レーベルの歴史を変えた一作 - 鋼殻のレギオスの感想

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鋼殻のレギオス

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レーベルの歴史を変えた一作

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映像
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ストーリー
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キャラクター
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声優
4.0
音楽
3.0

目次

富士見ファンタジア文庫の最終兵器

この作品がつくられた二千年代後半はライトノベルのアニメ化の全盛期が到来していた時期だった。「涼宮ハルヒの憂鬱」が大ヒットし後を追うように「とある魔術の禁書目録」が成功したことで決定的な流れができていた。当時のライトノベルは三大レーベルと呼ばれ「涼宮ハルヒの憂鬱」は角川スニーカー文庫、「とある魔術の禁書目録」は電撃文庫で原作が作られ勢いに乗っていた。それに対し富士見ファンタジア文庫は大きなヒット作には恵まれずにいた。かつては「スレイヤーズ」や「魔術士オーフェン」などでトップレーベルとなり「フルメタル・パニック」なども話題になっていたが徐々に時代から取り残されようとしていた。僕自身十年以上富士見ファンタジア文庫のファンだったのでライトノベル全体が広く知られることはうれしかったが少し複雑な思いをしていた。

そんな状況で満を持して作られたのがこの「鋼殻のレギオス」だった。原作は発表当初から絶大な人気を誇り一躍富士見ファンタジア文庫の顔になった久々のヒット作だった。それほどの人気作だったのでレーベルもかなり気合を入れてアニメ化していた。当時はほとんどのアニメは1クールだったのに対し2クールの尺を取り人気の声優をキャスティング、主題歌も人気の作曲家に依頼しまさに万全の体制でのアニメ化だった。僕も放送が始まれば再び富士見ファンタジア文庫がトップレーベルになるのではと甘い期待をもっていたが放送が始まるとその期待は徐々に霧散していった。その原因はいくつかあるのでその後の富士見ファンタジア文庫の動向含めて考察しようと思う。

アニメにする際の要点を満たしていなかった

ライトノベルはよくアニメ化されているが実はそれほどアニメに向いているジャンルとは言えない。アニメ化するためにはいくつかのハードルがあるのだ。まず挙げられるのは尺の問題だろう。ライトノベルに限らずアニメとなる原作は最初からアニメになることを想定して作られているものを除けばアニメの三十分や1クールで一区切りつくような尺になっておらず必然的に元の要素を削るか付け足す必要がある。その中で大事なのは原作の大事な要素、もっと言えば人気の出た要素を判断し残すことができるのかということだ。「鋼殻のレギオス」でいえばアクション描写があげられるだろう。主人公のレイフォンはその世界でトップレベルの実力者で超人的な戦闘能力の持ち主だ。このレイフォンの戦闘シーンをしっかりと描くのがまず求められる要素だった。しかし実際のアニメはというと動き自体はよく動いているが原作の描写を大きく削りファンとしては物足りないものだった。この時点で原作の魅力は半減しているといえる。

次にあげられるのはライトノベルの一番の魅力である挿絵の問題である。ファンタジー作品に多くみられるが独特のデザインで緻密に書き込んだイラストが多く、少し動かすにも大変な労力を必要とする。特に「鋼殻のレギオス」のイラストレーターである深遊さんはデジタルが主流になった時代でも手書きにこだわり非常に緻密な書き込みをする人で、それが人気にもなっているのだがアニメにするときは大きな障害となっていた。結果として緻密なデザインはかなり簡略化されたものとなりアニメのキャラクターを見るたびに何か違うと思わざるを得なかった。

この二つの要素を満たすことは非常に難しかったと思う。「鋼殻のレギオス」はまだ完結していない作品だったので全体を見ればどの要素が重要なのかは判断できるが未完結の作品で判断するのは難しい。挿絵の問題にしても技術的な問題で原作の通りの絵をアニメとして動かすのは不可能に近くそもそもがアニメにするのに向いていない作品だった。

大きく変更されたキャラクター

アニメで大きく変更されたのはキャラクターの代表はニーナであろう。原作ではレイフォンに彼女の特性を生かした技を教えてもらいその技を使ってレイフォンの援護を行うなどアクション部分で一定の見せ場もあり物語上でレイフォン以上の成長を見せる第二の主役とも呼ぶべきキャラクターなのだが技を教えてもらうくだりはすべてカットし必然的にアクション面での見せ場はほぼすべて削られた。それにより成長部分もなくなっているのでキャラクターの魅力が大きく減ったと言わざるを得ない。ニーナは自分の未熟さに悩みそれゆえに物語を動かしていくキャラクターでもあるのでそちらの要素のみを残したのだろうが成長しながらもその力が足りないと悩むので説得力が生まれるのだが弱いままで悩んでいても一人よがりで回りが見えていない点が強調されあまり共感は得られないだろう。

強引かつ唐突な外伝

「鋼殻のレギオス」は本編の前日譚となる外伝が書かれているのだがあくまで外伝でありそれを読まなくても本編を進めるのに問題ないものだった。しかしアニメの中で何の説明もなく突然外伝の映像が流された。もちろんそんな描写は原作になく部屋に置いてあるテレビに急に流れているなど唐突なもので、その上すべての音声が英語で字幕もなかったのでほとんどの視聴者にはなにひとつわからない謎のシーンだった。おそらくは外伝の宣伝のつもりで加えた要素なのだろうがそんなものを入れる暇があるのならば本作の肝であるアクションなどにもっと力を入れてほしかった。このことに代表されるようにライトノベルのアニメ化とは原作の宣伝になっている面が強いと思う。アニメ化した作品としていない作品では売り上げは天と地ほど違うので仕方ないことではあるが純粋にアニメとして楽しみたい原作のファンなどには悲しい話である。

富士見ファンタジア文庫の転換点となった

結果としてアニメ「鋼殻のレギオス」は事前の期待値を満たす作品にはならずよく言っても凡作としか言えないできとなった。原作もアニメ化以降人気が徐々に失速し明らかな引きのばし要素が多くなり少し残念な結末を迎えてしまった。ライトノベルのアニメ化の時よく行われることなのだがまだ書かれていない展開や物語のオチなどを事前に聞きその流れに沿った展開にすることがある。完結した原作を読むとかなり近い展開にはしているが細かい描写が省かれているのでこれならば別のオチにしてもよかったのではないかと思った。アニメの不評を受けて原作者の雨木シュウスケ先生のモチベーションが下がったせいで原作にも影響が出たとも言われるほどなので作品としてはマイナスの部分が多いアニメ化だった。富士見ファンタジア文庫はこれ以降美少女キャラクターを前面に出した萌え系の作品が多くなりアクションで押す作品は少なくなっていった。ライトノベルレーベル全体でいえば上位の売り上げをあげているので良い転換の機会ともいえるかもしれない。この作品以降もライトノベルアニメ化は続いているが上記のような要素を満たした上でアニメとして面白くできるからアニメにする、というよりもアニメにすること原作の知名度を上げ売り上げを上げようという意図が透けて見えるアニメ化がほとんどだった。僕自身かつて富士見ファンタジア文庫のアニメを見て原作を読むようになったものなのでその効果は自分でもわかってはいる。だからこそ生み出す作品のクオリティは高いものを期待してしまうのだがそれも古い考え方なのかもしれない。一人のファンとして富士見ファンタジア文庫には真摯な作品作りを続けてほしいと願う。

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