ある時代とそこに生きた人間の生活と息づかい、時代に左右されない永遠で不変の人間ドラマの秀作 「ラウンド・ミッドナイト」 - ラウンド・ミッドナイトの感想

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ある時代とそこに生きた人間の生活と息づかい、時代に左右されない永遠で不変の人間ドラマの秀作 「ラウンド・ミッドナイト」

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
5.0
演出
4.5

デイル・ターナーの演奏を戸外で雨に濡れながらでも聞くフランシス。だから警察に保護されたデイルを引き取るためには、別れた妻から借金する屈辱もいとわない。フランシスの尽力でアメリカでの演奏が実現したが、デイルはすでに過去の人。絶望でひと足先に帰国したフランシスのもとに届いたのは、デイルの麻薬死の報だった-------。

1959年のパリを舞台にしたこの映画は、実在したジャズの黒人テナー・サックス奏者のデイル・ターナーをモデルにした友情物語だ。ジャズという音楽は、1900年頃にアメリカ南部の港町ニューオリンズで発祥したのですが、黒人が白人音楽との接触を通じて生んだ都市型音楽の走りと言えるかも知れません。もちろん、ジャズの直接的な担い手が黒人であったのは周知の事実ですが。

この映画の主人公デイル・ターナーに、ジャズが辿った歴史の一面を見る思いがしてきます。黒人労働者の北上とともに、1920年代には北部の都市に波及し、さらに1930年代になってラジオを通じて、全米の家庭にまで広く入り込んでいったジャズ。

しかし、1930年代終盤から1940年代にかけて、ベニー・グッドマン、グレン・ミラーなどのビッグ・バンドによるジャズが大衆の支持を集めるようになっていきます。それはすなわち、即興演奏に重きを置いてプレイする演奏家たち、つまりこの映画の主人公のようなジャズ・プレイヤーから、アメリカでの活動の場を奪うことを意味したのです。

こうした文化的背景のもとに成り立ったこのドラマは、もともとがアフリカとヨーロッパの要素を併せもつ、ある種の混合文化というジャズの音楽的な特質を象徴するかのように、フランス青年との友情を奏でます。

デクスター・ゴードンが演じる、酒とドラッグでなかば身を持ちくずしたサックス奏者、そして彼の音楽を敬愛してやまない、フランソワ・クリューゼの貧しいグラフィック・デザイナー。監督のベルトラン・タヴェルニエは、国籍も人種も年齢も仕事も、すべてに異なる男二人を描きながら、ジャズへの愛と、人と人との関わり合いの何たるかを、静かではあるが調和のとれたテンポで語りかけてくる。

この映画は、時代設定こそ1959年ですが、ベルトラン・タヴェルニエ監督の視点は、当時を郷愁しているわけではないと思う。たまたま、登場人物たちがその時代を生きたということにしかすぎないのです。

監督の視点からは、生きた人間の生活が感じられ、画面からは生きた人間の息づかいが聞こえてきます。ある時代とそこに生きた人間の生活と呼吸-------、これこそは時代になんか左右されない、いわば永遠で不変の人間ドラマなのだと思う。

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