キュンとくる言葉にキュンキュンしちゃう - 試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。の感想

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試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。

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文章力
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感想数
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読んだ人
5

キュンとくる言葉にキュンキュンしちゃう

3.03.0
文章力
4.0
ストーリー
1.0
キャラクター
1.0
設定
2.5
演出
2.5

目次

気になるのは、服じゃなくて、鏡に映る自分?

試着室で気になる服を試着していたはずなのに、気づくと鏡の向こうの自分と目が合って、ハッとしたことって、女性ならいちどくらいは経験したことがあるはず。気になるのは、服じゃなくて、鏡に映る自分?

この物語は、恋や仕事、家族や将来のことに悩む、ごくありふれた普通の女の子たち5人を主人公にしたお話だ。20代~30代、シングルの女の子たちが、そんな悩みから脱したくて、気持ちを切り換えたくて、渋谷の〝Closet(クローゼット)〝というセレクトショップを訪れる。そこには、店舗からするとかなり贅沢にスペースを取った試着室がある。白い扉を開ければ、足元から天井まで壁一面が鏡になっており、ひとり掛けの黒いソファーが脇を添える。登場人物の女の子たちはみな、そのキーとなる試着室の中で、自分を見つめ直し、本当の自分と向き合い、新たな自分になって試着室から出て行くのだ。

キュンと心に響く名文が散りばめられている小説

この本の最大の魅力は何といっても、キュンと心に響く名文にある。5編の短編のそれぞれ最後に、ちいさな、だけれども素敵なメッセージが添えられている。その中でも、私が特に気に入ったのは、平凡で、没個性に悩む正子のお話だ。

あしたの服を悩むのは、あしたを夢みるからなんだ。(本文より)

そう、この短編集に出てくる女の子たちに共通するのは、みんな前を向いているということ。毎日に思い悩み、転び、へこたれても、それでもみんなあしたを夢みて、試着室で自分と向き合い、綺麗になろうとする。チャコールグレーのスカート、麻のパンツ、ペイントされたデニム、黒いミニドレス、コサージュ。女ならわかるはず。アイテムひとつを取れば、ほんのささいな物であっても、お洒落は、まるで魔法にでもかかったように、自分を素敵に、最大限魅力的にさせてくれる。読んでいて、本当に勇気づけられた。

物語の最後のメッセージも素敵だけれど、この本はそれ以外にもキュンキュンがあちこちに散りばめられている。まずタイトル。ふだん、作者で読む本を選ぶ私が、今回に限っては、タイトルで選んでしまった。『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』このタイトルに目を止めた人はすくなくないだろう。共感、期待、感動、、、いろんなメッセージが、端的かつダイレクトにタイトルに込められていて、手に取らずにはいられない。

本文の中でもそう。

35歳になって、こんな気持ちになるなんて思わなかった。涙をこぼすような恋愛は、もうしないと思っていた。
洗練された大人は、背中も美しい。
白いカプリパンツに、自分を無理に合わせようとしていた。(すべて本文より)

言葉のひとつひとつにドキリとして、もうまるで上質な恋愛ドラマを見ているようだ。

作者は、言葉の力と“女性”を知り尽くしている

なぜそこまでの言葉を放てるのか。作者のプロフィールを確認して、合点がいった。この小説の作者である尾形真理子さんは、プロのコピーライターなのだ。1978年東京生まれ。彼女は、博報堂(広告代理店)に入社後、ファッションビルのルミネや資生堂、ティファニーなど多くの企業の広告コピーを手がけている。いくつか賞も取っておられ、生活に近い言葉、言葉の持つ力を最大限に活かし、多くの人がハッとするようなメッセージを世の中に発信しつづけているのだ。

尾形さんがとあるインタビューの中で、素敵なことを話していらした。「いざとなったら辞めてもいいのだから、今できることはあきらめないで頑張ってみよう」小説の登場人物5人に共通するように、まさに尾形さん自身が、とても前向きで魅力的な人柄であるのだ。そうして自らが、東京の、大都会での働く女性のひとりとして、彼女は本当に女性を知り尽くしている。そんな人柄がそのまま小説の中で生かされているのも、多くの女性の共感を呼ぶ理由ではないかと思う。

前向きに生きたい女性のお守り代わりとして

この本は、ふだん小説を読まない人、かつて少女マンガ(恋愛モノ)が好きだった人でも読みやすい作品になっている。短編ということで、長さも短く読みやすい。伝えたいことだけに重点を置いたストーリー構成になっているため、まさにタイトル通り、伝えたいことに裏がなく、ストーリーにブレがない。通勤電車や寝る前のほんの短い時間でもさくっと読めて、気分よく明日を迎えられる、そんな小説だ。

残念な点を挙げるとするならば、伝えたいことが明確でムダのないこの小説、登場人物がカタルシスに達したところで、どの物語も終わってしまっている。しかし読み手としては、どの話もその後が気になってしまった。ストーリー寄りのこの手の作品としては、やはりその後の主人公まで書かれていると、なお満足のいくものになったかもしれない。また主人公の5人のキャラクターに、そう差異がなかった。似たり寄ったり。印象的な魅力が見受けられなくて、読後、こんな女性になりたい!と思わせるような女性には出会えなかった。そういう点をいくつか踏まえて、残念ながら、ストーリーとキャラクターの評価を低くさせてもらった。

しかし、言葉ひとつひとつを取れば秀逸!言葉の持つ力を最大限の武器として、多くの人をキュンと言わしめるのは、さすが。あしたの服に悩んで、あしたを夢みる。前向きに生きたい女性のお守り代わりとして、一冊持っていても損はないはず。

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試着室で思い出して

女性にとっての服の役割女性にとって服とは自分を可愛く見せるためのものである。そして可愛くなった自分の姿を好きな人に見てもらいたいと思い、服を選ぶのである。だが、本書で描かれる服の役割はそれだけではない。服を通して人の成長を描いた作品である。この本では女性にとって服がもつもう一つの女性にとっての存在意義が書かれているのだ。渋谷にある洋服屋「Closet」というお店が軸となり、物語が群像劇として進められる。「Closet」では、ある一人の服を愛する店員がお店に来た女性たちに似合う服を提供する。小説内の服のサイズや質感、色合いなどが細かく表現されており、その時の登場人物たちの気分や様子、年齢などの背景も汲み取ったうえで、店員は服を提供する。案外内容そのものは普通である。不思議めいたことは何もない。ただの日常である。しかし、ただの日常にほとんどの人が問題を抱えている。服は私たちの最も身近に存在する自分を変...この感想を読む

4.04.0
  • KazKaz
  • 272view
  • 2111文字
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