ギャンブルするだけではない人間のリアルさが分かる
命を賭けたギャンブル
王を決めるための選抜試験、そんな名目で始まったギャンブル対決。
大金持ちである在全無量が巨大な夢王国、ドリームキングダムを建設。しかし失敗すれば無傷で還れるハズのない地獄の場所。在全は自分の資産を賭けて世界の富豪と戦ってくれる猛者を探すためのギャンブルをしかけました。つまり、在全家の何兆円という資産を賭けて戦うための王を探すギャンブルなので、そう簡単には決着がつかないだろう、ギャンブラーが無傷では還れないだとうと読み始めの頃は想像していましたが、ギャンブルが続くにつれて死に直面する対決を読むのは怖くもあり、応援したくもありました。
最初の指切りの勝負の時から、失敗すれば指がなくなるというリスクが明らかになって、ハラハラ感は増しました。零がジャックの館に入った時に、直前の挑戦者が指を落とされ逃げるシーンが書かれていたのが、本当に「命を賭けたギャンブル」「無傷では還れないギャンブル」なんだと分かった瞬間でした。
そして「鏖の魔女」では、21人という大勢の人数を連れてギャンブルをすることになりました。館に入る前に十分に結束を高めていましたが、時間が進むにつれて零への信頼が薄くなり、零の確信のある推理にも関わらず、反対する者が出てきました。罵倒されたり、推理の邪魔をされたり蹴られ叩かれることもありました。自らの命を賭けている勝負だからこその名シーンだったと思います。
館から出た後に、ヒロシやユウキに見せたクタクタに疲れ果てた零の姿が、このギャンブルの過酷さを物語っていたシーンだと思います。
天下無敵のギャンブラー
零は天才です。
どんな時も冷静に対処して、勝利を掴んできたと思っています。
一番初めに挑戦したジャックとの指切り対決では、まだ冷静さが少なく判断が鈍っていたのでハラハラするシーンもありましたが、対決を進めていく内に、天才的な頭脳と冷静さで天下無敵になっていく姿が素敵でした。
特にザ・アンカーは冷静な判断が表現されていました。また天下無敵だと思われた零の推理が、崩れ落ちそうになったシーンは印象的でした。
ザ・アンカーで、小太郎の小癪な罠などにより零たちはピンチになりました。ユウキや末崎がクイズに正解できる見込みは少なく、目の前の刃の鋭いアンカーは目の前を通過していました。
そんな過酷な状況にも関わらず、会場に入った時から零は刃の付いたアンカーと自分の顔までの距離をしっかりと図っていました。この計測が後に零たちの命を救うのは、何度読み返しても素晴らしいと思います。
零は「二人の命は自分が守る」と誓っていたからこそ、会場に入った瞬間から状況を冷静に判断し、なおクイズに対していつも通り平常心で臨み、ギャンブルを続けていけたのだと思います。
最後の最後に、クイズの答えをわざと間違えることで、アンカーの刃を使用不能にするという判断が出来たのも冷静さを失わず、しっかりと状況を理解していたからこそ出来たことだと感心しました。
こういう強い精神力を持っているのも、天下無敵の王になれる素質を持つ人間なんだと思いました。
死に直面した人がリアル
本当に人が死ぬかもしれないと思った最初のギャンブルは「迷宮のトライアングル」です。
ヒロシが人質となり、徐々に水が入る水槽に入れられてしまいました。ヒロシやユウキが慌てた気持ちはもちろん分かります。仲間が、自分が死ぬかもしれないと思ったら、誰だって冷静ではいられません。もちろんギャンブルどころではなく、どうしたら仲間を助けてあげられるだろうか?自分は助かるか?と考えてしまいます。
そして自分が人質となった場合は、必ず命乞いをします。「ギャンブルなんて一か八かの勝負なんてするな!」「助けてくれ」と叫ぶに違いないと思います。ヒロシが目に涙をいっぱいためて命乞いするシーンは本当にリアルでした。クイズの紙が涙で滲んで読めなかったシーンは、「死にたくない」気持ちがストレートに伝わりました。
また「鏖の魔女」の館では、槍が出てきたシーンで「死に対する」人間の気持ちというのが切に感じられました。
零や板倉など比較的冷静に物事を考えられる数名の人間に対して、リングが欲しいために寄せ集めで来た人間たちは、「死」を感じる状態になった時、冷静さを失い自分の身を安じていました。
零たち21人は、鏖の館に入る前に零を絶対的に信頼すると約束し、結束を高めていたにも関わらず、制限時間が迫ってきたり、槍という当たれば死ぬかもしれないという凶器を前にしたことで零の推理に文句を言っていますた。もし私がこの「鏖の魔女」に参加していても、間違いなく零に対し文句を言い、自分の推理を披露して賛同を得ようとすると思います。タイムリミットを言われてると焦る人間の心理を上手く突いているなと思いました。
「自身の死」であったり「仲間の死」であったり、実際には人生で1度しか経験出来ない「死」というものが、リアルに感じられた作品です。
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