寡黙で静かなムードが深い味わいを醸し出す、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の遺作となったフィルム・ノワールの佳作 「リスボン特急」 - リスボン特急の感想

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寡黙で静かなムードが深い味わいを醸し出す、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の遺作となったフィルム・ノワールの佳作 「リスボン特急」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.5

パリから遠く離れた海辺の町で銀行強盗事件があった。パリ警察のコールマン警部(アラン・ドロン)には関係のない事件だったが、強盗のリーダーはコールマン警部の友人シモン(リチャード・クレンナ)であった。シモンは、強盗の際に負傷した仲間を用心のために抹殺するが、そのためにコールマン警部はシモンの犯罪に迫っていくことになるのだった-------。

フランス映画の「サムライ」「仁義」などのフィルム・ノワールの名匠である、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の遺作となったこの作品は、波の音だけが響くような霧深い海辺の町で、4人組の強盗が銀行を襲撃するところから幕を開けます。

言葉は極めて少なく、周囲の音も最小限に抑えられて静かに展開する映像のリズムは、まさしくフランス映画のフィルム・ノワールの響きだ。これにアメリカ的なドンパチと香港式のカンフー・アクション及び香港的な泥臭さを加えると、"香港ノワール"になりますが、派手な銃撃戦ではなく一発の銃声が静けさを破って、観ている私の胸に響きます。これこそが、"フランス・フィルム・ノワール"の魅力だと思う。

冒頭の銀行強盗事件と平行線を辿りながら、パリ警察のコールマン警部がパリの夜に遭遇するいくつかの事件を描き出していきます。そのどれもが静かで、説明的なセリフなど一切なく、映像そのものが語り得るだけの省略された表現方法で、ストイックに貫かれているのです。

その一貫したスタイルが、この映画の全編に渡って徹底されているので、映像にしっかりと対峙していないと混乱を招く恐れがあると思う。その最たるものが、コールマン警部と強盗のリーダー・シモンとの友情関係だ。二人の過去を語る言葉は一切なく、画面上で二人が合う最初の場面では、アラン・ドロン扮するコールマン警部が、静かにピアノを弾いているだけだ。

ここで初めて登場するカトリーヌ・ドヌーブにしても、リチャード・クレンナ扮するシモンの愛人でありながら、ドロンとも情を通じている女なのだという役柄を説明するセリフはもちろん、ドロンとの間に言葉は一切ない。手のひらに乗せたくちづけを、フッと吹いて交わす投げキッスに漂う甘いムードが、男と女の関係をわずかに伝えるだけだ。

この二人の関係の説明の省略を、単に不足だと感じるか否かは、この作品の一貫したムードに酔えるか否かの別れ道であり、観る者の感じ方によって作品全体の印象も違ったものになると思う。

だが、そうした描写の一貫性によって、見せ場とも言うべき麻薬強奪場面でのヘリコプターから走るリスボン特急に乗り移るというアクションにさえ、作品の流れのままに、あくまでも静かなムードを醸しだし得ていると思う。

そして、最後にこの二人の男は、刑事と犯人として対峙することになる。そこに響き渡る一発の銃声が重く心に残るのは、ひとつのムードを頑なに貫き通したからに他ならない。

無言のアラン・ドロンの顔を延々と映し出すエンディングは、文句なしに渋く、冒頭の文字や劇中のセリフによって繰り返される「刑事が人間に抱く感情は、疑いと嘲りだけである」という言葉の持つ意味を、映像が視覚的に説明し、私の心に深く染み込むような味わいを残してくれるのです。

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