誰もが知っているからこその高いハードル
心ときめくヨーロッパ…?
ジブリの魔女の宅急便を知らない大人は少ない。みんながそれを観て育った的なところさえある。あの映画の楽しさと、世界観を誰もが知っている。だからこそ、実写版にかける期待は…難しいものがあった。
せめてね、これだけは言いたいんだけれど、天下の魔女の宅急便なので、ロケは海外でやってほしかったよ。キキが1年修行のために暮らすことを決めた街ってのは、もっとこう…ファンタジーの世界なの。レンガと海と森の街なの。それ以外は絶対に許せないわけ。それを瀬戸内海でやるんだもんなー…キキの暮らす街は香川県じゃない。もっとカタカナの似合う街よ。たしかに、ちょうどいいくらいにだだっ広い平野・その中の一本道とか、うまくハマってはいたんだけどね。街並みはとにかく大事な要素。
13歳の半人前魔女のキキは、親元を離れて1年間知らない街で暮らすことが魔女になる条件。ただ暮らせばいい。それが「魔女」にとってはとても難しい条件なんだよね。どういう風に生きるかも全部自分で決める。でも生きていくには、誰かに関わらずに生きていくことはできないんだよね。誰も助けてくれない場所で自分を試す。確かに相当なメンタルを鍛えられそうじゃないか。いいことも、悪いことも、1人になってみて見つけられるものだからね。それを伝えるにはいい映画だったと思うなー。自分が人を信用できているか、自分が信用される人になれているか、その時々にどんな選択をすることが必要なのか。それはもう社会にもまれて知るしかないことだから。
だけどやっぱり、キキの暮らす街はもっと…ヨーロピアン…。
元気いっぱいのキキ
小芝風花のキキは、確かにいい演技だった。ぎこちないけど元気いっぱい。それこそキキだなーと思う。一生懸命、ぶつかっていくことが大事だと思うんだよ。笑顔でいたら、きっとがんばれる。そう思ってこの街に来たのに、誰かを喜ばせたいと思ったのに、意図せず誰かを傷つけてしまうこともあると知る。魔女だからと忌み嫌われることがある。つらくて、魔法を失って、自分には何もできないと思うキキ。そこで奮起できるかどうかは、すべて自分にかかっている。そういうときに、自分を試すような出来事って絶対やってくるんだ。その時に、真剣に、
私が運びます!
と決めたキキは、かっこよかったよ。飛びたくても飛べない。でも私がやる。決意したときに、トンボがほうきを直してもってきてくれた。魔法がなくてもトンボを助けたキキ。そういうキキだからこそ、トンボも何かをかえそうとしてくれたわけで。魔法がないから・あるからなんて関係ないんだよ。進むか、進まないかは、意志にかかっている。
決意したときにしか物事は動かなくて、動いても戻ったりもして、苦しいことばかり。それでも、歯くいしばって立つ以外に方法は決してない。泥臭くなれてこそ一人前。魔女だからこそ受ける羨望や落とそうとする悪意。それに向き合ってこその魔女である。一人暮らしさせるこの制度、なかなかイカしてるよね。私もやられたかった。何歳だろうが自分だってそういうつもりで生きていこうと思う。子どもがいたら絶対やってあげたい。
魔女を利用する女
魔女が呪いの手紙を運ぶ。
すっかり利用されちゃったキキ。それまで順調に宅急便の仕事をもらっていたのに、邪魔するものは必ずあるんだね。物事が進むときに、一直線に舗装された道は絶対にないんだ。魔女の場合、必ずその奇妙さ・危うさ・疑いが種になる。代々の魔女はそれを経験してきたんだろうなー。表現はだいぶマイルドだけど、これってけっこうデカいことだと思うんだよ。当たり前に向けられる視線の中に差別がある。はっきり言うとそういうことだ。
そして経験したことのないものを前にキキは魔法が使えなくなる。そして完全に使えなくなったとき、同時にジジも消えてしまった。アニメ映画のときには、ジジはいなくなるだけでなく、ジジの言葉をキキが理解できなくなる、という現象であった。これは両方同じことだと思うのだが、ジジこそが魔力の象徴なんだよね。ジジがいないってことは、キキが魔力がない状態だってことだと思う。また、その時点で動物園のカバを届ける仕事が舞い込んだのは、まさしく試されていて、ジジが運んできてくれたチャンスだったんじゃないかとも思える。直接的には手伝えないし、教えてやることもないけれど、選択肢とチャンスをくれたのがジジなんだと思っている。
悲しいかな、ジジが全部CGでかなり怖いのが残念だ。かわいすぎると強さが際立たない気もするがね。
おソノさん
おソノさんがいたから、キキはキキのままでいれた。そういう存在とまず真っ先に出会えたことはキキの幸運か、それともジジと母親からの贈り物…?出会う人の中に、悪い人もいればいい人もいて、その出会いには大なり小なり苦労の差はあるかもしれない。あらゆる人に対しての感謝を忘れずに、キキみたいに一生懸命に、ぶつかっていく気持ちを忘れないようにしよう。それだけは間違いないなーと思う。
そして、おソノさんというキャラクターの偉大さを忘れてはいけない。見知らぬ、しかも魔女を自分の家に置いてあげると決め、仕事を与え、味方になり、いつでもそこにいてくれた。キキという存在自体を認めてくれて、話を聞き、そばにいてくれ、確かに守ってくれた。そんな人…もう恩なんてもんじゃ足りないくらい、感謝しまくらないといけないと思う。このご時世、そんな人いるかわからないけれど、できればこういう包容力のある人になりたいと思うよね。そして、困っている人を助けてあげられるような…そんな存在になれるよう、がんばっていきたい。
またアニメ映画との比較になるが、おソノさんのイメージはもっとふくよかで、元気いっぱいで、おおらかなイメージなんだよ。だから、尾野真千子さんだとちょっと細すぎるなー…ってビジュアルを気にしてしまう。確かに、あの堂々とした振る舞いはおソノさんっぽいんだけどね…他に誰がやるの?ってなったらもっと大御所系の女優さんで浅野ゆう子あたりとか、貫禄出てますっていう空気出せる人がよかった。本当に個人的な好み。
チープ感は否めない
やっぱねー…ヨーロッパでロケしようやー…イギリスあたりにいこうよー…魔女と言えば、という空気が足りなかった。どう考えても日本だった。空を飛ぶ姿などはわりにフィットしていたし、大雨の中で必死で飛ぶのもよかったと思っている。100歩譲ってあのトンボでもよかったとしよう。しかし、やはりあの日本の山っていう場所は絶対もったいなかった。だってあの山絶対どこにでもあるもん。ファンタジーの世界が、いきなりローカルな戦隊モノのドラマに早変わり状態だ。
あと、やっぱりトンボ。トンボとキキの恋の感じ、もう少しにおわせてこうよ。そして、トンボにもっと感謝しないと!トンボがいたからこその、キキの成長なんだから。キキをムカつかせたのも、喜ばせたのも、気づかせてくれたのも、支えてくれたのも、トンボなのである。
あとはまぁ、キキが空飛ぶ以外の魔力身につけるのかなーっていう謎。彼女が何か特殊な能力を今後身につける可能性ってあるんだろうか。それと、1年の修業を終えて、キキが魔女として認められる場面とかも欲しかったなーアニメではそこまで描いてなくて、キキが街で認められるところまでだったから、実写にせっかくなるなら…と思って期待していた部分でもある。そこはアニメ通りかー。
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