せつなすぎて涙の止まらない歴史物語
こんな恋もあったのかと思うとつらい
「これはあなた方みんなで殺した、小さな女の子の物語」
この言葉が一番印象深いです。亜の国の姫になんて生まれなければ、薄星とただ生きていく道を選べたら…もう苦しくてたまらないです。皆が亜姫を女王に望み、青徹に女王への道を順調に歩まされ、血を呪い、立場を呪い、母親を殺した土妃を憎み…薄星とともに在ることだけが彼女の望みだったにもかかわらず、時代がそれを許してはくれなかった…。もう悲しすぎて、いつまでも16歳くらいの時代で止まってくれてたらよかったのにと思うほどでした。つかの間のひと時。兵法や文学、武術の学びを行いながら、薄星とただともにいて、自由に生きていられた。戦争がないというだけで、これだけの自由が認められる。今がどんなにいい時代かってこと、思い知らされます。
幼いころからずっと、亜姫だけを想ってきた薄星。亜姫は一時、母親の愛した人物と知って恋心の気持ちに揺れたこともあったけど、薄星を手放すなんてことは絶対に選択肢にはなくて…2人だからこそ、生きてこられた。もう家族とか恋人とかそんな言葉でも語りつくせないほど、深くからみついて離れることなんて許されない。自分たちもそれを望まない。こんなに強いつながりの2人が、ただ生まれた時・生まれた場所がそうだっただけでこんな仕打ちを受ける。戦争に身を投じ、自分たちの意思の許されないことも分かっていて…わかっているからこそつらい。こんな世界くそくらえ。自由に、ただあなたといられたら…14巻での薄星が、「壊れてしまったってかまわない・ただ俺のことだけを考えて俺のそばにいてくれたらそれだけでいい…離れていこうとするあなたが憎い…」という言葉。もうね、重い。だけどすごく嬉しいんです。これほどまでに強く求めてくれること、この時代に在って許されないからこその深さですよね。
1つ1つの言葉がとても重い
和泉かねよし先生のお話って、”気高い女性”が登場しますよね。気高くて、芯があって、ぶれない。弱いけど、弱くなくて、そこに男の人が虜になるというか。この作品では、女王がテーマになっていることもあって、本当に亜姫が素敵です。優しくて、自分をいつでも奮い立たせて前を向き、薄星の欲しい言葉を必ずくれる…
お前だけは私の手の中にある
お互いの立場を越えて想いあうこの愛。究極だなと思います。人が生きるか死ぬかという局面に常に自分たちの身を置いて、自分たちの死だけじゃなくあらゆる人間の屍を越えていかなければ生きていくことなんてできない戦乱の世。大昔はなんでこんなに知性が足らんのでしょうね…殺しあうより高めあえ!と思うんだけど、みんながみんな「井の中の蛙大海を知らず」状態で、自分たちが絶対正しいって信じて疑わない。恨み辛みで人を殺めることも誰にも気づかれないことだってあるし、秩序がない。でもそこに確かに人はいて、同じように感情があって、愛もあって、悲しみもあって…だから私たちがいるわけで。すごい複雑な気持ちにさせてくれます。
毎回巻の冒頭に語られる、亜姫の最後の時に語られる言葉たち。女王を殺してあげたとか、最終巻を読むまで全然わからないのに、分かったとたんにこの感動がすごいんです。もう一度また1巻から読んで、1つ1つの言葉の意味に想いを馳せながら、幸せだった亜姫と薄星に会いたくなってしまいます。
薄星と亜姫の成長を丁寧に描く
小さな子ども時代から、立派な成人の姿になるまで、この成長もとても分かりやすいですよね。亜姫はどんどん美しくなっていくし、薄星はどんどん男らしくたくましく成長する。一番はその目つき。本当にいろいろな経験をしてきたからこそ、目つきににじみ出るものがあります。時にするどく、儚げで、強い意志の感じられる、その瞳。亜姫と薄星がお互いと向き合えているときだけが柔らかで…あ~せつない。切なすぎて苦しくなる。会いたいときに会えないくらいがなんだよ!って。ただ生きていてくれて、自分を間違いなく想ってくれているなら、それでいいって本気で思える時代があったんだなって考えると、自分の価値観をぐらぐらと揺さぶられます。
本当は臆病で、陰で泣いてばかりだった亜姫が、弱みを見せない強い女王になっていく。そして薄星は、姫を守るための本当に力を身につけ、奴隷と蔑まれる逆境をものともせずに、ただ亜姫のために人を殺めることもだますことも覚えた。光には必ず影がある。誰かの成功の陰には必ず努力と踏み台にした何かがある。それは時代が変わっても同じことで、何かを達成するために時間だったりお金だったり交友関係だったり、何かを失って何かを得るというなんだなと痛感させられます。
ただ、お互いに想いあっている関係であると知りながら、見て見ぬふりで国の運命を背負わせる。そんなことだけは絶対認めたくないと思ってしまいます。ただ生きて、笑っていられたら…。
土妃という悪役いてこその結束
こういう歴史ものを読んでいると、完全な悪って絶対ないはずなんですが、やっぱり土妃みたいに性格が悪いと、こいつは死んでよかったとついつい言いたくなってしまいますね。自分の息子が王様になることが、自分自身のステータスになる。周りがそう祀り上げるし、自分もそこから世を見て、優雅に生きていられる。そこで止まればまだいいけど、気に食わないと思ったらすぐ殺してしまうじゃないですか。人の命と人生をいったい何だと思っているの?っていう行動。これだけは許せませんよね…曾国だって、黄国だって、確かに自分の国守るために人殺したりとか平気できる。(自分たちにとっての)悪を倒すために、結束する。もうね、何が正しいのかは、当事者たちには絶対決められないんですよ。第三者が公平な目で見てあげないとさ。
価値観のズレ、言葉の壁、いろんなものを乗り越えてただお互いの国を守っていきましょうっていう今の時代、やっぱりいい時代になったよね。
まだ宗教問題や根強い民族意識のある地域では、まだまだ戦乱は続いている。それが悲しくもあり、そのおかげで潤っている何かもあり…日本って平和ボケしまくりなので、絶対生き残れない気がする。そんなことまで深く考えてしまいます。「女王の花」は、老若男女が感心させられる物語になってますよ。
死んだ先の世界なんて…
最終回がね…なんか嬉しいことになってくれるんじゃないかって…どこかでずっと期待してました。だけど、あぁ、会えないまま、何年経ってしまったんだろうって…あぁ、もう悲しすぎて、読むのやめようって思ったけど、やっぱり2人にとって幸せだったときが見たくてまた読んでしまうよね。逃げなくてよかった。立ち向かってよかった。だけど、薄星にはもっと道があったってよかったと思いたい。
なんで子どもの姿でのラストなのか、を考えると、やっぱりそこからやり直したいからだなーって感じます。正確にはやり直させてあげたい、という気持ちですね。出会った時から、その立場抜きにして生きていく道があってほしかったですもんね。ただの少女漫画にしてあげたかった。彼らがただの人間であればできたであろうことを、存分にやらせてあげたかった。ずっとそばにいた女中だからこそわかる、女王の気持ち。これまたうまい演出で、見事に胸を締め付けられてしまいました。
歴史ものは話が難しくなりやすいんですが、「女王の花」ではしっかりとベースの恋愛を崩さずに最後まで走ってくれたなーって思います。
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