先が読めない一級サスペンス - ゲームの感想

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ゲーム

4.504.50
映像
5.00
脚本
4.00
キャスト
5.00
音楽
5.00
演出
5.00
感想数
1
観た人
2

先が読めない一級サスペンス

4.54.5
映像
5.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

序盤の完成度

監督はデヴィッド・フィンチャー、経営者で富豪のニコラス役をマイケル・ダグラス、弟のコンラッド役をショーンペンが演じている。映画のスタートは古いフィルムで撮られた映像が流れ、幼い日のニコラスと父親、まだ赤ん坊のコンラッドや母親らしき人も映っている。そのバックに流れる物悲しげなピアノの音とその映像の古さがまずこの映画に深みを与えている。映画「セブン」の監督でもあるデヴィッド・フィンチャーが手掛けただけあって、ミステリアスな雰囲気が観る側を映画にすっと引き込んでくれるのだ。
ニコラスが朝目覚めてから顔を洗って高級車で会社に向かい、大きなビルの裏側から入って自分のオフィスで秘書らと会話するまでのシーンでいかにニコラスが経済的に成功した人かが表れている。ニコラス役のマイケル・ダグラスを最初に見たときに映画「ウォール街」の投資家ゴードン・ゲッコーがすぐに思い出されたが、年を重ねてあの時よりさらにエグゼクティブな雰囲気が出ているように思う。
その日はニコラスの誕生日で、久しぶりに連絡があった弟のコンラッドが昼食に誘い、2人は高級そうなレストランで久しぶりの再会をする。このレストランのシーンは何気ない会話だが、2人とも裕福な家庭で育ち、経済的に非常に恵まれた環境で育ってきたことや、ニコラスはコンラッドのことを気にかけていること、コンラッドは少しやんちゃな性格だが兄のことをある種尊敬しているし慕っているであろうことが2人の演技力から醸し出されている。コンラッドは恵まれた環境ゆえの自由人だがどこか刹那的で生きる目的を持っていない寂しい雰囲気などがよく描かれていると思う。このシーンの中でコンラッドは誕生日プレゼントとしてCRSという会員のカードをニコラスに渡す。どういった内容のカードか説明されずに受け取るのでこの時点では意味不明なのだが、弟の意味深な発言や映画のタイトルからしてもこのカードがストーリーに重要な意味を持っていることを感じさせて観る側をわくわくさせてくれるのがうれしい。
その日の晩自宅に帰ったニコラスが家政婦が作った食事をオーブンから出すときのキッチンの使用感の無さや、書斎で前妻と電話で話すシーンでは彼の孤独な生活がよく感じられるようになっている。この辺のシーンの合間にオープニングで流れていた古いフィルムの映像の断片が挟まれていて、どうやらニコラスの父親は屋敷の屋根から飛び降り自殺をしたことがわかるようになっていて、しかもその日の誕生日で父親が死んだ年齢(48歳)になるという設定になっている。ここのシーンは今後起こる対照的で非現実的な出来事への布石となっている。

デヴィッド・フィンチャーの特徴

デヴィッド・フィンチャーらしいシーンはこの映画の中で随所に出てくる。CRSという会社のオフィスが自分の会社のビルに入っているのに気づき、そこで身体検査などの入会テストみたなものを受ける時のシーンはまさにデヴィッド・フィンチャーらしい演出だった。特にテストの中でニコラスはある連続した映像を延々見せられるのだが、気味の悪い映像に加えテンポの悪いピアノのBGMが効果的に流れて違う世界に間違って入ってしまったような雰囲気が良く出ていた。そしてもっとデヴィッド・フィンチャーらしい演出がその後に出てくる。ニコラスは会議中にCRSから携帯に連絡が来て入会テストの結果が不合格だったことを告げられるが、その日の晩に自分の邸宅に帰って家の前に車を止めるとピエロのマネキンが倒れているのだが、そのピエロが薄気味悪くて今後何かが起こるという不吉な感じを象徴しているような演出がされているのだ。この辺りから私の心拍数は徐々にあがっていった。
セキュリティを潜り抜けて家に潜入してピエロを玄関の前に置いただけではなく、家の中のテレビに細工をして、しかもテレビの中のアナウンサーがニコラスに話かける仕掛けをしたところなどはCRSがかなりの力を持った団体であることがうかがえるようになっている。
いうなればここまでが序盤でここから先は一気に物語が加速していくのだが、ニコラスの生い立ちや現在の地位、弟のコンラッドの性格、CRSという団体の存在やベアグランド社という会社とのビジネス上の問題があったりと、今後のストーリーを楽しむ上で必要な情報をすべて自然に見る側に与えてくれている。まさに文句なしといった出だしだと思う。
序盤以降の畳みかけるようなスリリングで常に見る側を裏切ってくれる展開はサスペンスの醍醐味だし見ていて心地よいのだが、ややツッコミを入れてしまうところもあるにはあった。

CRSの鍵の使い道

私が最初にツッコミをいれたのはピエロの口から出てきた鍵の使い道についてだった。ピエロの出来事以降ニコラスは常にCRSを警戒しながら生活することになり、最初にピエロの口から出てきた鍵がどこで使われるのかわからずいろいろなところで試すのだがなかなか使える場所がなく、最終的に使えた場所は閉まらないエレベーターのドアを閉めるためのものだった。別に逃げているシーンでもなくそのエレベーターに乗らなくてはいけない理由も全然なさそうな状況で、しかもどこであの鍵を使うんだろうと観る側をさんざんひっぱった挙句、「え、ここ?」と思わず言ってしまうほど拍子抜けしてしまった。それなら最初から契約書が入ったカバンが開かなかったときにあの鍵が使える設定で良かったのではないだろうか。他には、そのエレベーターから共に脱出することになったウェイトレスがニコラスが、そのエレベーターで鍵が使えることがわかるようにわざとらしく鍵用の小さいドアを開けたり、ビルのセキュリティベルが鳴ってニコラスは警察に通報しようと言ったときに急に逃げたりするウェイトレスの演技が、わざとCRSのメンバではないかと思わせるような不自然な演技になっているのだが、ちょっとわざとらしく感じたし、監督の意図だとは思うがその辺の必要性がどうも理解できなかった。

CRSが仕掛ける罠のスケールについて

個人的に好きな映画なので、何度か観ている映画だが、全体的にCRSが仕掛ける罠のスケールがあまりに大きすぎると感じるところもあった。例えば突然倒れた男の人を助けて救急車で運ばれた病院が突然停電して病院の周りの人が全員いなくなるところなど、ただニコラスをある場所に移動させるだけにしては偽の救急車や警察や病院のスタッフなどすべてCRSのものという設定は無理があると思った。また、後半のほうででてくるCRSのバンから覆面をした人たちがでてきて機関銃を打ちまくるというシーンや、CRSのオフィスがある日突然フロアごと跡形もなく消えるところも同様の感想を持った。その後本物のFBIが出てきて捜査するところも、FBIがCRSという組織のことを全く知らないという設定自体無理があると思った。一度そのようなことを思ってしまうと映画から少し引きながら観てしまうこともあって残念だった。とはいえそれ以外の罠は非常に面白くてスピード感もあって良かったし、最初に観たときはそこまで細かいことは思わなかったのかも知れない。結末が最後までわからずハラハラして、観る側がまんまと騙され続けるのがサスペンスの醍醐味とすれば、この映画はまさにそういった欲求を満たしてくれる仕上がりになっていると思う。

鑑賞後の余韻

終盤、CRSが仕掛けた「ゲーム」のなかでニコラスは様々な経験をすることで、自分自身の内面も変化したことが伺えるシーンがある。無一文で外国に放り出された後なんとか自分の家に戻ってきて、その後元妻から車を借りるシーンだ。ここでニコラスは元妻にたいして、「なぜ君が去ったかわかった、私は心を閉ざしていた、許してほしい」ということを告げる。つまり、「ゲーム」はただ単にスリルを楽しむものだけではなく、全てを手に入れたと思っていたニコラスにとって「気付き」ももたらしたことになる。観終わった後にどこか心地よい余韻が残る仕上がりになっているのはそういったスパイスが効いているからかもしれない。

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