思い残しなく納得して生きるために大事な事は何か、考えてみたくなる - 死ぬまでにしたい10のことの感想

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死ぬまでにしたい10のこと

4.804.80
映像
4.50
脚本
4.80
キャスト
5.00
音楽
4.50
演出
4.80
感想数
1
観た人
2

思い残しなく納得して生きるために大事な事は何か、考えてみたくなる

4.84.8
映像
4.5
脚本
4.8
キャスト
5.0
音楽
4.5
演出
4.8

目次

生々しく、ロマンチック。アメリカ映画にはない味がある

2003年、スペイン=カナダ合作作品。主演がサラ・ポーリーとマーク・ラファロだったので、予備知識なくアメリカ映画だろうと思って見たら、原作はアメリカ人による短編小説であるものの、映画は完全にヨーロッパ映画のムードでした。荒涼としていて、ムードがあってとても好きなトーンです。こうした、陰鬱で淋しい影があり、人と人とが分かり合うことをどこか諦めているような、すごく自己完結した個人主義的な人物の描き方は、アメリカ映画においてはなかなか感じられないものです。だけれど、観る者の心を深く慰撫するような感覚を与えてくれる、アメリカ映画にはけして出せない「味」だなあと思います。

監督はスペインのイザベル・コイシェというカタルーニャ人の女性監督。プロデューサーにペドロ・アルモドバルが名を連ねているのを見て、この作品の持つ、何とも言えない生々しさとロマンチックさがなるほどと腑に落ちました。

近年のハリウッドの映画は、こうあるべきという思い込みにがんじがらめになっているものが多くて、それで質が担保されている側面もあるのでしょうが、基本的にはだいたい先が読めてつまらないと感じることのほうが多いです。この作品のように、そうしたセオリーの枠外で、じっくりと納得のいく良いものを作りたい、ということを大事に作られている作品には、ハリウッド映画のようなあざとさがなくて見ていて心地いい。あれっと思うようなシンプルなラストの描き方も、これはこれでいいのかも、と思いました。

病と戦うのではなく、思い残しなく納得して死ぬことが「目を醒ます」こと

「もうすぐ死ぬと聞かされて、夢から醒めたような気持ち」と言うアンの言葉が印象的です。普通なら、これまでの人生ことがリアルで、24才の若さで死ぬことなど、にわかに信じがたい悪夢だと表現するものでしょうけれど、でも不思議とアンの言葉に深く共感する自分がいます。

色んなことに追われて、目の前のことに必死で、自分が今どう感じているのか、身近な人たちに向き合っているのか、自分の考えや、やりたいことや、感性といったものに蓋をして、それこそ夢の中にいるみたいに、実感というものが薄いままに何となく生きている。そういうアンの感覚は、自分自身にもある。現代に生きる多くの人にある。それだからこそ、この作品を見ながらずっと、胸がきりきりと痛んでいたのだと思います。

コイシェ監督も、アンのこの感じ方を観客に我が事と感じてもらいたいということを意識しているがゆえに、アンのことをナレーションで「I」ではなく「you」と言ったのでしょう。

ささやかながらも周囲の人々に愛されて暮らしているアンは、誰にも自分の不治の病のことを知らせず、ひとりきりでその秘密を抱えたまま死んでゆきます。

もっと病院に来るようにと苦言を呈する主治医に、もう検査なんて意味はない。自分の死に対して納得が行くようにすることだけが重要なのだ、と言ったとおりに、アンは死という理不尽ともはや戦おうとはせず、思い残しのないようにしようと、そのことだけに意識をフォーカスする。最後まで戦い抜くのが良しとされる、アメリカ的価値観とは随分異なった考え方だと思います。そこがいい。

うらびれたダイナーでひとりアンが書き付けた「死ぬまでにしたい10のこと」は、ささやかで説得力のある事たちです。何よりも幼い子どもたちの幸せを願う母親の心が泣かせます。けれどそれ以上に同じ女性として胸を打つのは、人生で夫であるドン以外を知らなかったアンが「夫以外の男性と関係を持ってみたい」と書いたこと。17才で出産し、生活に追われる人生だったアンが、最後に望んだのは、恋に溺れてみたかった、という願いだったこと。ドンは素晴らしい夫であり、けして傷つけたくない、大事な人であるにも関わらず、というところが深いなあと思わされました。

マーク・ラファロ演じるリーとの、短くて純度の高い恋は、アンの短かかった人生を悔いないものにしれくれるに相応しいもので、一番大事なことを言わないまま、ただ静かにお互いに惹かれ合いもとめ合う恋はなんてロマンチックなのだろうと思いました。そしてアンの人生を良かったね、と思えたことにすごく救われたと思います。

センスのいいキャスティング

本作は、キャスティングが非常に好みでした。好きな役者さんがとても上手に散りばめられていて、そういう意味でも見応えがありました。

サラ・ポーリーの不思議な魅力が、アンに命を吹き込んだことはもちろん最も重要なことですが、個人的には、アンの最後の恋人にマーク・ラファロを配したことが、この作品を素晴らしいものにした一番の要因ではないかと思います。リーが彼でなかったら、台無しになっていたかもしれない、という意味で。

今では本当に人気のある俳優ですが、この作品を機にどんどん世の中に出て行った感のある、マーク・ラファロ。抽き出しが多く、色んなキャラクターを演じ分けるのだけど、相反する複雑な要素をいつも同時に見せてくれるという印象があります。そういう矛盾性が非常にセクシーな人です。

「パルプ・フィクション」で私が最もお気に入りだった二人の女優が起用されているのも面白かったです。ブルース・ウィリスのチャーミングな恋人を演じたマリア・デ・メディロスと、恋人のティム・ロスと強盗騒ぎを起こすアマンダ・プラマー。監督は「パルプ・フィクション」ファンなのでしょうか。

そして、レオノール・ワトリングとデボラ・ハリーは共にミュージシャンでもあり、演技が巧みだっただけでなく、ミュージシャン特有の素晴らしい存在感を放っていたと思います。そういうキャスティングも見事でした。

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