会えなくとも誰かを想い続ける時間もまた大切 - 僕等がいたの感想

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僕等がいた

4.004.00
画力
3.50
ストーリー
3.63
キャラクター
4.00
設定
3.88
演出
3.88
感想数
4
読んだ人
5

会えなくとも誰かを想い続ける時間もまた大切

5.05.0
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.5

目次

死んだ人には勝てないのか

この作品は、映画でもかなり流行った作品。ほんと、何歳になって読んでもグッとくるし、幅広い年代から支持を集める。

矢野元晴と高橋七美の物語。でも2人だけでは絶対完結できなくて、どの人も必要不可欠。みんながいなかったら、付き合うことも、誰かを愛しいと思うことがどんな気持ちなのかも、わからなかった。人を好きになるのに、笑顔がどうだとか、優しさがどうだとか、そういうことじゃなくて、「この人、いいなー…」って思えたら恋なんだよなー…って思うんだよね。それがこの漫画だとストンと落ちる感じで納得させてくれる。

年代が変わっていっても誰かを想い続けて生きていく。それは死んだ人を恨んでいるのか、愛しているのか…いつまで経ってもしがみついてでも欲する勇気が持てなかった矢野。そんな彼が欲しいと思うものをくれる高橋。絶対に手放してはいけなかったのに、彼にはいつも誰かの死が付きまとい、綺麗なものまで汚してしまう気がして、手放してしまった。自分が汚れていると考えるほうが楽だった。がんばってまた同じだったら立ち直れないから…本当は、とっくに愛されていたのに、自信が持てなかった矢野の切なさと言ったらすごい。

生きている人は死んでしまった偉大な人にはいつまで経っても勝てない。勝負することはできないし、死んでしまった人こそ美化されて、どんなことを言ったって誰も何も言わない。比べることすら敵わないから、負けている気がする。いつまでも縛られている気がする。いっそ忘れてしまいたいのに、それができない…矢野の彼女のことはさ、竹内がいて、高橋がいて、彼なりに決着をつけれたはずだった。なのに、母親まで自分から離れて死んでしまうなんてさ…どこまで彼を苦しめれば気が済むんだろう。そして読者はこういう苦しみに弱い。助けてあげたくて、ついつい読んでしまう。

あいつといると気が緩む

矢野は高橋といると気が緩む。人の裏を考えて、人は裏切るものなんだと思い込んで、誰かの優しさも本物じゃないって思う。そうやって生きていても、矢野はイケメンだし、基本気さくで優しいから人が集まる。表面上の付き合いならいくらでもできる。誰も俺のぐちゃぐちゃな気持ちまでは知ろうとしないし、それでいい。踏み込まないでほしい…ずっと引きずって、ずっと狂ったままでいい。

その壁を怖がりながらも壊して、というか、溶かしてくれたのが高橋だったね。矢野自身のことを見てくれる、唯一の人。明るく、照らしてくれる人…方位磁石っていうたとえはいかがなものかと思うものの、矢野は高橋のおかげで人を好きになりたいと思ったはず。矢野なりに、高橋を幸せにしたいと思って行動しているのが本当に微笑ましかった…前半は、矢野と高橋の幸せな時間が積み重なっていくのをみる物語。山本さんの影がちらちらしまくってて、いつ高橋にバレるんだろうってひやひやしっぱなしだったけど、何となくバレてもどうにかなるんじゃないかなって思ってた。

しかし…後半戦がもっとひどくて。矢野は山本さんと同棲しやがるし、どこまで自分をいじめて、恨んで苦しむ道を歩こうとするんだろう。彼は母親を恨むことなんて絶対にできない。だって優しくて、確かに自分の母親だったから…もう何なのこの環境…!でもね、そんなことしようと無駄なんだ。高橋は、何を言ったって、矢野しか想っていない。矢野しか待ってないんだよ。もどかしくて、いらいらして、幸せになってもらいたくて。後半戦はずっとその連続だ。

矢野ってやっぱりモテるよね

基本的に人に優しい人間。意地悪も愛情の裏返し。だから矢野ってモテるんだよ。経験したものがその人の空気をつくるんだと思うんだけど、現実にいたらたぶん細目で笑うのが良く似合う俳優さんみたいな空気になるんだろうな。

結局、男も女も関係なく、矢野には惹きつけられてしまう。ムードメーカーってほどでもないのに、一目置かれてしまう。勉強もスポーツもできるのに、飄々としていて自慢する気もない。友だちを大事にするし、女子にキャーキャー騒がれても無作為にとっかえひっかえなんかしない。ただいるだけで、人の中心になってしまう人間。

奈々さんのことは、本当に矢野が好きだったんだなーって思う。美人で、なんで我慢しているのかわからない、複雑な心にむしろ惹かれてしまう…それほどまでに、愛されたい。何をやったって、そばにいてくれるような人を選びたい。矢野は、母親のこともあって、ずっとたった一つでいいから、自分を愛してくれる人を探していたんだなー。

矢野は自分のこともわかっていただろうし、本当はそんな人間じゃないんだ…って反抗期もあったんだろうって思うんだよね。だから、高橋をいじめてみたり、近づいてみたり…わざと人を試して、“嘘”じゃないものを求めた。そして確信できるとわかったくせに、分かった途端自分からわざと離してみたりする…いったい何がしたいの?ってほど、こじらせていた。こじらせているってこと、竹内はわかっていたけれど、彼もまた矢野を大事に想うからこそ、何て言葉をかけてあげたらいいのかわからなくて…。やっぱり、高橋しか、矢野の心深くに入り込める人間はいないんだなー…。って早く気づけ!と何度叫んだかわからない。

竹内くんも七美と同じだった

竹内はさ、七美に恋していたのは確かだし、親友の矢野が高橋に揺れているのもわかっていたから、身を引いていたんだと思う。高橋が泣くなら、俺が…そう思って高橋のそばにいることを選んだのも、本当の気持ちのはず。

だけど、最後の最後まで、竹内は高橋を矢野に返すつもりで、ずっとそのスタンスを崩せなかった。竹内が誰より、矢野という存在に救われていて、憧れていたから。彼を陥れることがしたいんじゃない。俺が矢野元晴を救いたいんだ。そんな気持ちが見えちゃってもう切ないというか複雑すぎた。高橋を想うからこそ、高橋のもとに矢野が行ってほしいと思っているように描かれているけど、竹内が救いたいのは高橋だけじゃなくて、矢野だった。…もうどんだけいい人なの。カッコいいよ。いつでも一歩引いて、自分が大事にしたい人たちが幸せであることを願い、幸せになれるようにそっと優しく行動してくれる…いい旦那になるわ…

矢野だってね、竹内のそういう優しいところがわかっているから、俺がダメなら竹内に高橋を…って心の底から考えていたよ。でも、そういうことじゃないんだわ。竹内もまた、君に恋しているのと同じなんだよ。

家族になりたい

最後は、何よりも強い絆を求めてさまよってきた、矢野のこの言葉で締めくくられる。ずっと離れ離れだったけれど、離れても変わらず君が好きだ。もうそれだけで、高橋は今までの時間すべてに意味があったと思えるし、16巻も読んできてやっと自分も報われた気がした。いつもたどり着く答えはシンプルなはずなのに、どうしてこんなに迷うんだろうね。でもそれが人間だってことだし、生きているからこそなんだ。この漫画は男女問わず、年齢問わず、読めばいいと思う。人を大事にしよう・正直に伝えようって絶対思えるはず。

矢野も高橋も、幸せ者。こんなに大事にされて、想われて。それは矢野も高橋も、人間的魅力にあふれる人だからこそだし、愛されるには愛さなくてはダメなんだよなーと教えてくれる。たとえ矢野が戻ってこなくても、高橋はずっと待ってただろう。求めるよりも、与えたいと思う高橋を、私も見習いたい。

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僕らがいたは懐かしくて切ない気持ちにさせてくれる

主人公は高橋七美。高校1年生になったばかりの彼女は新生活に、胸をときめかせていたのですが、同じクラスの矢野元晴はクラスの中心的存在。徐々に惹かれあう二人ですが、矢野には昔付き合っていた彼女を亡くした、悲しい過去がありました。時を経て、晴れて両想いとなった二人ですが、矢野が東京で暮らし始めることになり遠距離恋愛が始まりました。再開を夢見て上京した七美でしたが、矢野とは音信不通になってしまい、健気に待ち続ける七美が、ようやく再開することが出来たのは七美の知っている彼ではありませんでした。相思相愛でも上手くいくとは、限らない恋愛漫画だと思います。矢野の幼馴染でもあり親友でもある竹内匡文は、優しくて頼りがいのある人物で七美のことが好きでした。七美にとっては良き相談相手で、結局のところ二人は上手くいきませんでした。矢野は東京で七美ではない別の女性と同棲していました。彼女の名前は山本有里、亡くなっ...この感想を読む

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