「あずみ」の始まり、そして終わりについて考える
爺はなぜ十名の子どもに殺し合いをさせたのか
「あずみ」1巻の第1話は、共に育ってきた十名の子どもたちが殺し合いをするという、衝撃的なストーリーから始まります。殺し合いの中で主人公・あずみは、好き合った相手であるなちを殺し、苦悩しました。
子どもたちに殺し合いを命じたのは、子どもたちの育ての親である「爺」こと小幡月斎。「この殺し合いで死ぬようなら、元々刺客になる素質がなかった。親しい者を殺せない弱い者も同様」という理由から、このような残酷な命を下したのです。
しかし、この点については、読み進めれば読み進めるほど疑問が生じます。何故なら、刺客の素質がある者は、多く残っているに越したことはないからです。刺客として育てられた子どもたちは世に放たれ、命がけで暗躍していくでしょう。その中で、子どもたちは討たれ、人数は否応なく減っていきます。それなのに、刺客として活躍させる前からわざわざ故意に半数にしてしまうメリットは、薄いように思われます。
また、子どもたちの殺し合いで、人数が半数「以下」になってしまう可能性もあります。作中ではそれぞれのペアが「殺すか」「殺されるか」のどちらかで幕を下ろしましたが、生き残った者が傷を負う危険性もあれば、最悪の場合、相打ちでどちらも死んでしまうという事態にもなりかねません。殺し合いをさせる理由に対して、リスクが高すぎます。
では、月斎はなぜ、多くのリスクを背負ってでも子どもたちに殺し合いをさせたのでしょうか。
その理由には、月斎に使命を下している南光坊天海の存在が大きく関わっているように感じます。あずみらが月斎の命令に従うように、月斎もまた、天海からの使命を受けて働く人物でした。天海からの命は、天下平定のために「枝打ち」をする刺客を育て上げよ、というもの。その命を忠実に果たすには、剣術的にも精神的にも、中途半端な強さの子どもではいけなかったのです。
また、あずみら十名を集め、育てる前段階で、すでに刺客を育成するための道筋を考え上げていた可能性が高いです。その過程で何が起ころうとも、必ず通らなければならないポイントを、月斎は自分に課していたのではないでしょうか。
後に、月斎が子どもたち一人ひとりに似せたこけしを自作し、常に身につけていることが発覚しました。このエピソードからも、月斎がどれだけ子どもたちを愛していたかが伝わってきます。この愛の深さは、月斎本人にとっても、恐らくは想定外のことだったでしょう。
しかし、天海からの使命を果たすためには、初志を貫徹しなければいけません。子どもたちへの残酷な命令は、月斎自身の情を振り切る意味もあったように思えます。
最終話ののち、あずみは死んだのか?
最終巻で物議をかもしたのが、物語のしめくくりです。あずみが自身の生まれ故郷かもしれない「安曇野」の村を去り、天海の元へと帰るシーン。歩いていくあずみの背中を、あずみの命を狙う男たちが付け狙う、という描写があった直後、物語は完結します。
この男たちは誰か?あずみはこの後殺されてしまうのか?
そういった憶測が飛び交いました。
しかし、「この男たちは誰か」という点は、さして重要なことではありません。感じ取るべきは、あずみが自ら、再び命を狙われる場所に戻ってきた、という事実のみです。あずみはこれからも、仲間を失い、苦悩を抱えながらも、戦いの中で強く生きていくでしょう。
あいまいにもとれるあのラストシーンでは、あずみの決意と、あずみの未来が表されているのです。
つまり、ラストシーンであずみを付け狙う男たちは、あずみにうまくかわされるか、あと幾ばくかで命を落とすことになるでしょう。
あずみが幸せになる道はあるのだろうか
物語は、あずみが戦いの世界へ再び身を投じる、という結末を迎えました。
しかし、あずみは何故、異人たちが平和に暮らす安曇野の村を離れたのでしょうか。
あずみは戦いに疲れ、安寧の地を求めていました。そんなあずみにとって、外界から閉ざされた、異人が暮らす安曇野の村は、願ってもない場所といえます。事実、あずみの滞在中も村は平和を保ち、村人たちもあずみを優しく迎え入れました。
それでも、あずみは村を発ちました。
何故?と思う人もいるかもしれませんが、これは自然なことだと思います。あずみはこれまで、多くの親しい人を敵に殺されてきました。また、どこかに滞在した際には、滞在先の人が戦いに巻き込まれました。
そんなあずみは、たとえ安寧の地を得たとしても、「また自分のせいで優しい人たちが殺されるのではないか」という不安に常に付きまとわれることになります。その恐怖は、戦いの地へ身を投げるよりも、もっと強いといっても過言ではありません。
その恐怖と別れるためには、優しい心を痛めながらも、戦いの中で生きるより他ないのです。
あずみが幸せになる道はあるのでしょうか。戦い続けるあずみの姿を望む反面、どこかのタイミングで現れた男性が、敵の手の届かない外国にでも引っ張り出してくれれば…そんなご都合主義的な希望を抱いてしまいます。
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