やさしく美しい青春映画の佳作
「アラバマ物語」「レッド・ムーン」など、私の大好きなロバート・マリガン監督の「おもいでの夏」は、やさしく美しい青春映画の佳作だと思います。ニューイングランド沖合いの小島が舞台の、この映画の原題は「'42年の夏」。
その年、その夏、15歳の少年ハーミー(ゲーリー・グライムス)が、ふとめぐり逢った年上の女への思慕と、思いがけない初体験を、切なさあふれる追想のかたちで描いていきます。
太陽と海と砂丘。ひなびた避暑地でひと夏の休暇を過ごす、ワンパク三人組の少年たちは、もてあます活力を、異性とセックスへの好奇心に集中していきます。性医学書に興奮し、町の映画館にガールハントに出かけ、薬局へ勇気をふるって避妊具を買いに行ったりするのです。
そんな息苦しくて、切羽詰まって、だがなんとも不器用で、滑稽な思春期のあせりを、映画はほろ苦い愛しさで回想していきます。
主人公のハーミーが恋したのは、岬の一軒家に住む美しい人妻ドロシー(ジェニファー・オニール)。新婚の若妻の幸福に輝く愛の風景を、出征する夫を船着き場で見送る悲しみの彼女を、フランス戦線の夫に手紙を書き続ける遠いまなざしのドロシーの姿を、少年はどれほど憧れをこめて見つめたことだろう。
買い物帰りの荷物運びを手伝ったことから、ハーミーはドロシーと親しくなります。大人ぶって背伸びする少年のおかしさ、いじらしさ。
やがて迎えるクライマックス。ドロシーの家を訪れたハーミーが、夫の戦死公報を受けた彼女に迎えられ、無言でベッドへと誘われる夜の場面は、静かな美しさが悲痛な情感を盛り上げます。夜明けの別れ。そして女の置き手紙が涙にかすむラストに、ミシェル・ルグランのピアノ・ソロによる甘く切ない旋律が、私の心の琴線を震わせ、胸打つ余情をかなでます。
この映画の原作・脚本のハーマン・ローチャーとロバート・マリガン監督は、彼ら自身の1942年の夏を愛惜をこめて懐かしみながら、同時にそれは、精神的に荒廃している現代に身を置く戦中派世代の、苦悩の懺悔なのかもしれません。
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