熱狂から一段落してのニンジャスレイヤー評価 - ニンジャスレイヤーの感想

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ニンジャスレイヤー

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熱狂から一段落してのニンジャスレイヤー評価

4.54.5
文章力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
5.0
演出
4.0

目次

全く新しいとしかいいようのない文体が人々の心を捉えた

ニンジャスレイヤーを語る時は忍殺語で語るというのが風流めいているのですが、ニンジャスレイヤーの冷静な評価を語るということで、ここでは普通の文体で語りたいと思います。
まず、ニンジャスレイヤーが人々の心を捉えたのは何と言ってもその奇妙としか言いようのない言語体系でした。「マルノウチスゴイタカイビル」のあまりにもあんまりなネーミングセンスは初めてみる読者をニンジャリアリティショック(NRS)に叩き込んだのでした。次々と繰り広げられる忍殺語への興味から本書を手に取ったという方も多いでしょう。
ニンジャスレイヤーは「外国人が書いた小説を日本語に訳した」という建前で書かれています。真実の程は定かではありませんが、まぁ常識的に考えると日本人作者の手によるものでしょう。
この種の文体遊びは本作において強烈に成功しています。異様な文体を用いるというのは、文学の世界では実験文学と言われる試みで高評価を得ることがあります。作家の筒井康隆などは作家人生の半分ぐらいをその追及に費やしたのでした。
そういう意味でニンジャスレイヤーという作品は文芸作品としても高く評価されてしかるべきなのですが、作品内容があまりにもエンターテイメントによっていたのでそういう動きは起きませんでした。というよりも、作者や出版社自体がそのような文芸的評価を求めていないのですよね。ただ、純粋に面白いから書いているということで、純粋な創作者の一面が窺い知れます。
また、ツイッターで連載されていることもよく知られていますね。これも21世紀の小説作品の新しい在り方でしょう。他にもツイッターでの連載を試みた作品はいくつかあるようですが、ニンジャスレイヤーのような成功はおさめていません。
ニンジャスレイヤーがなぜツイッター連載でも成功したかというと、どんな短い文章を切り取ってもそれがニンジャスレイヤーの文章だとわかるのですね。これも独自の文体を持つからこそ為せるわざなのでしょう。ニンジャスレイヤーの文体はこれからツイッターなどで小説を発信する人々の一つの手本になるに違いありません。

ニンジャスレイヤーにおける大きな物語

ニンジャスレイヤーの大きな物語は、ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジが、ニンジャに妻子を殺された復讐のためにひたすらニンジャを殺していく――というものですね。
フジキド視点の短編の構造は、新しいニンジャが出てきて暴虐の限りを尽くしているところにフジキドが現れて殺す――という単純なものです。この単純な形式に彩りを与えているのは新登場のニンジャ達の個性的な姿や能力でしょう。最近の作品で思い浮かぶのが「テラフォーマーズ」ですね。次々と新しい虫の能力を持ったキャラクターが出てきてはすぐに死んでしまうというパターンです。
少年・青年漫画的には面白いのですが、あまり物語に深みが出ないところが玉にきずです。私は「テラフォーマーズ」のワンパターンには相当早く飽きてしまった口ですが、ニンジャスレイヤーでもその現象が起こりました。少々感じたとしても、それはずっと先のことで「ネオサイタマ炎上」においてはそんなマンネリ感を一切感じさせません。
テラフォーマーズとニンジャスレイヤーはどう違うのかと考えてみると、ニンジャスレイヤーは次に見るように小さな物語が大きな物語をしっかりと支えているのですね。

小さな物語がニンジャスレイヤーという作品を支えている

フジキドの物語だけでは大味過ぎて味気ないのですが、ニンジャスレイヤーは連作短編という形式の強みを生かして多彩な視点の物語を織り交ぜています。
「キルゾーン・スモトリ」では会社員のナガム=サン視点でネオサイタマの会社の風土や、エコの欺瞞について描いています。ニンジャスレイヤーも登場するのですが、一つのガジェットとして機能しているに過ぎません。短いですがニンジャスレイヤーきっての傑作短編と言えるでしょう。
「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」では、忍殺世界における美しいボーイ・ミーツ・ガールが描かれています。これもフジキド視点ではない短編ですね。
「レイジ・アゲインスト・ザ・トーフ」もフジキド以外の視点で労働者の悲哀を描き切っています。
そして、本書と本作の評価を決定的に高めているのが「ラストガール・スタンディング」です。忍殺きっての人気キャラクター、ヤモト・コキが初登場する短編です。異能力モノでは、異能力者に目覚めることの葛藤を描く作品群がありますが、「ラストガール・スタンディング」はそれらの形式の物語の頂点にあると思います。友情や美しさや変わっていくことへの恐怖やもろもろの感情を表現しながらも、エンターテイメントとしてのスピード感、アクション、緩急を忘れていません。この一編が混じっているというだけでもニンジャスレイヤーには価値があると言えるはずです。
総評としては、大きな物語はそこまで面白くないが、小さな物語がニンジャスレイヤーを物語として特別なものにしているというものです。
少なくとも「ネオサイタマ炎上」においてはエポックメイキングな傑作という評価を付けることができそうです。

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