試着室で思い出して - 試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。の感想

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試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。

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文章力
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ストーリー
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設定
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感想数
2
読んだ人
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試着室で思い出して

4.04.0
文章力
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ストーリー
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キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
3.0

目次

女性にとっての服の役割

女性にとって服とは自分を可愛く見せるためのものである。そして可愛くなった自分の姿を好きな人に見てもらいたいと思い、服を選ぶのである。だが、本書で描かれる服の役割はそれだけではない。服を通して人の成長を描いた作品である。この本では女性にとって服がもつもう一つの女性にとっての存在意義が書かれているのだ。渋谷にある洋服屋「Closet」というお店が軸となり、物語が群像劇として進められる。「Closet」では、ある一人の服を愛する店員がお店に来た女性たちに似合う服を提供する。小説内の服のサイズや質感、色合いなどが細かく表現されており、その時の登場人物たちの気分や様子、年齢などの背景も汲み取ったうえで、店員は服を提供する。案外内容そのものは普通である。不思議めいたことは何もない。ただの日常である。しかし、ただの日常にほとんどの人が問題を抱えている。服は私たちの最も身近に存在する自分を変えられるものだ。かの有名なナポレオンが言ったことだ。私たちは学生であれば制服、仕事であればスーツを着て、その場の自分をつくる。だから新しい服を買った時に新鮮な気持ちになるのだ。それが新しい自分を作る服であるからだ。登場する女性たちは自分たちの恋愛にそれぞれ問題意識をもっており、それを変えるべくこのお店に入る。どの登場人物もある服が気にいるが、いざ試着してみると似合っていない。自分が思っているよりも案外自分のことはわかっていないものだ。また恋愛をすると人は盲目になるというが、その通りだと思う。恋愛をしていると冷静でいられなくなる人は少なくないのではないだろうか。冷静でない自分・自分らしくない自分をこの作品では試着室で知らされる。そして店員が自分に似合う服を紹介してくれる。そして皆前向きな気分に変わり、本当の自分らしさと向き合うようになる。試着室の前で自分をもっとしっかり見つめてみただろうか。本気で自分と向き合うのは勇気のいることだ。著者は恋愛や女性の恋心だけを表現するために本書を書いたのだろうか。私は恋愛を通して服を選び、女性たちが成長する姿を伝えたくてこの本を書いたのだと思う。

女心を知ってもらうため、女心を書き記す

一番最初に登場する女性はネイルサロンに務めている。自分の指にコンプレックスをもっていた。幼いころは両親の目の前で自分の指を隠す。指を隠すところがとても可愛らしい。コンプレックスを可愛いと言ってくれた彼氏とずっと一緒にいたいと思うが、自分のことを本気で考えてくれているのか不安になる。しかし、気づく。本気で相手のことを考えていなかったのは自分だと。「Closet」の店員が手を握っただけでネイルサロンで働いていることを教えてくれる場面がある。チーフになることが決まり、そのことで不安でいっぱいだったが、仕事で身についた実力を教えてくれる場面だ。誰でも仕事が忙しくなったり、不安なことがあった時は誰かに相談にのってもらいたくなるものだ。しかし、彼に話すとついつい愚痴になってしまいがち。誰でも働いていて彼氏がいる女性なら共感できることだと思う。初めて好きになった人と共にする生活はドキドキがいっぱいで、退屈しない。しかし、そんな生活にも慣れが訪れてしまうものだ。このエピソードでは退屈が彼の行動範囲とも相まって高まっていってしまう。それを変えるために服を買いにいく。どんな女性もそれぞれの思いをもち、服を買いに行く。その気持ちが可愛らしく、また健気な様子さを表す文章として書かれている。LUMINEの広告のコピーライターとして有名である著者が女心を理解してもらうため、女心を文章として書き記したいという思いが詰まった作品であることが読んでいくうちにいっぱいに伝わってくる作品なのだ。

目を引くキャッチコピーとその意味

「ドレスコードは花嫁未満の、脇役以上で。」さすが。この導入文だけで一気に自分の世界に引きずり込んでいく。私が一番好きな話がこれだ。昔付き合った彼と自分が好きな部下が結婚するという何とも言えない複雑な状況。心から応援できないのが嫌だ、そしてなにより心から応援できない自分がもっと嫌なのだ。ドレスコードは花嫁が着る服ではない。花嫁のために着る服である。相手のことを本気で応援するために、本気で思うためにめいいっぱいのオシャレをするのだという意味のキャッチコピーであると思う。「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」本書のキャッチコピーの意味は何だろうか。試着室とは何だろうか。服を試着するだけの場だったのか。本書では違う意味をもつ。私にはまだ試着室は試着室でしかない。試着室の中で自分の気持ちに気づいたことはない。試着室は女の子の身近にあるものなのにどうしてこんなにも特別な意味をもたせているのだろうか。たぶん、そういうところ、些細な場所、日常にある当たり前の場所は私たちにとってきっともっと特別な何かを伝えてくれるんだということではないだろうか。女の子は恋愛が大好き。試着室で本書を思い出してほしい。思い出し、自分の恋愛を見つめた時、それは本気の恋だと気づけるのだろうか。

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キュンとくる言葉にキュンキュンしちゃう

気になるのは、服じゃなくて、鏡に映る自分?試着室で気になる服を試着していたはずなのに、気づくと鏡の向こうの自分と目が合って、ハッとしたことって、女性ならいちどくらいは経験したことがあるはず。気になるのは、服じゃなくて、鏡に映る自分?この物語は、恋や仕事、家族や将来のことに悩む、ごくありふれた普通の女の子たち5人を主人公にしたお話だ。20代~30代、シングルの女の子たちが、そんな悩みから脱したくて、気持ちを切り換えたくて、渋谷の〝Closet(クローゼット)〝というセレクトショップを訪れる。そこには、店舗からするとかなり贅沢にスペースを取った試着室がある。白い扉を開ければ、足元から天井まで壁一面が鏡になっており、ひとり掛けの黒いソファーが脇を添える。登場人物の女の子たちはみな、そのキーとなる試着室の中で、自分を見つめ直し、本当の自分と向き合い、新たな自分になって試着室から出て行くのだ。キュンと心に響く...この感想を読む

3.03.0
  • MAKOMIMAKOMI
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