聖なる夜の奇跡 - 輝く夜の感想

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輝く夜

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聖なる夜の奇跡

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
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演出
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目次

現代の女性を励ますシンデレラストーリー

『魔法の万年筆』の主人公である女性・恵子の、状態の優れていない会社に長年務め、未婚のまま年齢を重ねた、という設定はきわめて現代的である。そんな女性が不幸のどん底に叩き落とされ、突然の奇跡によって幸せになるというのは、とても分かりやすいシンデレラストーリーだ。

これは、現代の働く女性を中心としたストレス社会に蝕まれている人への希望の提示に思える。

本の最初に収録されている『魔法の万年筆』は特にそれが分かりやすく顕著に記されていたが、他の収録作品においても、シンデレラストーリーの主人公となるには十分なほど不遇で、かつ現代社会にも通じやすい設定を抱えた女性という点は共通している。

これらの物語ほど極端な幸と不幸はないかもしれないが、人生そんなに嫌なことばかりじゃないよ、きっと良いことあるよ、という作者の優しい思いが文面から伝わってくるようである。

希望を描くという目的が徹底されている

本作は『苦労人が幸せになる話』なのだが、その『幸せになる』というのがとても徹底されている。

金銭的に崖っぷちだった恵子は自分を思ってくれる男性が昇格したタイミングでプロポーズをされる。それによって人間関係だけでなく、金銭面においてもこれから先は豊かに暮らせるといった希望が示唆されている。幸福の抜け目や不幸の糸口を徹底して排除することで、彼女は『人生崖っぷちの女』から一変して『何不自由ない未来が約束された女』になったのだ。

また、本作には一貫して悪人が登場しない。主人公を不幸においやった人物でさえ、悪人としては描かれていない。やむを得ない事情があったり、ほんの気の迷いであったり。

またそれらの人に対して、主人公はとても同情的だ。自分の不幸の腹いせに相手を恨むのは人として当然の感情だと思うが、彼女たちはそれをしない。

そんな彼女たちを取り巻く人物も善良で物腰柔らかな、人格者が多く、一貫して温和な世界観を形成している。

そのことから、これらの作品は物語の結末だけでなく、物語全体が『希望』という言葉からイメージされるような温かな光をたたえているように私には感じられた。

すべての収録作品に共通するクリスマスの夜という舞台設定も、希望を表現する上でとてもよく機能している。聖なる夜といえば、誰もが浮き足立って奇跡や幸運を信じたくなる日だ。

昼間の日常生活から解放される夜間、加えてクリスマス。ありえないような不思議なことや、降って湧いたような幸運もあるのではないかと、そんなふうに読者に思わせるだけの効力が『クリスマスの夜』という舞台設定にはあると思う。

異彩を放つ『ケーキ』

三話目に収録されている『ケーキ』は登場人物本人にとってはハッピーエンドとはいえ、他の作品と比較すると少々切なさを残すエンディングとなっている。

上記の見出しと矛盾するようだが、その分、収録作品の中でもこの作品は際立っている。ちょうど本の中間地点に差し込まれているこの話は、これまでの怒涛の幸福の小休止となっている。

ここからはまた降って湧いたように幸せになる女性の話が続き、そのエンディングの文句のない幸福っぷりに安心する。

そして最後に収録されている『サンタクロース』は、温かさとほんの少しのビターテイストが混じり合っている。

だが、幸福感よりも切なさの方が強く残る『ケーキ』と違って、こちらはビターテイストよりも温かみの方が強く残る。

中間に挟まれた甘く優しいだけでない話は、小休止だけでなく、本書全体の締めに対する布石としての役割も果たしている。

どこまでもイージーな話ばかりではないのだということを示し、読者の心に苦みを落とした上で、最終章でもまた苦みが生じる。が、今度はそれを温かく包み込む。とても上手い構成、もといずるい構成だと思う。こんなの感動するしかなかった。

サンタクロースという存在

本書には度々サンタクロースのような働きをする人物が登場している。彼がさまざまな人に化けたサンタクロースなのか、それともただの優しいおじいさんなのか、作中では明記されていない。

が、本物のサンタクロースであると信じさせる描写も幾度かある。

本当にサンタクロースなのか、そうでないのか。それをあえてはっきりさせないこともまた『希望』という本作のテーマに合致していると思う。

希望とは匂わすものであり、感じるものなのだ。はっきりとした形や存在ではない。

サンタクロースの存在をはっきりと明記してしまったら、明るい未来は連想できるかもしれないが、それはもう『希望』の域を出てしまったもののように思える。

希望とは信じるものであり、目の前にはっきりとそれがあったのでは信じるも何もなくなってしまう。

最終章に関わらず、本書のうちの多くの作品は主人公の幸せが約束された瞬間に幕が下りている。

それは彼女たちのこれから先の幸せ、すなわち『希望』を感じさせるためのものに他ならないと思う。

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