何とも言えないラストだが世界観は抜群
怪しき始まり
なぜか5歳より前の記憶がない。いや、覚えていなくても当たり前な気がするが。そんなことを考えた私が読み始めたこの物語。ワケありな子どもたちの殺戮が起きるダークファンタジーの様相を呈した初めのころ、かなりおもしろかったです。10年前まで、孤島に孤児たちが集まって仲良く暮らしていた。16歳になると、きまって新しい親に引き取られるからといって施設を出ていく子どもたち。幸せそうに施設を旅立っていくので、残された幼い子どもたちは自分たちもいつかは…と思っていた。しかし、偶然にも目撃してしまった現場。実際には16歳になるとかぐや姫の生贄として捧げられ、殺されてしまうのだということがわかった…
彼らが何とかかぐや姫や取り巻きの人たちを殺し、脱出することができたというあたりがなんか軽く流されていたことがちょっと気に食わなかったけど、そこからバラバラになったみんながもう一度あの忌まわしき孤島へ終結し、何かが起こり始める…という恐怖はかなりドキドキ・ワクワクとするものがありました。それぞれにいろいろなことを経験した10年間。里親に同性愛の関係を強いられ続けているという晶の設定もなかなか刺激的だったし、由と碧の関係もとても不安定でせつなくて…胸打つものがありました。倉持の王子の秘宝を手にした状態で見つかったミラー、米軍への密偵を務めていたノブオ、碧に嫌がらせをする奴、碧を守ろうとする由、癌を隠して死ぬことへの恐怖と闘う碧、そしてかぐや姫の烙印を落とされた晶…回収してほしいところが多すぎて、いったいどんな話になるのやら。物語のつかみはばっちりでした。
同性愛を前面に
晶がまゆの母親とそういう関係にあり、それから逃れたいという気持ちと、許してしまっている気持ち、自分を支配するものを拒絶したいにもかかわらず、喜んでいるかもしれない自分…複雑な気持ちが、シリアスな表情と相まって伝わってきます。また、かぐや姫が竹取物語の中で王子たちの求婚を断ったのは、自分が天女であり女性としか契らないから、という話でここでも百合。結局まゆも晶が自分の思い通りになることを望んでいる人だったし、こりゃーまゆとのラストもあるのか…?!とちょっとドキドキしましたね。個人的には最初から由とくっついてほしいとは思っていました。そうすることで、伝説のかぐや姫や10年前まで存在していたというかぐや姫を否定することを起こしてほしかったし、否定すればかぐや姫の呪縛が終わりになるとか、そういうラストにもつながりそうだなと予想したからです。別に同性愛の否定ではなくて。かぐや姫という存在と人間の関係を別つというか。明らかに憎しみ合う関係であったわけですから、そこにどう踏ん切りがつくのだろうかということもかなり楽しみでした。求婚を断った帝が腹いせとしてかぐや姫が月に帰ることができないようにした、という憎悪を、どんなふうに解決するんだろうなっていうところですね。そんな大昔の事に何も関係のない人間を巻き込み続けるのは悪のような気がしてなりませんけど、閉じ込めた人間側にも悪がありますから。
5つの秘宝のワクワクはどこへ
しかし…途中から彼らは世界の要人たちのドナーのためのクローンであったことが明らかになり…かぐや姫のことは跡形もなく語られなくなってしまうんですよ…。神淵島でのサバイバルゲームだと思っていたのに、いきなり晶とそっくりの中国人がやってきて、あれよあれよと言う間に脱出が成功する。いったい何だったんだよ…しかも、16歳になってドナーとして必要ではなくなったドナーは殺す。そのためにこの島はあったとか…いや、ここまでかぐや姫を語ってきたのに、晶も烙印が押されているのに、それどこ行ったの?ドナーたちは復讐に燃え、晶・碧・ミラーは本体と入れ替わることを選び、他のみんなは本体の中に取り込まれた後に意識をドナー側でのっとるという手段に出ました…うん、ぶっ飛んでいる。そして、この世界への復讐を…ということで彼らは再び集まる。米軍、宝どうした?最後にまた月が出てきたけど、もはやかぐや姫の話は消えていました。月が地球に衝突するとか、お互いの星が依存関係にあってとか、なんと星を巻き込んだ巨大な世界になったわけです。ついていけないぞ…?
確かにね、ちょっと切なくなっちゃったところもありました。さっとんですね。
消えたことに、誰も気がつかない。誰も、誰も、誰も
これは…泣くよね。君だって自我を持った人間だったのに、そんなお金持ちの都合で作られて、いらなくなったら捨てられて、最初からいなかったみたいに。そこに確かにいたのに。つらすぎる展開。そうやって一人、また一人と、かつての仲間たちはそれぞれの死に方で命を落としていきます。もうやめてくれ…そろそろもうつらすぎる。
由と晶
由と晶がせめて生き残って、二人で幸せになってほしかった。なのに、由は死んじゃった。もう泣くしかない。これからどうやって生きていったらいいんだろう。そしたらミラーですよ。
由を愛する君ごと、君を愛するよ
いいけどさ、でもさ…晶はとにかく女から好かれていた人生だったのに、後半は男どもから好かれまくる。禁断くずしが丁寧に行われることを望んでいたわけですが、跡形もありませんでした…ショック!!碧もさ、最後までいてほしかったよ。なんで死んじゃうの?これじゃ、誰にも望んだものが手に入らない結末じゃないか。ミラーもね。結局は晶の心はずっと由にあったわけだし。子どもができて、家庭ができて、つかの間の幸せでもあったらミラーにとっては最高だったのかな…それで、よかったのかな…?
動物にとって、人間は恐ろしき対象である。だから威嚇するときは人間の顔を使うんだね…そんな相容れない者同士の関係性を描くんだと思っていたのに、最終的には人間同士のエゴと欲望の争いで、まゆが死ねばいいと思ったのに生きているし、私の予想と希望はことごとく打ち砕かれましたね…
ただ、やっぱり世界観はすごいハマるんですよ。美しいものの闇、得体のしれないものへの恐怖、求めるものと求められるものが違うこと。そういうのががっつりストレートに伝わってくるので、これだけ人気だったと思うんです。絵のタイプは正直苦手なものだったんですけどね。この物語のおかげで、どんな漫画でも好きになれるもんだなと思いましたよ。
死んでから迎えに…嫌すぎる
で、由がなんと晶が死んでから迎えに来るんですよ。月から。ここでかぐや姫回収…されたのか…?加筆加えた内容もあったらしいんですが、そちらでも納得できなかったです。どうせなら生きて、最後まで生き延びた未来を見せてほしかった。つらいまま終わっていくのが苦手なものですから、何とも嫌でしたね。由は不死身なんじゃないかという気すらしていたのに、案外とあっさりさよならしなきゃならなかったこともすっきりしない。どうせなら、碧と由は生きて、晶が死んでしまうということもありだったのかなーなんて思いました。トータル的に、惑わす立場にあったのって晶なのかもしれないな…とも思えてくるんです。いつでもかぐや姫が地球人を惑わせる存在なんだね…みたいな。そしたらうまいことくっついたかもしれない。今までのかぐや姫は10年前のあの時に消えた。烙印を押された地球のかぐや姫も同じ種族同士の争いの中で消えてしまった…結局はどんな世界にいたとしても、消えてしまう運命にあったのかもしれないね…みたいなつなげ方もできたんじゃないかなーと思うわけです。
最後まで納得しきれたわけじゃないけど、ダークな物語もたまには刺激的でいいね。
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