暑さ寒さもひがんでるについて
夫婦の関係
この夫婦は、とても愛し合っています。そのため、目つきだけで会話することができるようです。一般的な家庭でもできる目つきの会話はあるでしょうが、この夫婦は事件のことについてもできます。以心伝心という言葉は、信頼関係が深い人々とだけできることのように思えます。この夫婦は信頼関係が出来上がっており、相手の考え方がわかるほどに付き合いが長く、愛し合っているのだと思いました。しかし、「暑さ寒さもひがんでる」に出てくる内沢洋介と圭子夫婦は、お互いに愛し合っていたわけではないように思えます。内沢洋介が死んだあと、すぐに結婚をしようとした圭子も、圭子のお金を頼りに生活していた内沢洋介も、愛し合っている例である今野夫婦と比べてしまったらわかりやすいくらい愛し合っていないでしょう。お金持ちの家に生まれた圭子は、本当の貧乏暮らしというものを知らないというのです。その時点で内沢洋介はヒモと言えそうです。
内沢夫婦がなぜ結婚したのでしょうか。内沢洋介はお金持ち育ちの女性である圭子をはめようとして、結婚までしてしまった。そして、圭子の方も遺産相続をするためには20歳までに結婚している必要があるという条件をクリアーするという利害関係が一致してしまった。この理由が一番わかりやすいです。しかし、圭子はなぜ内沢洋介を殺さなくてはいけなかったのでしょうか。松永に内沢洋介が圭子と河村のことを話したらおしまいとはいえど、殺すまでしなくてもよかったのではないでしょうか。いきなり、殺すという結論に至ることはないと思います。殺そうとするのには、リスクがあります。内沢洋介を殺すことによるリスクと生きていることで発生するリスクがどちらの方が大きいのかが考え方の天秤にかけられるところだと思います。殺すという結論に至った理由として、4つの考え方が思いつきました。1つ目は、内沢洋介と離婚をしたら、遺産がもらえないだけでないだけでなく、内沢洋介が松永に話すというリスクを負わなければいけないという理由です。2つ目は、1つ目の対策として存続する際に内沢洋介に分け前を渡すことで口止めを図ることもできたが拒否された、もしくは内沢洋介にお金を渡すことすら嫌がり、殺してしまう方が良いと思ったという理由です。3つ目は河村との共犯関係を結んでいたため、後押しがあったという理由です。4つ目は、圭子が育った環境上の考え方です。
「目的のためには手段を選ばないのが、金持のやり方ですものね」
この言葉は圭子が松永に言ったものです。彼女がこの言葉通りに生きて、育ってきたのであれば、殺すという行動に移ってもおかしくないと感じたのです。殺した理由として、内沢洋介を殺すという天秤が重いものとなるのには、理由がなければならないのでそれなりの理由があったのだと思いました。
圭子の育ち方
圭子は祖父に松永敬一郎を持つお嬢様です。お嬢様というからには、わがままに育ったのだと思いました。お金持ちの育ちであったことは、彼女の言動からも読み取れます。まず1つ目は、松永のことを「おじいさま」と呼んでいる部分です。一般の家庭では、祖父をおじいさまと呼ぶ家はあまりありません。おじいちゃんのような呼び名で呼ぶのが一般的だと思います。しかし、お金持ちで祖父がすごい人ならば、敬意を払っておじいさまと呼ぶのではないでしょうか。2つ目は、大山が言っていた圭子は松永家から出た気でいるという発言です。出た気でいるということは、実際には出ていないということです。松永とは関係が続いているのです。それは、河村からお金をもらっていたという時点で、松永と関係のある河村とかかわっているのですから、関係が続いていると解釈しても良いと思います。3つ目は、松永の遺産をあてにしている部分です。関係を切るというのは、一切の連絡と松永の家の者との交流を切るということだと考えました。しかし、圭子はそれをまったくしていなかった。その時点で彼女が、貧乏を経験したことがないという大山の主張とも一致します。お嬢様として誰かが助けてくれる環境であり、手段を選ばなければ望むものは得られるという考え方で育ったことは、河村からお金をもらっていた愛人関係ともとれる関係性を持っていることがなによりの証拠なのではないでしょうか。
時代を感じさせる単語
この小説は1989年に刊行されたものです。そのため、約30年の月日を感じさせることができました。真弓と道田が大山を見張っていたとき、ポケットベルで呼び出されるということがあったようです。今の時代は、ポケットベルは一般的ではありません。携帯電話スマートフォンで呼び出されるでしょう。一般的であったのは1990年代前後ですから、その時代のサラリーマンを思わせます。とても時代を感じられながらも、誰からも読まれる、読まれやすい作品だと思いました。
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