そこにあるのは現実、メッセージ性の強い作品 - め〜てるの気持ちの感想

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め〜てるの気持ち

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画力
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そこにあるのは現実、メッセージ性の強い作品

4.34.3
画力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

オマージュをオリジナルにする奥氏の手腕

この作品は、奥浩哉氏が、今や代表作と言ってもよいGANTZを連載中に、隔週連載でややファンヤキモキさせていた頃にGANTZと同時連載していた作品である。

GANTZの連載にブレーキをかけてまで描きたかったものは何なのか?非常にそれだけでも興味深い。

奥氏といえば、GANTZがザンボット3のオマージュだと公表していることでも有名であるが、そもそもザンボット3以前に、GANTZ自体要所要所に色々な作品のパロディを盛り込んだものであり、最近最終回を迎えた「いぬやしき」でも、アルマゲドンに似た描写が散見される。

しかし、奥氏の作品には、オマージュ元を超えたオリジナリティを伴っている。実写映画やアニメ、小説などの媒体で次々に表現の場を広げていったのも、そのオリジナリティが他の作家や映画監督の二次創作欲をくすぐる力があるからとしか言いようがない。

そういう意味では、め~てるの気持ちも、よくよく考えるとタイトルからして、銀河鉄道999のメーテルを感じさせる。メーテルは鉄郎にとって、母であり恋人でもあった。この作品のはるかも、慎太郎にとっては義母であり恋人だった。奥氏から正式にコメントが出たわけではないので推察になるが、999とは似ても似つかぬ内容であるものの、一人の男性を女性が見守るという意味では、この作品もオリジナリティを持ったオマージュと言えるのかもしれない。

珍しい非現実要素がない作品

奥氏の作品は、SF物が多かったり、HENのようなギャグテイストの物でも、前世がからんでくるなど、非現実的要素をどこかしら内包している。しかし、このめ~てるの気持ちに限っては、強いて言うならアラカンの父親が23歳の美人と再婚するわけがないという程度で、現実にあり得る内容になっている。

実際年の差夫婦はあり得るし、いぬやしきのように自分がロボットになってしまったりすることを思えば、父の死後その美人の義母と息子が恋愛関係になってしまう可能性はないとは言えない。

しかも引きこもりで父親が悩み、ガンを告げられ死亡、その後義母が残された引きこもりの息子をどうにかしようと奮闘する。こんなリアルな作品は、奥氏の作品としては珍しい。

性描写は奥氏のサービス精神としても、作品に流れる大きなテーマ自体は、非常に深刻で社会に訴える力を持っている。奥氏は、あえてGANTZの進行を遅らせてでも、社会の若者に対して啓蒙したいことがあったのではないか。引きこもりの厳しい実態を描いた描写が、それを感じさせる。

突き放す優しさ

夫の安二郎を失ったはるかが、引きこもりの慎太郎と向き合うにあたり、遥の考えがよく分からないという人もあるだろうと思う。

面倒を見ると日記で誓ったはるか。しかし面倒を見るという事は、慎太郎の恋人になって性行為をすることなのか?そして、ある日突然黙って出て行ってしまうのはどうしてなのか?確かに行動はちぐはぐだ。

しかし、実際はるかのような立場で年上の義理の息子が引きこもり出会った場合、どこか諦めている年配の安二郎と違い、支え方について葛藤が色々あったのではないだろうか。

最初は、自分が養いながら支えていけばよいと、ほぼ安二郎の方法を引き継ぐつもりだったろう。しかし、若い女性なら、年が近い慎太郎に好意を持ってもおかしくない。自分が母から恋人になったら自信を持ってくれないか?そんなことを考えた可能性もある。最初は母として毅然と振舞うつもりであったといっても、23歳。まだ社会経験に乏しい女性だ。気持ちも揺れたろう。詳細描写がないので唐突さも感じるが、彼女なりに引きこもりの原因に慎太郎の自己肯定感の低さを感じ取っていたのかもしれない。

また、いきなり突き放したのは、はるかが病気になった際に一歩も外に出られなかった慎太郎が、吐き気を催しながらも必死で食品などを購入しに行ったことがヒントになったのではないだろうか。

追いつめられれば彼は何とかするかもしれない。そういう意味では彼女の苦渋の決断が理解できる。

救いある結末

奥氏の作品は、ブツッと途中で切れてしまったように終わってしまう展開が多く、非常に不思議な終わり方をする作品が多い。しかし、この作品に限っては慎太郎が世帯を持ち、自営業を営むまでに変わり、はるかに感謝を述べるところで終了する。

慎太郎が序盤苦労するところまでは描かれるものの、自営業を営み、家庭を持つまでの詳細描写は割愛されているが、依存する先が無くなったことで彼が生まれ変わったことだけは間違いない。

このように、人は変われるというはっきりとしたテーマ性を持った作品は、奥氏の作品としては珍しい。誰にでも受け入れられるラストに配慮されたような感もあり、多くの人に読んでもらいたいという著者の思いを感じる。

ヤンジャンという媒体に適した作品

性描写の関係があるとはいえ、購買層の年齢を考えると、週刊少年ジャンプではなく週刊ヤングジャンプで引きこもりをテーマにしたことは、社会的に意義があったのではないだろうか。

ヤンジャン世代の引きこもりは、まだ若いのにやり直す気持ちもなく、なまじ親が元気なため、親の庇護の下にいればよいと、危機意識を大して持たない人もいただろう。

しかし、はるかが出て行った後の慎太郎の餓死寸前の姿こそが現実なのだ。固定資産税が支払えず、父が残してくれた家まで失った慎太郎。これを見て、何か考えさせられたヤンジャン世代のニートもいるはずだ。

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