手塚治虫の悪いパターン、盛り過ぎ・ケア無し・まとまり無し でも良い点を挙げてみよう - ミクロイドSの感想

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ミクロイドS

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手塚治虫の悪いパターン、盛り過ぎ・ケア無し・まとまり無し でも良い点を挙げてみよう

1.51.5
画力
3.0
ストーリー
1.0
キャラクター
2.5
設定
1.5
演出
1.0

目次

手塚自身も納得していない残念な作品

講談社発行の手塚治虫漫画全集のあとがきには手塚本人が本作について全く納得していない記述が見られる。その趣旨は以下のようなものだ。

・虫プロなどの所持会社が経営的に大きく傾いた時期の作品で停滞期だった。

・テレビアニメの企画先行で漫画版はそのPRの為のものだったので自由に書けなかった。

・この漫画の良かった点はノラキュラがデビューしたことくらい。

と、作品内容はほとんど触れておらず、あとがきというよりほぼ愚痴と言い訳のみが記されている。

作者自身が言う通り、正直見るところは少ない。内容はちぐはぐで唐突な上に、どこかで見たようなネタも多い。SF、アクション、社会性、友情、人類批判、お色気、とにかくてんこ盛りだけどさっぱりまとまりがない、ごった煮漫画になってしまっている。こんな具合なのでレビューとしても悪い点ばかり上げてしまいそうになるがそれは誰もがやってることだろうと思い、第2項ではあえて良い点を拾う事に努め、第3項ではこの素材でこんな展開だったら面白かったんじゃないか、と妄想してみたい。 

敢えて挙げる、ミクロイドSの良いところ

第一話は結構イケている。まず若い男女と子供が登場、男性はカッコよく、女性は美しい。そしていきなりアクション。女性の肌露出もあり。この冒頭は少年漫画の課題十分にクリアしている。更にコヨーテの登場シーンも読ませる。巨大生物登場?!と思わせて実はこの3人が小さい、というのが印象的だ。肉体派アクションモノかと思わせておきながら数ページ後には虫のような黒いロボットが現れるのもいい。てっきり大自然と戦うサバイバルモノを想像していた読者はここで驚く。明確に敵がいる事、それは優れた文明を持っている事がこの一コマで表されている。

休むことなく人間の町に行くと干からびた死体の口から虫が這いだしてくるシーンは少々おぞましくもありショッキングだ。ここまでで美男、美女、主人公たちが小さいという意外性、敵は強大で残酷な組織、などの情報が与えられた。SFバトル少年漫画の導入としては実に見事だ。

この後、アゲハは少々わがままでトラブルメーカーの気配を漂わせるも実は敵のスパイ、という展開が続く。正直よくわからん気はするが意外さは十分だ。何しろ彼女以外ヒロイン枠は無いんだから、敵のスパイであるがヤンマと恋に落ちる、という王道展開がここで期待できる。

予想通りアゲハが敵を見限ってヤンマと行動を共にすることを誓うシーン、読者がぐっとくるロングヘアを切ってしまうという残念すぎる意外性が描かれる。ショートヘアも可愛いのだが、やっぱりロングが良かった、と嘆いた読者が多かったことだろう。

そうこうするうちにヤンマが最初に目的としていた人間側の協力者:美土路博士とその息子マナブがようやく登場する。読者はここから人類対ギドロンの闘い勃発かと期待するがこの仕掛けも全く機能しない。突然マナブの友達との友情物語が始まったかと思えば、敵に操られた少女とマナブのコイバナも中途半端だ。せめて彼女の死でマナブの成長を描くこともできたはずだが特にそれもない。

って、気が付くとやっぱり欠点探しになっている!!。この作品褒めるのはやっぱり難しいので結局「どうよ?」ポイントをあげておこう。

美土路博士を人類の敵と勘違いして暴徒が襲ってくるシーンはこの前年に少年マガジンで話題をさらった永井豪の「デビルマン」を思わせる。この時手塚は諸事情により少年マガジンには漫画を描かない、というスタイルを取っており、人気漫画をすぐライバル視する手塚の事、自身の漫画でも「人類の味方のはずなのに糾弾される主人公たち」という構図をやってみたかったのかもしれない。しかしこのネタも大して掘り下げず話は流れていく。

更に女子不良グループの乱入などクライマックス近くに余計な事に紙面を割き、読者が最も期待していたはずの「人類対ギドロン」「ヤンマとアゲハの関係」の2点はクローズアップされないまま、何となく終幕を迎える。

結局何がやりたかったのか?

考えることも空しくなるような作品だ。 

これだったら面白くない?納得いくミクロイドS

前述のマナブのコイバナまではそのままで行こう。彼はギドロンを許せない、ヤンマたちとともに戦う!と決意する。終盤の勝利のカギになる浮浪者のおっさんたちはここで出しておこう。とにかくこのおっさんたちは虫に襲われない、それは何故かという追求を博士は始める。

この辺でジガーとヤンマの激しい一騎打ちを入れよう。どちらにも死んでほしくないアゲハのつらい気持ちも描こう。勝負はジガー優勢に展開し、ついにヤンマ危機一髪の瞬間、アゲハが割って入り彼女の剣がジガーを貫く。ここで死に瀕したジガーが虫に狙われない人間の体質をヤンマとアゲハに告げる。虫たちは人間の発汗による臭気をかぎつけて攻撃しているが、まれに汗をかきにくい人間がいる。これは無汗症という実在の病気なので医師免許を持つ手塚であれば説得力を持って書けるはずだ。虫に襲われないおっさんたちはこの症状を持っていたことが博士の研究で裏付けられる。

とはいえ人類全てを無汗症にするわけにもいかないので、博士は汗の臭いを消す香料の開発に着手する。一方虫を寄せ付ける方法としても使えるので特定の臭いを発する罠を作り、虫たちを一網打尽にする計画も立ち上げられる。博士は香料の開発で忙しいのでこの作戦は自衛隊などが指揮する事になるが先回りしたギドロン配下のミクロイドたちの攻撃で自衛隊は壊滅状態に陥る。ここは数週かけて人類対ギドロンを壮絶に描こう。

もちろんヤンマ、アゲハ、マメゾウも必死に戦う。物語の前半のみで書かれた「力は弱いが戦術で戦うマメゾウ」も活躍させたい。ギドロンの悪辣さを許せず立ち上がった他のミクロイドも出してもいいかもしれない。超高速戦闘が得意な蚊をモチーフにしたヤブカ、必殺超音波で戦うセミをモデルにしたクマゼミ、強くはないが「けなげ」に戦う蝶タイプのモルフォたちだ。少女タイプのモルフォは美人タイプのアゲハとの対比で人気が出るだろう。男性読者はアゲハとモルフォどっちが好みか、と語る楽しみを得て雑誌購買もアップだ!

あきらめかかった自衛隊の残存兵をまとめるのは精神的に成長したマナブだ。彼はまだ少年だが人類は絶対に負けない、と大人たちを引っ張っていく。

ギドロン対人類+ミクロイドの戦いは壮烈を極め、名だたる大都市は壊滅していく。しかしギドロンも多くの勇者を失い、確実に消耗していく。そしてついにギドロン本体との最終決戦、博士が開発した強力殺虫シャワーと人類世界連合の攻撃で弱ったギドロンにヤンマがとどめを刺す。

無残に荒れ果てた荒野で、しかし明日への希望をもって再建に取り組む人類とミクロイドたち、成長して凛々しくなったマナブ、ヤンマとの子供を抱くアゲハ、何となくいい感じのマメゾウとモルフォの映像で大団円としよう。

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