“手代木星矢”の最終章
構成の難易度をどうクリアしていくかが課題
『聖闘士星矢』の外伝作品としてヒットを記録した『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話(以下LC)』。その人気に押され、スピンオフ作品として描かれたのが『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話外伝(以下LC外伝)』である。
『LC』は青銅聖闘士の天馬が主人公だったが、『LC外伝』は黄金聖闘士たち一人一人が主役の話となる。
『LC』の前日譚、ということは当然ながら過去を取り扱った話であるため、ここに構成的な難しさがある。
なぜなら、本編である『LC』において、黄金聖闘士たちは二人を除いて全滅しているからだ。
つまり、前日譚となる『LC外伝』では、たとえどんな強敵が現れようとも、どれほど苦しめられようとも、主人公である黄金聖闘士は必ず勝つという図式が大前提となってしまう。
これはかなり痛いディスアドバンテージといえるだろう。主役たる黄金聖闘士たちがどんなに強敵相手に苦戦しようが、結果として生きていることを読者が知っているならば、全てが茶番に見えてしまう(個人的な意見になってしまうが、実際、『LC』を読んでしまった筆者は、茶番っぽく思えてしらけてしまう話が多かった)。
しかし、これは作者の技量によってどうにか出来る問題でもなく、手代木氏はこういったディスアドバンテージを負いながら頑張って物語を(しかも黄金十二+デフテロス+老双子で16人分)作らなければならなかったのだ……と思うと不満の声も挙げられない。本当にお疲れさまでした、と言ってあげたい思いである。
“本当の悪役”不在の展開にちょっと不満
だが、それを差し置いてもシナリオに一言モノ申したい。
作者の作風のせいでもあろうが、『LC外伝』には真なる悪役が滅多に登場しないのだ。
悪役たちはみんな、実はこういう目的(理由)があって悪事に手を染めていました、という連中がほとんど。
これは困ったもので、「じゃあなんで他の人を巻き込んだのか」「人を殺してまで成し遂げるほどの目的なのか」とかツッコミどころが満載なのだ。彼らの目的は時折幼稚で、必要悪にすら感じられず、ただ作者がかわいそうだから善人補正をつけた、としかいえないシロモノなのである。
本編『聖闘士星矢』にこういう偽善者ヅラした悪人は存在せず、「俺は諸悪の根源だ! ワーッハッハッハ!」みたいなキャラクターが、星矢たちとの戦いを経て己の過ちに気づき、倒される(あるいは更生する)という流れが多い。この潔さすらも車田イズムなのであるが、こういったところまで“手代木星矢”に車田イズムを浸透しきれていなかったことは残念の一言だ。
ゆえに前述した「最初から主役黄金聖闘士の生存確定」という前提とあいまって、『LC外伝』は世界のどこかで困っている人がいる→黄金聖闘士颯爽と参上→世界のどこかで暗躍する○○闘士登場→黄金聖闘士、戦う→なんやかんや困っている人の協力もあって勝利という流れがずっと続く。それに加えて、悪役であるはずの誰それが、実はこういった目的を持っていたために人を襲っていたのだ!というオチになりがちなのである。
これがほとんどの黄金聖闘士外伝に該当するため、『LC外伝』は続けて読んでいるとかなり飽きてしまうのだ。
勝手なことを言ってしまうが、こちらは手代木氏のこだわりや作風が感じ取れる漫画を読みたい訳ではなく、あくまで『聖闘士星矢』の外伝たる『LC』を読みたいのである。『LC』本編のように、車田星矢を踏まえた構成・シナリオづくりを目指してほしかった。
特に、前聖戦の黄金聖闘士たちがたくさん登場する老双子外伝などは、話自体がそう思ってしまう顕著な例であった(老双子外伝に登場する前聖戦の聖闘士たちは、『聖闘士星矢』本編はもちろん、『LC』にもほぼ登場せず、突飛で浮いたキャラクターのように映るのである)。
『LC』、ならびに『LC外伝』は、車田正美が生み出した『聖闘士星矢』のスピンオフ作品であり、そこから流れてきたファンが多いことだろう。その事実を意識した作品づくりをして欲しかった、というのが正直なところである。
『LC』黄金ファンにはたまらない展開
とはいえ、『LC』本編では死んでしまった黄金聖闘士たちの過去を補完する話として、ファンにはたまらない展開だったであろう。
『LC』の黄金聖闘士たちは、見た目こそ原作『聖闘士星矢』の黄金聖闘士に似ているものの、立場や性格、設定は全く別モノである。そして、それぞれの黄金聖闘士たちのファンも多い。
そんな彼らの過去があらためて明かされることで、喜ぶ人々は多かったことだろう。個人的にはサーシャを連れ出したカルディアを、虫を見るような冷たい目でみるシジフォスがたまりません。
また、一部黄金聖闘士のエピソードは、原作『聖闘士星矢』に繋がるものも多く、原作ファンもはっとさせられることがある。たとえばマニゴルド編のデスクイーン島の仮面、暗黒聖闘士の存在などである。
原作で使い捨てられたネタを、手代木氏が新たな解釈のもと再構築するこの無駄のなさは、素晴らしい手腕だ。こうした腕があるからこそ、手代木『星矢』は評価され、OVA化までしたのだと再確認させられた。
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