マイペースでのんきな男、横道世乃介! - 横道世之介の感想

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横道世之介

3.403.40
映像
3.00
脚本
3.50
キャスト
3.75
音楽
2.75
演出
3.25
感想数
2
観た人
3

マイペースでのんきな男、横道世乃介!

3.03.0
映像
3.0
脚本
3.0
キャスト
3.5
音楽
3.5
演出
3.0

目次

みんなの心の中に、世乃介はいる…

「横道乃ノ介」を視聴した感想です。
何かすごい事件が起こるわけではないのに、不思議とずっと観られる作品です。
全体の雰囲気が心地よく、好感が持てました。

タイトルの横道世乃介を主人公とした、80年代が舞台の青春物語と思いきや、いきなり現代に場面が切り替わるなど、不意討ち的な緩急があって、面白かったです。
横道のいる80年代がファンタジーのようにフワフワした雰囲気で描かれるのに対して、現代の様子は、見ていて本当にリアルな感じがしました。

ストーリーの途中で、世乃介が他界してしまっていることが、急に明かされるのも驚きました。
しかも、ラジオの音声を通して、というやり方でです。

その後のストーリーは、「世乃介は死んでいるんだな」という事が頭に入った状態で観ているので、余計に切なさがありました。

しかし、不思議と主人公が亡くなっている事に湿っぽさがないのが良かったです。
世乃介の友人達が世乃介を回顧する時に、「そういえば、大学の時に横道って変なやつがいたな」と微笑んだ瞬間のような、そんな温かさが作品全体から感じられました。

全員平成生まれなのに、昭和感がすごい!


80年代の若者を演じたキャストの面々も、それぞれ演技が上手いと思いました。
ちょっと時代を感じるセリフ回しなんかもあるのですが、漫画のキャラクターのようにならず、自然に「そこに生きている人たち」のように見えて良かったと思います。
みんな平成生まれの役者さんですよね。
全然違和感なく見ることができて、すごいと思いました。

対して現代のシーンでは、それぞれが今時の言葉遣いになっているギャップを、よく演じ分けて入ると思いました。
また、全体的に長回しで撮っているシーンが多く、その中で細かいやり取りも多かったのですが、それぞれが違和感なく演じていて見やすかったです。

キャストの中で特に印象に残ったのは、加藤を演じた綾野剛さんと、祥子を演じた吉高由里子さんです。

加藤はちょっとクールなシティボーイという感じで、お洒落な部屋に住み、緊張するでもなく女の子とデートするような青年です。
田舎出で少年のような、世乃介とは対照的ですね。
加藤は世乃介と、ひょんな事から知り合い、最後には実はゲイであることを、カミングアウトするほどに心を開いていきます。

綾野さんからは、一昔前の大学生の雰囲気がすごく出ていて、作品の世界観にとても合っていたと思います。

現代のシーンでは、加藤も現代の言葉遣いや表情になっていて、それもまた自然に演じていました。
その演技の降り幅がすごく印象に残りました。

加藤と世乃介のシーンでは、加藤がゲイをカミングアウトしたシーンが印象的でした。
当時のゲイにとって、カミングアウトは勇気の要ることだったと思います。
しかし、世乃介が動揺せず、逆に加藤が「お前驚かないの?」と聞いてしまいます。
それに世乃介が、普通に「え?何で?」と答え、スイカを半分くれるシーンが面白かったです。

また、祥子を演じた吉高由里子さんは、「○○ですわ」「ごきげんよう」など、マンガのようなセリフが多いにも関わらず、キャラクター的になっていなくて良かったと思います。
「こんなお金持ちのお嬢様が、本当にいるかもしれない」と思わせる、説得力のある演技だったと思います。

お嬢様でありながら、天真爛漫で元気な祥子の言動は、観ていて「かわいいなあ」と思いました。

しかし、現代では化粧気のない顔に、無造作なポニーテールと、過去のお嬢様の面影はなくなっています。
いつもスカート姿だったのがジーパンになり、話し方もサバサバとし、表情にも貫禄があります。
十六年という年月の長さを、一人の人物の過去と未来とで、良く表現していると思いました。

世乃介、大学辞めたのかな…


世乃介はストーリーの終盤で、写真を現像したら一番に祥子に見せるという約束をします。
しかしその約束は、十六年経った現代で母親の手によって、やっと果たされることになります。
という事は、世乃介は結局、あの別れ以降祥子には会わなかったのかなと思います。

親友であった加藤や倉持とも、いつの間にか疎遠になっていたことからも、大学を辞めて郷里に帰って、そのままだったのかなあと思いました。

祥子に関しては、連絡するにはできたのでしょうが、しなかったのだろうなと思います。

家柄の事もありますが、それよりも世乃介は根本的に、「祥子と自分は違う」という違和感を持ち続けていたのではないかと思うのです。

二人にとって、長崎でボートピープルに出会った事件は、人生を大きく左右する出来事になりました。
その時に、祥子は世乃介の制止を振り切って、赤ん坊を助けようとします。

警察に知らせようとした世乃介と、目の前の難民を救おうとした祥子。
思えばここで、明暗が別れたのではないかと思います。

その事件から、世乃介は祥子との連絡を断ち、やる気の無かったサンバサークルに、逃げるように精を出したりしています。

結果的に二人は付き合うようになりましたが、世乃介の心の中には、いつもあの夜の事があったのかもしれません。

だから、人を助けるために亡くなってしまったのかもしれない、と思いました。

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他のレビュアーの感想・評価

悲しいはずなのに。。

この話の原作者吉田修一の小説が好きで、何冊も読んだ事があり、この作品はその中でも大好きな小説でした。ってこともあり、小説のイメージを壊してないかと思い観るのをためらっていましたが、吉高由里子と高良健吾が出演しているということで観てみました。観始めてすぐに原作のことを忘れてしまうぐらい高良健吾や他の役者さんの演技力に引き込まれ、あっという間に映画が終わってしまったという感じでした!ストーリーは原作にかなり忠実にそっていましたし、大事なところはしっかりと描かれていたので言うことは無いなという感じです。主人公が生きてる間、大学時代を謳歌している部分も観ている僕も楽しくなりましたし、その大学生活を懐かしむように思い出しながら今の生活を送る友達のストーリーもうまく表現されています。結果、横道世之介は死んでしまうので凄く悲しいはずなのですが、横道世之介のキャラクターとストーリー全体のほっこり感で涙...この感想を読む

3.83.8
  • クサちゃんクサちゃん
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