古風な女の哀れをイタリアの叙情派マウロ・ボロニーニ監督が心をこめて描く 「愛すれど哀しく」 - 愛すれど哀しくの感想

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古風な女の哀れをイタリアの叙情派マウロ・ボロニーニ監督が心をこめて描く 「愛すれど哀しく」

4.04.0
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.5

このイタリア映画「愛すれど哀しく」は、切ない映画だ。古風な女の哀れをイタリアの叙情派マウロ・ボロニーニ監督が、心をこめて綴った佳作だ。

可憐な洗濯女ベルタ(オッタヴィア・ピッコロ)は、パン屋の職人ブブ(アントニオ・ファルジ)を愛したばかりに、夜の女へと転落していく。ブブはやくざ気取りの無知な若者で、今やベルタのヒモとなり、稼ぎが悪いと殴りつけもするのに、彼女は彼にしがみつく。

この恋しい男を、たとえ神様にだって渡すものかと一途に思っているのだ。川端柳が揺れる踊り場の風景や、厚化粧の商売女が自殺した仲間を送る昼下がりの葬列、そして、女たちが客を奪い合う雨の夜の街かど。20世紀の初めの風俗描写は、匂いこぼれるほどの懐古ムードに満ちあふれている。

この映画の原作は、フランスの貧民作家シャルル・ルイ・フィリップの「モンパルナスのビュビュ」で、むろん小説の舞台はパリだが、映画はそれをイタリアのミラノの下町にロケしながら、まるでロートレックの画調を思わせる、その不思議な美しさで描き出していくのです。

まだ、あどけなさを残すヒロインのベルタが、疲れてすさんで、いっぱしの娼婦になり果てていく姿が痛ましいが、そんな彼女は、田舎出の素朴な青年ピエロ(マッシモ・ラニエリ)に恋される。だが、貧しく無力なピエロには、ベルタを救うことができない。

姉の発狂、父の窮死、幼い弟妹たち。どうしようもないこの貧しさ。だが、この貧しさをもたらす社会の仕組みに気づきさえしない女の哀れ------。

彼女を見殺しにした男への悔恨をこめて、けれどあまりにも慎ましく優しい女心が、郷愁をうずかせ、観終わった後、いつまでも心に残り続ける、そんな作品なのです。

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