異端の芸術派監督ルイス・ブニュエルが描く、女の業と男の老残の哀れ
このルイス・ブニュエル監督の「哀しみのトリスターナ」は、実に厳しい映画だ。そして、女はこわい、ということを心の底から感じさせてくれる映画だ。
1930年頃のスペイン。16歳で孤児になった清純な娘トリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、知り合いの貧乏貴族ドン・ロペ(フェルナンド・レイ)に引きとられ、この尊大で好色な老人に、全く無抵抗のまま犯されてしまう。
娘から女になって自我にめざめた彼女は、若くたくましい肉体を持つ画家(フランコ・ネロ)と恋に落ちて、駆け落ちまでしてしまう。だが、彼女は二年後に悪性の腫瘍ができて舞い戻り、手術で片足を切断することになる。
もう、彼女は愛というものを信じきれなくなっており、画家とも別れ、今は姉の遺産で金持ちになったドン・ロペと正式に結婚する。だが、彼女は夫を徹底的に拒み続けたあげく、降りしきる雪の夜に、心臓発作で倒れた夫を冷然と見殺しにして、むなしい報復を遂げるのです。
このように、映画の筋書きだけをみただけでは、通俗なメロドラマにもなりかねないと思います。だが、この映画を撮った時、すでに70歳を過ぎた、"異端の芸術派ルイス・ブニュエル監督"は、甘い感傷を完全に排して、"女の業と男の老残の哀れ"を、異様な静けさで凝視するのです。
特に、この映画の後半でのカトリーヌ・ドヌーヴの演技が見ものだ。義足を引きずり、松葉杖にすがり、車椅子に身をまかせながら、今は気弱に老いた夫を冷酷なまでに見下す-----。
そして、かたくなに心を閉ざし、憎しみの執念に魂を凍らせ、表情の一つひとつにまで、トゲを含ませた、この凄絶な美しさはどうだろう。
トリスターナが、みだらな唖の少年に、その裸身を誇示する場面は、実に衝撃的だ。女の性のなんという無残さだろう。
甘い"哀しみ"ではない、女であることの悲しさが、恐ろしいほどに胸に迫ってくる映画だと思う。
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