目次別レビュー、芸達者な作者! - 遠まわりする雛の感想

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遠まわりする雛

4.634.63
文章力
4.38
ストーリー
4.25
キャラクター
4.63
設定
4.50
演出
3.88
感想数
4
読んだ人
7

目次別レビュー、芸達者な作者!

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
3.5

目次

やるべき事なら手短に。奉太郎の才能の目覚め。

古典部シリーズ第4巻なのにも関わらず、入学してから間もない時の話だったので当然驚きました。この頃から、奉太郎の推理の方向性が見えますね。奉太郎が重視したのは、千反田えるを納得させる事でした。正直に言って流石は省エネ主義です。しかし面白いのが、千反田えるるを納得させるということは、辻褄を完全に合わせないといけないということ。そうなると、辻褄が完全にあった推論=実際に起こった事実になってしまうんですよね。奉太郎の推理はここから更に開花していくわけなのですが、やはりはじめということもあって、里志の協力を仰いでの完結となりましたね。個人的には、もし奉太郎が真面目に女郎蜘蛛の会と知恵比べをしたら。という展開があってほしかったです。

大罪を犯す。軽いのに奥が深い良質な謎。

この回で私が気に入った点は、問題自体は極めて簡単な謎だというところです。αとdは確かに似ていて、読み間違えてしまう可能性が潜んでいる文字ですね。ですが始めは本当に真相がわかりませんでした。それをだんだんとキャラクターのセリフの中にヒントを織り交ぜて、最後には奉太郎達と共に、あ!なるほど!となれる点が素晴らしいいです。簡単な問題を最大限に難しくして、さりげなく伏線を張り、最後には後味の良い謎になっている。まさに、ミステリーの理想形の要素を凝縮した回だったと思います。ここまで気持ちの良い謎にはそうそう出会えないと思います。

正体見たり。学園日常ミステリーの物足りなさを払拭。

この作品を読んでいて私がずっと気になっていた点は、物足りない。という点でした。たしかに日常系ミステリーの場合、何か凶悪事件も起こらないし、ましてやそうとうの事がないと殺人なんて起こせませんよね。なので、読んでいて面白くはあるものの、ハラハラした感覚、スリルは望めない作品なんだと割り切っていたところに、この回が登場しました。正直に言って、普通に怖かったです。オチがわかればなんともありませんが、ページをめくりながら襲ってくるハラハラドキドキといった感覚が、この回ではズバ抜けていました。日常系なのにこのスリルが体感できるって、本当にすごい事だと思います。設定も上手く作られていて、最初から最後まで楽しめました。今回も、なんとも絶妙な作者の技が輝いた回だったと思います。個人的には、このお話で映画一本作れちゃうんじゃないか…なんて思ったくらいです。すごく濃い内容のお話でした。

心あたりのある者は。奉太郎と千反田だけなのにこのボリューム!

今回は伊原と里志は登場しませんでしたね。たしかに彼らの存在はこの作品に欠かせないですし、いないとなんだか寂しくなってしまいますが、この回ではあえて出さなかったのか、一度も2人の描写がなかった所がすごいなと思いました。この作品で必要不可欠なメンバーを2人も抜いて、残った2人だけで充分すぎるクオリティの回に仕上げているんですよね。それに加えて、全く推理の質が落ちていない点がかなり高評価です。むしろ、2人に集中してフォーカスを当てる事によってより深い作品になっているような気もします。内容の方も大変充実していて、放課後のアナウンス一つでどこまで話を膨らませるんだ。って感じですよね。それなのに、なぜか辻褄は合ってしまっているという不思議な構成で、読み応えも抜群。この回をきっかけに私自身も視野を広げて考えるということを実践しています。読者に新しい考え方を見せてくれる優しい回でした。

手作りチョコレート事件。シリアスな展開を盛り込んで質を向上。

まさか犯人が古典部のメンバーだったとは驚きです。恋愛要素とシリアス要素を取り入れたうえに、里志を犯人にするという発想は天才的ですよね。古典部メンバーが犯人だなんて、誰が予想できたでしょうか。またバランスも絶妙で、伊原も里志もそれぞれ真面目なんですよね。里志の葛藤にもすごく共感できるんです。ただ、やはり伊原がかわいそうで仕方ないんですよね。そこに事情を察した奉太郎も現れて、さらにビックリ。奉太郎が怒ることはこの作品では無いと思っていたのですが、良い意味しっかり予想を裏切ってきますよね。そんな中、自分のせいで伊原のバレンタインを邪魔してしまったと罪悪感を感じる千反田もいて、チョコレートよりもドロドロしてきたと思いきや、最後はまた気になる展開で終わるという締め方でした。すごく心に色んなものが残りますが、それがまた読書欲をそそりましたね。後半のお話なのに、手作りチョコレート事件からさらにページをめくるペースが上がってきました。今後、里志と伊原の恋愛面もすごく気になりますし、奉太郎の推理にも目が離せない。いくつも楽しみを残していく凄まじい作品でした。

とにかく読んでいて飽きない作品だと思います。また、古典部シリーズには今までなかったショートショートという点がさらに読みやすく、その分謎も多くなっていて非常に評価が高いです。また一巻目から読み直したくなる、とても作り込まれた作品でした。

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