高橋作品唯一ともいえる落ち着いて見れる王道作品
ヒーローものの要素てんこ盛り
1985年放送の本作、「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」を代表とする第2次アニメブームと呼ばれた時期が終わろうとしている頃の作品だ。マジンガーZなどのスーパーロボットからガンダムなどのリアルロボットアニメに主流が移行し、それらもそろそろ語りつくされたかな、という時期。本作は正直なところ「太陽の牙ダグラム」「装甲騎兵ボトムズ」でリアルさを追求しつくした高橋良輔が作ったにしては設定の目新しさはほとんどない。主人公が主役メカの開発者の息子であることはスーパーロボットものの王道だし、異星人との混血が主役級の位置を占めるのも「伝説巨人イデオン」で経験済みだ。むしろ新しい設定なんてもうないだろうと居直っている気配すらある。しかし過去何度も使われているネタというのはそれが有効だから、という裏付けでもある。何と言っても地味すぎるダグラム、ハードすぎるボトムズに比べて本作は非常に親しみやすい。第2部は当時流行っていた「北斗の拳」のテイストをそのまま取り入れたのではないか、と思えるがそれが少しも安っぽくない。30年の歳月を経た現在でも人気が高い本作、どのあたりが良いのかを掘り下げたい。
ゴステロを語らずに本作は語れまい
主役たちが王道すぎて意外性が無いなかで、敵キャラであるゴステロは唯一と言っても良い異色キャラに仕上がっている。「勇者ライディーン」のプリンスシャーキンに始まり「コンバトラーV」のガルーダ、「機動戦士ガンダム」のシャア・アズナブルなど「適のエースは美形で華麗」と言う概念が定着していたがこの時期、彼はそれを打ち破った。正直なところ全く美しくない。死んだと思っても死なない。とにかくしつこい。サイボーグ化してまで生き延びて、しかし所詮ヤラレ役の枠を超えないのはわかっている。
不死身感は当時流行っていたターミネーターのオマージュなのは明確だが、しだいに残忍性が増していくにつれ、不思議とまた出てきてもいいな、と思えるキャラだった。後半のルカインもほぼ北斗の拳に出てきそうなビジュアル&性格で立ち位置が重要な割に陳腐な感じも漂う。それだけにゴステロがやたらと目立っていた。
意外性ゼロのヒロインだけどやっぱりアンナがいい
ロボットもののヒロインと言えば可愛い系か美形かの2択だがアンナは文句なくかわいいタイプだ。高橋監督作品では「ダグラム」のデイジーが一途なのだが正直かわいいとは言い難く、「ボトムズ」のフィアナは美人だが近寄りがたい。その二人と比較するとアンナは何があってもエイジを信じるというベタなヒロインで特殊な能力もなく実に庶民的なのだが見ていて飽きない。地球にたどり着いたときにシンプルに花を贈る姿が印象的だ。後半は成長して聖女ジュリアと役割が被らないかとも思ったが、常にエイジを心配しつつも時に行動的な姿はまさに王道ヒロインだった。とにかく本作は人間性などがベタで逆に言えば落ち着いて見れる。第2部のエイジの浮浪者姿は冷静に考えると何の効果があるのかよくわからないが全く予定調和の範囲だし、ロアンがグラドスに寝返ったというのもどこで帰順するのかという楽しみになっている。デイビットとシモーヌの恋愛の顛末をきちんと書いているところも好感が持てる。
つまるところ王道ってサイコー
本作は前述してきたように基本的に地球がグラドスの支配下になるという展開とフォロンの存在を除けば完全に先が見える。それなのに文句なく面白かった。コーヒーに例えれば不要な雑味を取り除いてうまみだけを残した、と表現していいだろう。意外な展開についてはボトムズで十分やりつくしていることもあり、あえてシンプルでわかりやすく、という道を選んだのではないかと私は思う。ダグラムは少々だらだらとした感があったが本作は実にリズムが良く見ていて飽きが来ない。メインストーリー意外のスピンオフや前後の話が無限にできそうなボトムズとも違い、本編+完結編の「刻印2000」のみで十分に語られている。エイジはアムロみたいに悩みすぎず、カミーユのように精神崩壊することもなく、ヒロインは可愛く、友人たちもそれぞれの個性を発揮し、主要キャラは誰も死なず、侵略者にはきちんとした努力の結果で勝利し、プロットの破綻も無く、意味不明な謎かけや未回収の伏線もゼロですっきり終わる。王道っていいな、ありがとう、と心から思える。この時期ブームに乗って出せば売れるだろうという粗悪な作品も多かったように思うが、本作はきちんとカタルシスを得られる。意外性ばかりで専門誌を見ないと意味が分からないなどという不親切さもない。主役メカはかっこよく、必殺技(V-MAX)は痛快。しいて指摘するとすれば地球編でもう2、3歳アンナを成長させてほしかったな、と個人的に思う程度。高橋監督ありがとう、もうおなか一杯、おいしかったです、と心から言いたい。
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