継承する車田イズム
岡田芽武による『聖闘士星矢』前日譚
『聖闘士星矢』は歴史のある作品だ。『星矢』に夢中だった少年時代・少女時代をして、“(星矢)世代”と呼ぶ人がいるほどで、その人気の強さがうかがえる。
それがゆえに、派生作品を見る目は非常に厳しい。
『エピソードG(以下、エピG)』は外伝的作品第一号として、岡田芽武によって生み出された。ところが『エピG』は、独特の作画と設定の突飛さとで、ファンからいまだに賛否両論を受けている作品である。
ファンの指摘する設定の突飛さとは、特に主人公であるアイオリアに意見が集中している。アイオリアの髪が赤かったり、気性や言葉遣いが荒かったり、一人称がボクだったりオレだったり変わるところにあるという(ちなみに車田『星矢』ではアイオリアは一人称が「オレ」であり、髪も金色である)。
これらの理由は、のちのち本編で説明されたりするのだが(ボクとオレが変わるのは特段説明がないが、他人に猫を被ったり兄・アイオロスに語りかけている場面が多いので、おそらく年相応のものだろう)、そのファーストインプレッションで読むのをやめてしまった人が多いのは非常にもったいないことだ。
次項から列挙するのは、『星矢』ファンである筆者が、『エピG』への批判に対抗するための意見である。
『エピG』に隠された『星矢』の魂を、あらためて考察していこうと思う。
原典では語られなかった、反逆者の弟であるアイオリアの苦悩
まず、考えなくてはならないのが、主人公であるアイオリアのことである。
彼についての過去は、『聖闘士星矢』原作では示唆こそあれ、詳しく語られなかった部分だ。しかし、逆賊の弟として不遇の時代を生きてきたアイオリアの境遇と悲しい過去は想像するに余りあって、むしろ原典で語られなかったことが物足りないとすら感じるほどであった(アニメでは多少の補完がされ、はるか格下の雑兵や白銀聖闘士のシャイナにすら呼び捨てされ、ナメられるアイオリアの姿を見ることが出来る)。
そこを受けてか、アイオリアを主人公とする『エピG』では、具体的な不遇の時代を見ることが出来る。
例えば、アイオリアは明らかに他の黄金聖闘士より多く任務に駆り出されている。黄金聖闘士の下の階級として、白銀、青銅、雑兵と多数の戦士たちがいるが、アイオリアが彼ら下級の戦士たちが赴くべきはずの任務に行く様子をして、その境遇が推して測れるというものだろう。また、アイオリア自身が自ら率先して任務にいくことが多いのも印象的である(アイオリアが逆賊の弟という立場を自虐しているのもまたかわいそうだ)。
また、アイオリアが他の黄金聖闘士たちに対して敵意がむき出しであるのも大きな特徴といえるだろう。
ガランやリトスと和気あいあいと暮らしていながらも、本来の同胞であるはずの黄金聖闘士たちと相容れない部分に、アイオリアの苦悩と孤独が透けてみえる。兄の直接的な仇であるのは山羊座のシュラなのだが、シュラだけではなくシャカを始めとした他の黄金聖闘士をも拒絶しているところがまた、アイオリアの苦悩を表しているようで辛い。
アイオリアが同等か若干格下にまで扱われるまでに、どれほどの苦労があったのか。それを想像するための補助として、『エピG』は最適の一冊なのである。
確かにある車田星矢の魂
更に、『エピG』でもっとも取り上げなければならないのは、そのセリフ、構成の端々から漂う車田イズムであろう。
アイオリアは、強敵感満載のティターン十二神と戦う。神に等しい実力を持つ黄金聖闘士とはいえ、実際に神クラスには太刀打ちできないことは原作『聖闘士星矢』にて証明済みである。
しかし、アイオリアは血にまみれ何度も倒れながら、ヒュペリオン、コイオスなど強敵との戦いに勝利する。しかも、強敵たちに実力と闘志を認められ、その技と意志を受け継いでいる。
『星矢』ファンならば、この展開に既視感を覚えるだろう。
そう、これはシュラの技を引き継いだ紫龍やカミュの技を継承した氷河、あるいは黄金聖闘士の血や、最後には魂を受け継いで戦った青銅聖闘士たち全員と合致するのである。
偉大なる戦士たちがぶつかりあった果てに、勝った者に全てを託す。例え自らが死んでしまうことがあっても、その魂は消えてしまうことはない。
これこそが『聖闘士星矢』の魂である、と筆者は思っている。
一見、独特の要素ばかりの『エピG』であるが、作品を読み進めていけばいくほど、これが正統なる『聖闘士星矢』の系譜に連なるものだと理解することが出来る。
また、車田イズムと関係する訳ではないが、最終決戦で、黄金聖闘士たちがペアとなり戦う、というところも原作にはない熱い展開もファンは嬉しい。
聖闘士は一対一でしか戦ってはならないというルールがあり、これは原作では基本的に実現しないバトルなのである。まさに奇跡のタッグ、というべき展開だ。
黄金聖闘士それぞれの特色を活かした戦闘シーンを描くというのはなかなか難しかったに違いないが、そこも岡田芽武は上手く仕上げた。クロノス対アイオリアの前哨戦として、最高の盛り上がりだったといえるだろう。
ラストはまさかの「永遠ブルー(アニメ版『聖闘士星矢』のED曲)」オチでびっくりしたが、筆者はこれもとても『星矢』らしい終わり方だったと思っている(『星矢』はいつも大体後日談もなく唐突に終わるものだ)。
『エピG』はときたま手代木史織作の『LC』と比べられるが、よくもわるくも『聖闘士星矢』っぽさでいえば、『エピG』のほうが上。そう、筆者はこの作品を評価している。
特に『星矢』ファンで読まず嫌いの方、もしくはパラパラと読んだだけで終わったしまった方がいたら、見た目だけで判断せず、しっかり最後まで読み進めて頂きたいとお願いしつつ本稿を結びたい。『エピG』面白いよ。
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