恋愛はまさにツイラクそのもの まざまざと見せつけられ、この小説にツ、イ、ラ、ク
森本準子になぜこんなに魅了されたのか
主人公である森本準子。私はこの小説を読み終えて、すっかり彼女に魅了されてしまった。
周りの女子生徒とは違い、幼いころから早熟の速度がやけに早い。小中学生の女子生徒といえば、グループで行動することが当たり前の時代に、準子は一人行動を好む。そのやたらといつも冷静で、クールな準子。こんな女の子、自分の小中学校時代にいただろうか?いや、おそらくいなかった。知らなかっただけかもしれない。
彼女に魅了されたのは、結果的に私の自分勝手な準子に対する「やきもち」だったのだと思う。まるで幼い子供が、大人の女性に対して憧れるような。準子は中学生で、私がこの小説を読んだのは30歳前後だったにもかかわらず、熟した大人の女性のような内面の準子に強くやきもちを焼いたのだ。
同時に準子に同情もした。小中学生で、中身が大人の準子は、周囲の友人に合わせることがきっと辛かったに違いない。だからこそ、自分と精神レベルが同等の河村に強く惹かれたのだと思う。河村との恋で開花する準子の成熟さが私を安心させた。準子レベルの人間が現れてくれた!というように。
読了後、準子のように内面が大人な自分になりたい!と30歳前後の私が思ったのだから笑ってしまう。
生徒と先生の恋
恋愛もの小説で、「生徒と先生の恋」と聞くと、やけに陳腐な感じがするのは私だけだろうか。
書店で購入する際も迷った。陳腐な恋愛ものだったら読むのをやめよう、と思って購入した。
読み進めていくと、驚いた。恋愛もの?違う。これは単なる恋愛小説じゃない。
準子と河村が急速に距離が縮まったその瞬間から、二人はまさに「ツイラク」する。その様子は美しい恋愛ものとはかけ離れた、欲望むき出しの、苦しくて、グロテスクで、激しい、「甘酸っぱさ」などかけらもない、二人の性と性のぶつかり合いが描写されている。そして別れを決意した二人の様子で、初めてこれは本当に「真実の恋愛」だったんだと気づかされた。人は本当に激しく惹かれあって恋をすると、こんなにも欲望あらわになるのだなと思った。最初はお互いの欲望のままに身体を重ねていた二人。でも別れなければいならない状況になって、生徒は先生をかばい、先生は生徒を思いやり、二人の恋は真実だっと気づかされた時、この小説を読み始めて初めて泣けた。
二人は本当にお互い愛し合っていたのに、生徒と先生という関係がゆえ、別れなければならなかった。すっかり感情移入していた私は、「内緒でこれからも続ければいいのに!」と強く思ったが、それでは話が成り立たない。ここで別れたからこそ、二人の心の中にお互いの存在が深く深く刻み込まれ、準子に至っては30代になり、再び河村と出会うまで、特段恋愛をしてこなかった。そんなに長い間河村を思い続けた準子に、もはや「早熟」ではなく「純粋」という言葉がピッタリくる。幼い時に早熟だった準子が、大人になるとあどけなさが残り、化粧もめったにしない、まるで少女のような準子。
30代になり、偶然河村と再会した、という点は何だかありがちで笑ってしまったが、それも作者のねらいだったのだろう、と思ったら最後の解説で準子と河村が再会したことについて、「姫野カオルコがわざと異化効果をねらって陳腐な場面にした。最後の場面が笑えたあなたは大人、笑えなかったあなたは若い」とあった。それを読んで、大人になった自分に少し感心し、嬉しく思った。
姫野カオルコの作品で一番キラメキを放っている作品
姫野カオルコの作品は、「受難」「整形美女」「レンタル不倫」など、数々の小説を読んできたが、どれも読み終えたら本棚の中に眠っている。しかしこの「ツ、イ、ラ、ク」だけは、どうしても何度も読んでしまう。読まざるを得なかった、と言った方がいいかもしれない。きっとこの小説が、誰もが通過する「青春」を思い起こさせ、ノスタルジックな気持ちにさせ、「あの日々に戻りたい」と思わせる中毒性があるからだと思う。単なる青春恋愛小説だったら、こんなにも私は読み返したりしないだろう。ツ、イ、ラ、クは、リアリティにあふれている。美しい青春時代ではなく、実際起こり得るだろうと予想させる、リアリティさが半端じゃない。だからこそ、ここまでのめり込んでしまったのだと思う。そして姫野カオルコの独特な文体だからこそ、アンバランスなようでいて実にバランスの良い小説に出来上がっている。恋愛小説でここまではまった物は過去にない。本棚の中でもひときわ輝きを放っている小説なので、きっと今後も気が付けば手に取り、準子と河村の世界へ入っていくのだろう。
これだけハマったので、多くの友人に勧めて読んでもらったが、「どこが良いのかわからない」という反応が多く、この良さがわからないなんて大人ではない!と内心強く思った記憶がある。私はこの小説のことを考えるだけで何だか胸がざわつき、狂おしいほど恋い焦がれた準子と河村に会いに行きたくなる。
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