愛憎相半ばするラブレター
荷風と谷崎荷風という作家は癖が強く、特に人間としては嫌な性格としか呼びようがなかっただけに、作品、人物両面から色々なことが語られています。また、断腸亭日乗は近代作家の日記の中でも例を見ない大部なもので、その存在によっても様々な切り方が可能です。同じく小説家らしい小説家だった谷崎潤一郎がもっぱらその小説といくつかのエッセイのみによって評論がされるのに、荷風への言及のされ方の多彩さは好対照と言えるでしょう。ラブレターそういう汗牛充棟ただならぬ評論、エッセイ、研究本の中で、この本も「小説」と銘打たれていますが、むしろ評伝と言ったほうがふさわしい内容です。小島政二郎の荷風への思いがあふれる作品ですが、荷風という作家が実に多面的なだけ、このラブレターのような小説も多面的です。文章はまず荷風の容姿を述べるところから始まっていて、今ではわかりづらい作品以外の作家の魅力(同時代において小説家のファンにな...この感想を読む
4.04.0
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