病院に行くべきだし、そもそも体質から改善していかなきゃだよね!」って感じです。「そっか、根本的に体質改善して健康にならないと痛みはなくならないよね!」という、よく考えたら当たり前のことに気づいて徐々に解放されていく感じが面白い漫画です。辛いことを思い出すシリアスなシーンもありますが、あくまでコミカルに描かれていて、絵柄もゆるゆるしていて緊張感のない漫画なので、リラックスして読むことができます。

キスケさんが好き

じゃあ「キスケさんって何者なんだ?」って感じですが、どこにでもいるような売れない漫画家のお兄ちゃんです。ほかの男性と違うのは「思いやりがある」という点でしょうか。この点に関しては「こんなの本物の男じゃないよ」とおっしゃる男性もいるみたいですが、キスケさんのように母性?を感じさせる優しい男性は、実在するだろうと思います(少数ですが)。そもそも、大手企業に勤めていた主人公にとって、フリーで漫画家をしているアウトローな男は、今まで出会ったことがない人種、ということもあって、新しい発見の連続です。以前に付き合っていた元彼も登場しますが「こういう嫌な男、いるんだよな」という感じで、深く頷きました。そういう「よくいる男」とは対照的なのがキスケさんです。キスケさんが下宿している家のおばちゃんもなかなか味わい深く、今まで人に裏切られてきた主人公にとっては「ほっと一息つける場所を見つけた」って感じだったんだと思います。実家に帰るような、田舎の親戚の家に行くような感覚です。特別ハンサムでもなく、お金持ちでもないけど、ノーメイクでも太っても「かわいい」って言ってくれる、キスケさんみたいな彼氏だったら欲しいなあ、と思ってしまいます。いつのまにかキスケさんのことが好きになっています。この「キスケさんのポジション」は、男性の場合もあるし、女性の場合もあるのかな、と感じました。つまり、結婚して子供を産むことが目的ではないので、同性カップルという可能性もあったかも、という感じです。なかなか見つけられませんが、キスケさんのような人(男でも女でも構わない)がどこかにいることを願います。

「ありのまま」で生きるとは?

この漫画を読んでいて感じたのは、やっぱり女性が頑張って男社会で生きていくって直球勝負じゃ無理だよな、ということです。かと言って変化球がいいか、と言えばそういうことでもないのですが、女が男みたいになって働いて超人になれるのは、たぶん条件が揃ってむちゃくちゃ努力して、いろんなことを諦めた人だけ、なんだろうなと思います。キスケさんは漫画家で、それはそれで大変な職業なんですが、自分にウソをつかず、見栄を張らず、自然体で生きていくってそういうことなのかな、と考えさせられました。作品全体がリラックスした雰囲気で、休日の午後に、まだ太陽が上にあるうちからビールを飲みながら読みたい漫画です。

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