灰羽――宗教への懐疑と他力救済への願い - 灰羽連盟の感想

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灰羽連盟

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映像
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ストーリー
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キャラクター
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声優
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音楽
4.50
感想数
2
観た人
5

灰羽――宗教への懐疑と他力救済への願い

5.05.0
映像
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
声優
4.0
音楽
4.0

目次

「灰羽連盟」と村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」との似て非なるところ

多くの視聴者が指摘し、原作の安倍吉俊も語っているように「灰羽連盟」における不思議な異世界「グリの街」は、世界的に有名な日本の小説家・村上春樹が書いた「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」における「世界の終わり」の世界観と非常に似通っているところがあります。街は四方を壁で囲まれていて外に出ることができない。古い習慣と現代的なものが入り混じっている。精神医学的な象徴的なモチーフが多く使われている。それは「外の世界」にある人々の心の反映のようで……。
とはいえ、二つの作品は似て非なるものです。
とりわけ灰羽において主人公となるのは「世界の終わり」と違って、思春期の少女達ということですね。
作中で直接語られませんが、視聴者の共通前提として、オールドホームにやってくる翼の生えた少女達が元の世界における自殺者であるということがあります。
ラッカは投身自殺、レキは轢死など分析サイトではよく語られています。作品の細部をみるとほぼほぼ当てはまるので、制作者の意図でもあるのでしょう。
美しく、安穏な世界観に潜む闇――。灰羽は今放送されたとしてもきっと支持を得る作品になることは間違いありません。
灰羽連盟はそんな少女達の贖罪の物語なのですね。それを本稿における共通前提としておいておきます。

特異点の少女レキの抱える問題と宗教への懐疑

少女達の贖罪と救済――という背景に流れるテーマに沿いながら物語は進行していきます。その中でキーとなるのはやはり「レキ」でしょう。オールドホーム一番の古株で、喫煙癖のある長髪の少女です。安倍吉俊が描くお姉さんキャラですね。
彼女の悩みや葛藤だけが、他の灰羽達とは異質であると思うのです。
レキは長くオールドホームに居続け、後輩達の世話を焼き、善行を積み重ね続けているにも関わらず、街から飛び立つことができません。しまいには羽が黒ずんでくる始末。
物語の終盤でレキはラッカにこのようなことを告白します。
「わたしがいい子にして、他人に優しくするのは、『救われたい』という自分勝手な目的のためなんだ。わたし自身は決していい人間ではないのだ」
レキは自分が他人に親切で優しくするのには、救済されたいという目的からあるからなのだと言っています。救済されないのであれば、そんなことはしないので、自分は偽善者に過ぎないのだと。そんなことを考えること自体、純粋でとても愛おしく思えるのですが、ここでレキは重大な問いを発しているのですね。
世の中の宗教における聖人のほとんどは、神やそれに類するものの救済のために善行を積んでいます。特に灰羽の基調になっている世界観には西洋、キリスト教的なものの影響がみられることから、キリスト教を例にあげましょう。
キリスト教にも様々な宗派がありますが、基本的な目的は神による救済、つまり審判の時に天国に行くということになります。キリスト教徒が善行を積むのは天国に行くためなのです。
当然ですよね。仏教徒が悟りを開くためや、極楽に行くために善行を積むのと同じです。
でも、レキはその前提を疑ってしまっています。
本当の意味でよい人間というのはどういう人間のことを言うのだろうか――。
深い問いです。
にわかには答えられない問題です。
レキは自力救済にこだわり、一人で足掻いた結果、どうすることもできない状況になってしまいました。
物語の種類によっては、その努力を修行としてとらえ、一人で乗り越えることが賞賛されることもあります。しかし、灰羽の世界観においてそれは正解といえる行いではなかったのです。

みえてくる「他力救済」というテーマ

どん詰まりのレキは最後、ラッカに救いを求めます。
「助けて」
その瞬間、レキを覆っていた闇が晴れていきます。
自力救済で足掻いていてもどうしようもなかったことが、他人を頼った時に解決してしまったのです。
これが、灰羽の世界の背後を流れる世界観の論理ということなのでしょう。
自力救済ではなく、他力救済を是とするのです。
私は映画「ショーシャンクの空に」に出てくる黒人の服役囚「レッド」を思い浮かべました。レッドは仮釈放の審査を受け続け、自分が更生したと訴えるのですが、申請が通ることはありません。ですが、物語の終盤に仮釈放の審査を受けた時、開き直って諦め気味の言葉を発します。しかし、不思議なことにレッドの願いは聞き届けられてしまうのでした。
自力を諦め、他力に転じた時に本当の救いが訪れる――。
私は両作にそんな共通点があるのではないかと感じました。
さらに、灰羽連盟では「他力救済」というだけではなく、関係性が持つ力や関係性への愛しさが表現されています。これはゼロ年代以降、「関係性」というのがサブカルチャーのメインテーマとして取り上げられていくきっかけの一つになったと思われます。
ただ、ゼロ年代のそれがどこか「コミュニケーション絶対主義」に陥っていったのと比べ、灰羽で表現される関係性の美しく、切実なことよ。
2017年になって、「けものフレンズ」がブレークしたように、アニメファンには原的物語への回帰が認められます。灰羽連盟が孕むテーマはこんな時にこそ見直されるべきものであるに違いありません。

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見どころその1・美しく優しい世界他の人の感想やあらすじで見た方ならもう腐るほど見たフレーズでしょう。美しく、優しい世界。それは大きなポイントであることは確かです。ですがそれ以上に私が重要視しているのは、美しいが、美しすぎない世界だということ。そうすることで美しいことが際立ちます。ただし、主人公ラッカの声は慌てるシーンではアラがでたり、ヒカリの声なども高過ぎるのではと個人的には思います。最近のアニメではよく見かけるようになったカラフルすぎる世界というのは、確かに美しかったり、印象に残りやすかったりするのですが、見飽きることが多いです。一周目は他に気を取られず、ストーリーに集中し、二回目は美しさなどを堪能してもらえたらと思います。(1週目はラッカ目線、2週目はレキ目線でも大いに楽しめるでしょう。)そして、この優しい世界というのも同じです。優しいのですが、優し過ぎはしないのです。物騒であったり、...この感想を読む

4.54.5
  • 藤崎藤崎
  • 801view
  • 1487文字
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