60年代手塚作品最高のきらめき! しかし手塚バブルはこの時終わった! - マグマ大使の感想

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マグマ大使

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60年代手塚作品最高のきらめき! しかし手塚バブルはこの時終わった!

2.52.5
画力
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ストーリー
2.5
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
2.5

目次

早い展開、盛りだくさんの内容、第一部は満足度高し!

1965年から2年以上に渡って「少年画報」に連載した本作。当時手塚治虫はかなり多忙な状態だったらしい。同時進行でたくさんの仕事を抱えており、その中には「ビッグX」「W3」などの後世に残る作品もある。

本作も開始当初から展開が早く読み味が非常に良かった。また内容も凝っているのに盛りだくさんだ。「ロケット人間」「人間モドキ」という発想は新しく、そこにマモル少年の勇気、なかなか再開できない行方不明の母親、父親が人類の未来をかけて地下組織で抵抗する姿など、多様なドラマが織り込まれ非常にエンターティメント性が高い。敵味方の能力や戦い方も斬新で後のマンガや映画に影響を与えていると私は信じている。このあたりは次項でもっと掘り起こしたい。

後のマンガや映画の先取り?神様手塚治虫の発想力

本作に登場するキャラクターや戦い方、後のマンガや映画で「マグマ大使」をパクってるのか?と思われるほど似たものがある。

まず前半に登場するコイダマリネというゴアの手先。植物的特徴があり、根を伸ばして遠くのものを探知するという能力を持つ。これってどっかで見た能力、絵柄だな、と思う方も多いだろう。荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」第3部に登場する花京院典明のスタンド法皇の緑(ハイエロファントグリーン)そのままだ。(ただし花京院みたいなかっこよさは全く無い)

マグマ大使が持ち技「ジェット気流」を応用して空気のレンズを作りゴアを攻撃するシーンはやはり「ジョジョ」第2部のシーザー対ワムウを思わせる。

但し、荒木飛呂彦はよりいろいろな作品から影響を受けていることを隠していないし、手塚賞デビューの彼の事、これは「パクリ」というよりオマージュと言うべきだろう。

しかし次の例はかなり特殊である。ゴアの術により恐竜時代にタイムスリップしてしまったマグマ、モル、ガム。その時代にもアース様がいるはず、と言って探し出し、その力で現代へ帰還する。この展開はそのまま「バックトゥザフューチャー」ではないか。

ディズニーが手塚作品をパクっているなどの話は多数あり、私は真相を知らないのでとやかく言う筋合いではないが、とにかく手塚氏がネタの宝庫であったことは間違いない。

(ディズニーとの関連性(?)は信ぴょう性の有無によらずweb上に無限に転がっているので興味がある方は検索閲覧していただきたい)

そもそも論で言えば手塚自身も数多くの作品からヒントを得て書いているし、同業者を勝手にライバル視して「俺だってあのジャンルは書ける」と挑んでいるものもある。

短編「ザムザ復活」などはグレゴール・ザムザの「復活」という小説からヒントを得て書いているので「オマージュ」のレベルだろうが、「どろろ」は明確に水木しげるの妖怪モノに対抗したと本人も言っている。

冷静に考えれば「誰も考えたことが無い新しいアイデア」などと言うものがそんなに数多くあるはずがない。滅多に出ないから価値があるのであって、この世にあふれる映画、マンガ、小説の全ては何かしらの影響を受けている。むしろ「あいつはこの発想で凄いものを書いたが、俺ならこの題材をこう扱う」と考えるのは「切磋琢磨」と呼ぶべきかもしれない。 

手塚バブルの終焉、「冬の時代」を迎える手塚

この「マグマ大使」の連載している時期にマンガを取り巻く環境は劇的に変化していく。そして手塚治虫は「冬の時代」を迎える。

1965年、手塚は「W3事件」と呼ばれる騒動に巻き込まれている。その詳細はやはりネットで検索していただきたいが、ざっくり言えば「W3」という新作の情報が内部の人間から意図的に外部に持ち出され、他者作品に流用された、というものだ。内部関係者の裏切りにより精神的にかなりの打撃受け、その事件の影響で「週刊少年マガジン」に数年にわたって作品を掲載しないことになり営業的にもダメージを受け、手塚は追い込まれていく。

ここまでは一般に知られている話だが、ここからは予測の話が多くなることを承知していただきたい。

本作「マグマ大使」は出だしこそ冒頭に書いたようにスピーディで盛りだくさんな内容なのだが、中盤から作風が変わってくる。ブラックガロンという強敵が出現するがこれは別作品「魔人ガロン」を流用したものだ。この闘いは「2大ヒーローの闘い」という豪華な構図にも見えるが、前半のような多彩な仕掛けは影を潜め、かなり大味になっている。「ガロンは人気あったしこれ出しておけば間が持つんじゃないか?」という安易な作風に見えなくもない。ガロンはピックという良心を司る少年がいなければ破壊者になるという構図は「魔人ガロン」のままだが、本作ではピックが会話するシーンは無く、ほぼモノ扱いだ。戦闘も前半のような頭脳戦は皆無で力勝負のみ。これは上記の複数の問題を抱えていた手塚が細かい仕掛けを考える余力が無かった為ではないだろうか。

本作の後半「サイクロップス編」は手塚多忙のため他者による代筆であったとして単行本化されていない。「マグマ大使」はテレビ版も人気を博したため終わらせることはしなかったのだろうが、まさに人気の裏で作品の空洞化が起こっていたと言える。

上記の「W3事件」の後、手塚と縁が切れた「週刊少年マガジン」は梶原一騎を擁して「巨人の星」「あしたのジョー」など劇画、スポ根路線をひた走り手塚色を排して売り上げを上げていく。

これらを別々の事件と見ることもできるが、点と点をつなぎ合わせると、もはや手塚はこの1965年に限界を迎えていたのではないだろうか。人気があっても自身で作画や構成を練ることができず、内部からは裏切り者が発生し、漫画界は「脱手塚」を叫び始める。これは「手塚バブルの崩壊」と呼んでもいいかもしれない。この後も手塚はもがきながら書き続ける。不慣れな劇画に挑戦して酷評を得たり、性教育漫画と呼ばれるジャンルで有害図書指定を受けたりとさんざんな時代を迎える。

このわずか5年後には「週刊少年チャンピオン」の編集長:壁村耐三氏は既に「手塚の漫画家としての最後を看取るべき」と考え多という。最後の花道的に1973年に開始した「ブラックジャック」で、しかし手塚は復活ののろしを上げる!彼はまだ終わっていなかったのだ。「ブラックジャック」だけでなく「火の鳥」、「三つ目がとおる」など後期の代表作を次々と生み出していく手塚。おそらく冬の時代に貯めたバネ、雌伏の経験、などが新たな作風を生み出したに違いない。しかしその詳細はまた別の機会に考察したい。

とにかく本作の前半のキレの良さは60年代手塚作品の最高峰といえる。機会がある方は手塚バブル崩壊直前の閃光のようなきらめきを感じながら再読していただきたい。

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