こころで世界を救う物語
まぶしい絵
イラストがとにかくまぶしいです。人工太陽の輝きは、アンバーグラウンドのアカツキにしか届かない。ほとんどの地域は夜に包まれ、それでも人は生きていた。そんな世界を舞台にしているからか、常に星が飛んでいます。星は夜を照らす光でもあり、手紙に託された「こころ」の証明でもあり、ラグたちテガミバチが使う「こころ」のエネルギーを具現化したものでもある。誰かが誰かを想って手紙を書き、それを郵便屋さんであるテガミバチに託す。テガミバチは大切な心のこもった贈り物を確実に届けることが任務。5年前にゴーシュが僕を届けてくれたように、僕も君みたいなテガミバチになって、たくさんの人の「こころ」を幸せにしたい。物語はとてもあたたかな話がつまっており、どのエピソードもかわいらしく、せつなく、泣き虫のラグはいつも泣きながら手紙の送り主・お届け先の人の「こころ」に想いを馳せます。
「テガミバチ」の物語は、かわいいだけでなく、人の「こころ」を食べてしまう鎧虫たちと戦う物語でもあります。血が流れるっていうよりも、人が人間らしくあるための部分を食べられてしまう恐怖。自分が自分ではなくなる恐怖。怖いことなんだけど、どちらかといえば悲しみ、せつなさが勝る感じですね。みんなの「こころ」そのものが希望であり、鎧虫の恐怖に打ち勝つための唯一の武器。最初のテーマからブレることなく、最後までその美しさを伝えてくれています。思ったほどウザくはないです。登場人物たちはみんなかわいらしいし、憎めないキャラクターばかり。敵キャラも最後は敵キャラではなく、最大の敵は太古の昔からの秘密のほうだったしね。みんなが救われるために、この物語はすすみます。
やさしい話
誰かの気持ちのこもった手紙。これを届ける仕事がいかに重要か。そんなところにスポットを当てて漫画を描くってすごいなーって思いますよね。働き蜂と手紙を組み合わせて、テガミバチと名付けているのかな。テガミバチの仕事は、そこに人がいる限り、郵便物を届けること。そこがどんなに危険のある地域であろうとも、手紙に込められた「こころ」を大切に届けること…いや、現代の郵便屋さん、そんなことは考えてないと思うんだが、どうだろうか…と、いじわるにツッコミたくもなります。綺麗すぎるので…
テガミバチとして一生懸命仕事をして、いつかはヘッド・ビーになりたい。それがラグの夢でした。しかしその夢に立ちはだかるものはとても大きく、テガミバチは人と人とのつながりを保つという意味だけではなくて、この世界そのものの存亡にも関わる重要な役割を持っていた…ゴーシュが記憶を失って行方不明になっているという話から、ノワールとロダという人間、なぜ記憶を奪われたのかという話、アカツキの謎、いろいろなものがくっついて、話はどんどん壮大な物語へと変わっていきます。アカツキの現状なんてもう…痛々しい。
しかし、「こころ」をテーマにしているので、誰かを想う気持ち、想われたいという気持ちをやさしく伝えてくれていますね。傷つくのも、癒してくれるのも、すべて「こころ」なんだなと思うし、それこそが強みである。リバースの活動だって、そりゃ誰かを殺そうとしたりっていうのはありましたけど、極悪人とは言えない感じだった。
友情が美しすぎる
コナーとザジが…いい人すぎる…!つーかテガミバチ、みんななんて心優しき人なの…!アリアも、ロイドだってそう。コナーなんて、最初の登場のとき絶対こいつ使えない奴だって思ってたのに、もうね、物語で終始大活躍。ザジがいなきゃできなかったことがどれほどたくさんあるか…こいつらでなきゃ、だめだった。みんなが手紙を届けるテガミバチであることをちゃんと誇りに思っているし、選ばれるだけの闘いのセンスと能力、意思の強さをきちんと持っている。勇敢に戦うその姿、感動的でした。ラグが、スピリタスと戦う力をつけるために、1年ほど留守にしていた間、ちょっとみんなが凛々しくなって、それがちょっぴり似合ってない感じがしたことだけが残念でしたね。個人的な話ですけど。ラグは最後まであのままでいてほしかった…と思っていたら、最終局面ではちゃんと泣き虫ラグに戻って、フォルムも戻っていて、念願叶ったりでしたよ。
一番はラグ&ニッチですけどね。魔訶の子であるニッチをディンゴにし、ずっと一緒に戦ってきた大切な仲間。途中、ニッチの故郷で離れなくてはならなくなったけど、ちゃんと戻ってきてくれて、本当にうれしかったです。まぁ、戻ってこないわけはないとは思ってましたが、タイミングがいい。あの片言の言葉も、パンツはかないという謎の行動も、愛らしく、ラグにぴったりで…最高の相棒だったと思います。「こころ」の力で勝負するラグと、魔訶の能力をフルに生かした戦闘を行うニッチ。かわいいのに強いこのコンビの旅を、成長した姿でも見たかったな…ラグはフォルムそのままでいけど、ニッチはきっと成長したかったと思うから…。
出生が悲しすぎる
ラグが、人の子ではなくて、あの人工太陽から生まれた子どもだった…というのは衝撃的でしたね。生まれ方もずいぶんと…怖い。この物語の中で一番怖いシーンであると思います。たくさんの人の「こころ」の犠牲の上に、5人の子どもが生まれた。そしたら、ラグは結局返されることになりそうじゃないか…!案の定、ラグは死んでしまったニッチの魂と一緒に、新たな太陽として輝く道を選びます。悲しい…悲しすぎて嫌だ。ラグとニッチのテガミバチとしての旅をもっと見たかった。そして、仲間たちとのあたたかな毎日、シルベットとの生活、ノワールとの新たな関係性…たくさんのものを残して、ヒカリになってしまったこと、悲しすぎて涙が止まりませんでした。美しい終わりだったのかもしれませんが、これだけはファンの間でも心残りになっているところの様子。みんな考えることは同じですね…・
ロイドのほうが、きっと死にたかっただろう…でもね、心の力で太陽になることは、きっとラグにしかできないことだから。その体に精霊琥珀を宿し、まさにその宿命のために導かれたラグにしか、これはできなかったんだよね…悲しいけど、こうすることでしか収拾がつかなかったとは理解できます。ロイドは誰よりも苦しみ、悩み、人であろうとしたからこそ、これからの世界をきっといい方向に導いてくれることでしょうね。人工太陽に囚われていた人の心は元に戻っていったようですが…おそらく完全には戻らないのかな?ノワールがゴーシュとなることもなさそうでしたしね。ノワールという感情として、新たに
君のようなテガミバチになりたい
と言わせたのでしょうから。
君がいなきゃイヤだ
残されたステーキの気持ちを想うと…もうね、悲しみしかありません。確かにステーキには愛する妻と子どもができた。これからのある身。そうだとしても…残された人たちの中で、一番ラグとニッチと同じ時間を共有してきた仲間だから…最終回での、
ヌニニ…ヌニ~――!!
というところ。「ニッチ…ラグ~――!!」と叫んでいたんですよね、きっと。あーせつない…君のおかげでたくさんの鎧虫と戦うことができたよ。ていうか、「こころ」から人がつくれるのだとしたら、再生しないかな?ニッチとラグをもう一度…無理か…
テガミバチ、鎧虫、ハチノス、アカツキの内部のリアル蜂の巣などなど、虫と心を対比させていたようですよね。虫も心を欲しがるのかもなーと思いました。もしかしたらすっごい先の未来に、こんな展開が待っている可能性もあるのかもしれません。
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