篠原千恵作品で最も素晴らしい作品 - 闇のパープル・アイの感想

理解が深まる漫画レビューサイト

漫画レビュー数 3,135件

闇のパープル・アイ

5.005.00
画力
5.00
ストーリー
5.00
キャラクター
4.75
設定
5.00
演出
5.00
感想数
2
読んだ人
4

篠原千恵作品で最も素晴らしい作品

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
5.0
演出
5.0

目次

私にとって初めて読んだ篠原作品

確か中学のときに回し読みで回ってきていた作品だった。没頭して読んだもののあわてて返さなくてはならなくて、もっとじっくり読みたかったとフラストレイションがたまり、高校でバイトして一気に全巻買ったことを覚えている。私にとっては初めての篠原千恵の作品だったと思う。それまではどちらかというと男性マンガよりだった上に、女性マンガというと「王家の紋章」とか「ガラスの仮面」とかバリバリの少女漫画だったばかりだったためか、彼女の描く大人っぽい絵はとても魅力的に見えた。そして何よりそのストーリー展開の素晴らしさ。当時はそれほど映画もなにも知らなかった年代だったから目も肥えてなかったはずなのに、三つ子の魂100までか、好みは本当に昔から変わらない。ありとあらゆる本も映画も音楽も読んだその上で、やはりこの作品は大好きな作品だ。篠原作品の中では「海の闇、月の影」と同じくらいに素晴らしいと思う。(個人的にはそれ以外の彼女の作品はどうしても目おとりしてしまう。)

あり得ない設定ながらしっかりとしたリアリティ

普通の高校生だった倫子は、ある日幼馴染の恋人慎也と敵対する不良グループに拉致され乱暴されかける。そこで彼女は初めて変身する。変身の引き金となったのは恐怖。それが引き金となり、彼女の体に流れる古い血がその細胞や配列を違うものに変え、彼女を違う生き物に、最も残酷で美しい獣、豹に変身させる。という突拍子もない設定なのだけど、これがまた読ませる。変身人間であることに気付いた倫子の哀しさとつらさ、変身した時の自分の行動を覚えていないこと、そのことへの恐ろしさ、恋人にどう見られるかという思い、すべてが渦巻いて見事に作中で表現されている。特に、変身能力が上がるにつれ味覚が変わっていくことのつらさと恐ろしさ(少し趣が違うけれど最近の作品の「東京喰種」でも喰種たちは普通の人間たちのとる食事はできないという設定がある。これもいかにもつらそうだ)の描写が見事だ。どうしても生の肉を欲してしまいふらふらと冷蔵庫を開けて、でも人間でいたいという気持ちが勝ったときに慎也がちょうど現れる場面がある。そこでの倫子の表情は、こちらまで痛く辛くなるものだった。あんなとこを見られたら死んでしまうと思った彼女はいつまでも人間のままだった。だからこそ最後まで身を削るような生き方になったのだろう。倫子が誰よりも短命だったのはこういった背景があるからかもしれない。
こういう超現実なストーリーにもかかわらずどこにも破たんがないのは、やはりそこにリアリティがあるからに他ならない。リアリティさえあれば、エイリアンでも幽霊でもリアルになるといういい例の作品だと思う。

曽根原の執着の恐ろしさ

倫子自体まだ自分が変身人間だと気付いていない時に、倫子の腕にある薄いあざを高校の生物教師である曽根原が目ざとく見つける。そこから倫子を研究室に呼び出し、自身の研究の説明をチベットの曼荼羅の図解などを絡めて説明しながら、じわじわと研究対象の変身人間である倫子に近づいていくところなど、よくできたサスペンスホラーの映画のようで実に恐ろしい。この漫画の肝のひとつはやはりこの曽根原の研究対象への執念と執着につきるだろう。倫子自体が変身能力に目覚め、それを使いこなせるようになるまでに命が尽きてしまったところに比べ、曽根原は倫子の娘である麻衣にも執着し、結果母娘2代に渡り曽根原はその人生をめちゃくちゃにする。倫子の妹への容赦ない実験や、純血種である麻衣への人間を人間と思っていない扱いすべてが曽根崎の狂気を現しているが、どこかでこうなってしまった同情すべき背景など一切ないところなど、自分の研究以外にまったく興味も情も払わない完全なヒールであるところが良い。生半可な情を見せないところが、曽根原というキャラクターの良さだと思うからだ。最後まで彼女はいわばマッドサイエンティストのままあっけなく死んだ。やってきたことが非道だったのであまりに楽すぎる死ではあるようだったが、曽根原はその最期でさえも爆弾のスイッチを押し巻き添えを計ろうとする。最後の最後まで曽根原は気持ちいいほど悪役だった。「海の闇、月の影」では悪役と思えるDr.ジョンソンやヨハンセン双子は、どこかで哀しい過去を持ちそれが心を閉ざず原因になっていた。そしてそこには少し同情を覚えてしまう場面もあった。曽根原にはそれが一切ない。それは最近ではあまり見られない純粋な悪役キャラクターかもしれない。

慎也と倫子の愛、小田切の存在

幼馴染で愛をはぐくんできた2人の愛情描写もこのマンガの見どころだ。平和そのものだった2人は曽根原に追われ、高校生にさえ戻れなくなる。特に一旦曽根原の味方のふりをして倫子を救おうとする場面は深い愛が感じられて好きなところだ(でも慎也の演技がうますぎる気はしたが)。倫子が慎也と麻衣を守るため最後だけは自ら変身を望むところや、あの森での逃走劇など、まるで映像のようにコマが流れるように進む。コマ割がいいのか、ふき出しの位置がいいのか、とてもテンポがよい。そのためどんどんストーリーに没頭してしまう。そしてそれは2人の恋愛にも感情移入してしまうことと同じことでもある。
慎也のライバルとして突然登場した小田切は、自らも変身人間とはいえ、どうしてそこまで同類を捜し求めているのかが少し分かりにくいところはある。魂を分け合うためか、悲しみに寄り添うためか、倫子への愛情がどこから来ているのかは少し疑問に感じたところはある。とはいえ、最後の小田切の爆死のシーンは彼の存在をかなり高みにあげる。自分の生き方にプライドを持った人間と感じることができるからだ。慎也がここで小田切を認めざるを得なかったのはよくわかる場面だった。
ラストのシーン、冷凍されていた倫子と慎也が生きて会えなかったのはつらすぎた。もう少しで出会うことができたのに、と思うといつも涙腺がゆるむ。最後の慎也の言葉もいい。麻衣に対しての深い愛情が感じられ、そしてそれ以上に色あせない倫子への愛情も感じられ、切なく哀しいラストだ。

麻衣の能力と暁生、ドラマとの比較

物語としては慎也と倫子の愛に比べたら幼さを感じさせるため若干物足りなさは否めないけれど、そこへ変身人間の組織や新たな登場人物といった新たな展開を加え、ストーリーは大きく展開していく。この後半に至ってもこのような展開があるのは、篠原作品によくある。それは読者としてとても読み応えが感じられうれしいことだ(「海の闇、月の影」での能力の分散や、「蒼の封印」での蒼子と彬の永久の別れと思わせてからの展開とか)。ラストは倫子と慎也の哀しい最期を埋め合わせるように、ハッピーなものとなっている。暁生と2人なら麻衣は能力を使うこともないだろう。完璧なラストだと思う。
この作品は思春期の感受性の鋭い時に読んだからか、特に思い入れがある作品である。だからドラマ化という話は嬉しくて喜んだ。でもやはりマンガの実写化というのは成功した例は本当に少ない。この監督は原作を一度でも読んだのかという憤りさえ感じることもある。だからその憤りは役者でなく監督およびそれら周囲の環境に向けるべきであると思う。のでキャストがイメージとあまりに違うのも回りの製作委員会の責任だろう。そもそも原作の倫子は大人っぽくスレンダーで、変わる獣が豹であることもある意味しっくりくるスタイルだ。その倫子を演じるのが雛形あきこというのはどう考えてもダメだと思う。雛形あきこが嫌いなわけでないけど、豹人間を演じるにはふっくらしすぎていると誰もが感じるのではないだろうか。そしてそこにもってきて慎也役の加藤晴彦。ベビーフェイスの彼が慎也役というのは、あまりと言えばあまりだろう。もっとクールで情熱的でそして背ももっと高いはず。なにもかもが違いすぎて(そして豹に変わるCGがあまりにもお粗末すぎて)いたたまれなくて見れなかった。好きな作品をこのようにされた実写化は数多いけれど、このドラマ化のひどさは、ある意味ベスト5には入ると思う。
ドラマはひどかったけれど、この作品はストーリー性もメッセージ性も高く、素晴らしい作品だと思う。篠原作品の代表といってもいいこの作品に幸運にも出会えたことは、私の人生に小さくとも確実に影響を及ぼしている。だからこそ、この作品はいままでもそうだったけれど、きっとこれからも何度も読み返すことになるだろう。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

ドラマの原作です。

人間が豹になるという話です。短命の種族で主人公の母親も早くに亡くなってしまっていました。終わり方が切ないのですが、主人公にはずっと想い合っていた幼馴染がいて、その彼との間にではなく種族の男との間で(酔って意識の無い間に無理やり)子供を作ります。その子供はあっという間に産まれてきます。そして、ある組織に狙われ主人公は幼馴染と産んだ子供を置いて姿を消します。17年ほど経って、主人公は冷凍保存されていることを知ります。知った切っ掛けは、子どが種族の人間と組んで組織に潜入したからです。後に子供の血液を種族の人間たちに打つと短命が防げるということも解りました。たぶん、種族の男はそれが狙いで、主人公との間に子供を作ったのだと思います。最後組織の建物が壊れていくなか、死んでしまった幼馴染を抱きながら子供を逃がす主人公が居ました。面白いですが、誰も幸せになっていないのが切ないです。この感想を読む

5.05.0
  • 3838
  • 176view
  • 388文字

関連するタグ

闇のパープル・アイを読んだ人はこんな漫画も読んでいます

闇のパープル・アイが好きな人におすすめの漫画

ページの先頭へ