凶暴性を増加する共生虫に寄生された少年の物語
引きこもりと家庭内暴力
ウエハラと名乗る引きこもりの少年が自分の中の暴力性に目覚め、実際に殺人を犯すまでの物語となっている。ウエハラは家庭内暴力がひどく、家族が借りている他のアパートで独り暮らしをしていている。引きこもってばかりいたウエハラだがインターネットを始めてから体の中に自分を凶暴にする寄生虫がいると思い、そこから行動的になってくる。インターネットを始める前からウエハラには暴力を振るう要素があり、母親もウエハラによく蹴られたり殴られたりしていたようだが何をされても母親はウエハラに優しく接していた。私はこの本を読み進めながら常に、どうしてウエハラがこのような引きこもり少年になったのか、その原因を本書の中から探ろうとしながら読み進めていた。そのときに1つの可能性として思ったのはウエハラの母親の接し方で、甘やかしすぎているのではないかと考えた。でも甘やかしたからウエハラがそうなったというイメージではなく、引き金は他にあったが母親のただ単に甘く優しい接し方ではウエハラを救えなかったというイメージに近かったが、最後まで読んでも引きこもった結局本から読み取ることはできなかった。村上龍はこの本を通じて原因の探求を試みたわけではないのだろうと思う。
殺意の変化と暴力事件
この本の主人公は完全にウエハラで、彼の思考と行動がこの本の大半を占めると言ってもいいと思う。ウエハラのキャラクターがリアルに感じるのは外を歩いただけで人と目線を合わすのを怖がったかと思えば暴力的で万能感を持ったり、イライラしているかと思えばメールで中傷されても比較的落ち着いていたする複雑さがうまく描かれていたからだと思う。
ウエハラがいつ人を殺すかハラハラしながら前半は読み進めていた。その中で、ウエハラはアンダーグラウンドなサイトで共生中の存在について知る。フランシスコオリベイラという宣教師の記録が書かれていて、当時捕虜たちは儀式の数日前に白い虫を飲み込むことを強要され、強力な陶酔感に襲われるようになり拷問が行われている最中も笑ったり歌を歌ったりして死ぬまで興奮状態は続くと記されていた。本当にあったことなのかどうかはわからないが途中で読むのをやめられない描写だった。
やがてウエハラはコンビニでしゃべりかけられた足の不自由なおばさんを殺すことを決意する。そのおばさんの後をつけて住所をつけとめたウエハラは後日包丁を持ってそのおばさんの家に尋ねるところはこの本の中でも緊張感が増す箇所だと思う。このおばさんの家にだんだんと近づくときの描写が素晴らしくて映像を見ているような感覚になった。結果的に家の前まで来て殺そうとウエハラはおばさんを殺そうと思ったが、頭がボケていたおばさんが知り合いと勘違いしてウエハラを家に招き入れてウエハラのケガを治療したりしたことで殺意を抱かなくなる。このおばさんが以前映像関係の仕事についていて、ウエハラに映像を見せる。この展開にはすごく驚かされた。このボケたおばさんはどんな映像を見せてくれるつもりなのか先へ先へと読み進めたくなった。
その後大きな事件が起こる。ウエハラの父親の危篤を知らせに来た兄に殴られて家まで無理やり連れてこられたウエハラは、兄と父親を金属バットで殴り殺すのだ。兄は登校拒否が始まったころからウエハラをよく殴るようになっていたようだ。ここからウエハラは後戻りできなくなるとともに異常さもエスカレートしていく。
防空壕の発見と毒ガスを使った殺害
おばさんの映像で影響を受けたウエハラは防空壕に興味を持ち、インターネットで山の中に防空壕が今も存在するという事を知って防空壕を探す旅に出る。防空壕を探し当てたウエハラはそこで毒ガスを発見する。後半は防空壕を探し当てるまでの描写が長く続くがここはあまり面白くなくて読み飛ばすところもあった。
毒ガスを手に入れたウエハラはインターネットでウエハラを騙そうとしていた3人組の男を山へ連れ出し。毒ガスを使って3人を殺害する。
これで物語的には終わるのだが、殺害されたハナダという男の書類の裏に小さい字でびっしりと書かれた文章をウエハラが見つけそれを読む描写があり、その内容が実際に15ページほど小さいフォントで書かれていた。いつ終わるのだろうと思いながらも一応最後まで読み進めたが、これほど意味が分からない文章を読んだのは初めてだった。
前半はかなり緊張感があって面白かったが、後半は少し間延びした感じがした。ウエハラが防空壕を探すところが長かったからかもしれないしハナダという男の見積書の裏の文章が意味不明過ぎたからかもしれない。共生虫と引きこもりといううまい設定だったのに、共生中との関係があまり描かれなくなってしまったこともあるかもしれない。
この本を読んだ後、少なくない数のこういう若者は実際に存在するだろうと想像できた。彼らも含めて人間の中に凶暴性が存在しうることを認め、それについて考えることは必要な事だと考えさせられた。
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