最後の交遊録 - 文士の友情の感想

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文士の友情

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最後の交遊録

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目次

エッセイが得意な作家

作家のうちには、小説家としてデビューしながらも実は小説よりエッセイの方が得意という人がいます。


正宗白鳥、広津和郎、丸谷才一といったところがそうですが、彼らは実は評論家としてのキャリアが小説家よりも長いので、フィクションよりもそうではない文章を書くほうが性に合うのは当然かもしれません。


純粋に小説家として文壇に登録されたのに、エッセイの魅力が小説よりまさるという点では、戦前では内田百間、戦後では安岡章太郎がその筆頭でしょう。特に安岡章太郎の場合、初期の作品はともかく、中期以降は小説と銘打った文章までまるでエッセイのような筆致になっていて、もともと資質的にエッセイストなのだなと思わせるものがあります。

名著『アメリカ感情旅行』

個人的に安岡章太郎の作品で好きなのは『アメリカ感情旅行』で、ここでは異国に対する日常的な観察が文明論的な広がりを持って綴られているのですが、それがいかにも小説家的なディティールに富んでいて、それこそ小説的な面白さで読むことが出来ます。

エッセイにおいてここまで面白く書けるなら、あえて小説的な虚構の設定など不要だと作者が考えるのは当然のことで、中年を越えた彼がフィクショナルな世界から離れたのも当然のことだと思えます。

拾遺集としての本

この『文士の友情』は安岡章太郎が平成二十五年一月に九十二歳で亡くなったあと、それまでの刊行本に漏れた作品の拾遺集として出されたもので、主に吉行淳之介と遠藤周作という第三の新人の仲間ふたりに関する文章で成り立っています。


安岡章太郎はかつて「良友・悪友」でも吉行淳之介、遠藤周作との付き合いをエピソードたっぷりに書いていて、他の作家とは違う親密度の高さを感じさせました。この没後の著書が彼等についての文章を含んでいるのはいわば当然で、いわば交遊録の総決算とも言えます。

安岡章太郎と吉行淳之介

副題にある「吉行淳之介の事」は冒頭八十頁に渡る分量で、著者と吉行の長い付き合いを知っている読者には、特に感慨深いものがあるでしょう。

私も『吉行淳之介全集』の月報ですでに読んでいましたが、この本にある「座談会 島尾敏雄<聖者>となるまで」を読んだ上で改めて読み直し、この二人が一時期第三の新人の中心となるコンビとされたのが分かるような気がしました。

ともにお坊ちゃん的な面があり、含羞のある表現を好み、大げさなことを嫌う点で共通するものがあり、作家としての資質などは異なるのに、なぜか二人が並ぶとしっくりくるのです。


過去にも広津和郎と宇野浩二のような形影相伴うといった作家仲間はいましたが、戦後の作家ではこの二人がその代表でしょう。もちろん、作中でも書いているように、安岡が四十を過ぎてからの二人は会うことも少なくなり、交友関係も別々のものになってゆくのですが、それでも「芸術の友にあるのは死別ばかりで、生別といふものはない。多くの旧友と来往や消息がとだえようと、喧嘩別れしようと、私は友人としての彼等を失つたと思つたことはない」という川端康成の「末期の眼」の引用のように、その友情は途絶えることはありませんでした。

吉行作品の解説及び遠藤周作との関係

吉行淳之介のファンでもある私は、著者が吉行の代表的短篇である「娼婦の部屋」「寝台の舟」「鳥獣虫魚」などを丁寧に読み解いてゆくところもうれしく、特に「食卓の光景」の部分は、篇中に安岡章太郎自身が出てくることもあって、その舞台裏を知ることが出来て楽しめました。


また、遠藤周作とは慶応からの付き合いで、それがカトリックがらみでさらに深い関係になったのが、収録されたプライベートな書簡によってよく伺われます。

阿川弘之との関係

この単行本の函には、その裏に阿川弘之の推薦文が印刷されていて、少し感傷的な気持ちになります。というのも、阿川弘之が生前最後に刊行した「鮨そのほか」の末尾に、安岡章太郎への言及があり、阿川による安岡への率直な感情が吐露されているからです。これを読んだ時は、ああやはりそうだったのか、と頷く思いでした。


各人の交友関係のエッセイなどで判断すると、第三の新人とされる作家のうち、その交友の中心となってきたのは吉行淳之介と遠藤周作で、その周辺に彼らとつながる形で、安岡章太郎、阿川弘之、庄野潤三、三浦朱門、小島信夫らがいるという感じでした。このうち、阿川弘之と安岡章太郎はとりわけ吉行淳之介と遠藤周作との関係が深いのに、二人だけの交友というのは滅多に書かれていません。そのせいで、この二人は仲が悪いのではないか、と勘ぐらせたのですが、阿川弘之の文によると、やはり一時期仲が険悪になって交流が途絶えたとの事でした。

「生別というものはない」

それがこうして死後の刊行とはいえ、安岡章太郎の本に阿川弘之の推薦文が載っているというのがホッとした気持ちに誘うのです。


二人の本を愛読してきたこちらからすると、まさに「末期の眼」の通り、芸術の友には生別というものはないのだ、と思わせます。

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