死の恐怖に耐えて心の奥底で守り通さねばならぬ掟を守り通した男を、クールに冷えたロマンチシズムで描いた秀作 「サムライ」
ノウブレス・オブリージという言葉があります。貴族には貴族としての義務がある、といった誇りから出た言葉です。今では、ひとつの身分に伴う責務といった意味にも使われます。明治32年新渡戸稲造博士は、アメリカで、西欧に日本の道徳と思想を知らせようと、名著「武士道」を著した時、この武士道を「サムライ階級のノウブレス・オブリージである」と定義しました。フランスのフィルム・ノワールの鬼才・ジャン=ピエール・メルヴィル監督が、アラン・ドロン主演で、若いパリの殺し屋の末路を映画化しようとしたとき、先ず頭に浮かんだのは、新渡戸稲造博士のこの武士道の定義だったのではないかと思う。メルヴィル監督は、この映画の題名を「ル・サムライ」とつけた。フリーランスの人殺し専門家のドラマだ。殺し屋には一匹狼だろうと常に「殺し」に伴うノウブレス・オブリージがある。自分ひとり、死の恐怖に耐えて心の奥底で守り通さねばならぬ掟がある。...この感想を読む
4.54.5
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