タイトル負けしている作品集
目次
タイトルはさすがにすごいのですが
短編集で、タイトルを羅列すると、どんな物語なんだろうと読む気にさせます。「虫卵の配列」(なんだなんだなんだ?のタイトル)「羊歯の庭」(同じく、はあ?のタイトル)「ジェイソン」(13日の金曜日もどきか?)「月下の楽園」(すこし普通のタイトル)「ネオン」(このタイトルが一番凡庸ではあります)そして「錆びる心」(いいタイトルですねえ。すばらしい)。タイトルを生かし損ねている物語集というか、すべての物語がタイトルに負けています。
虫卵の配列は虫卵をもっと使うべきだった。
「虫卵の配列」においては一見、タイトルと内容が関連性がないです。これは不倫の相手の奥さんにいやがらせを受けているが、なんとか愛を成就したいという女性・瑞恵の物語で、それを相談される聞き手による視点で展開されるのですが、この作品は、微妙に読みにくかった。わかりにくい、というか、文章も内容も理解しががたいというか。でもなぜ、理解しがたいかは、この物語が瑞恵の妄想だからというので腑に落ちるわけですが、さらにいうと、ラストで、この物語が美しい純愛ではなく、ただの瑞恵の妄想だということがわかった時点でどんでん返しがそこはよかったです。そういう意味ではオチが一番、よかった作品。問題は虫卵の使い方だと思います。せっかくの気味の悪いネタなので、もっと、使えばよかったと思います。物語的には出てくるのはたった、二回。(それをテーマにした劇という形での登場はありましたが。)そうすれば、おどろおどろしさも加わって名作になったのにと思います。
タイトルを生かし損ねている内容群
「羊歯の庭」では、一言で言えば、不倫相手に奥さんと別れるかどうか、迫られ、業を煮やして去られるという物語。平凡ですね。羊歯の庭というのは、不倫相手と住む予定だった庭のことですが、これもですね、庭に、この不倫相手がかつて殺した男性の遺体が何十と埋まっている、とかいう設定にすればびっくりだったんでしょうが、この物語のオチは、かつてなんでこの不倫相手が主人公を捨てたかという理由になっているのですが、「それがどうした?」というオチでどうってことない。このタイトルを生かし損ねています。
「ジェイソン」はまだ納得できます。酒乱の話で、酔うととんでもなく暴力的になる男で、しかもそのことを覚えていないという男の話。オチは、実家に帰った奥さんと久々に対面した時、ギブスをつけていた(つまり自分の暴力で)。少し、笑いましたというか、プチショックではありましたが、これもまたジェイソンというには弱い。自分の酒癖の悪さを聞いて回る旧友たちとかがみな、なぜか、体が不自由になっている(つまり主人公のかつての暴力で)とかがあれば、もっと笑えたと思います。
設定からいうとおどろおどろしさが欲しい
「月下の楽園」は、庭好きの男が、荒れ放題の庭に惚れて、その家のある隣の着物悪い家を借りて、その庭に勝手に入っていき、その家の犬に追われてやむなく殺し、逆に(元来心臓が弱いため)その家主を幽霊と間違えてショック死してしまうという話でした。着物悪さでリーダビリティーがあるのに、これもまたオチが期待はずれ。それをタイトルが納得できません。なぜ、それほどまでにこんな庭がいいとこの男が思うのか(それがタイトルとの関連だと思うのですが)が、ほとんど描かれていないというか、伝わってこない。いっそ、本当に幽霊とかが出てきて、ずっと対話がなされてというほうがよかったのではと思います。
なぜか意味のない作品もあり
「ネオン」がまったく意味のない作品。組に入った新人チンピラが可能性がありそうななさそうな、そして結局、黙って逃げていく、という話。「はあ?」と言いたくなります。こんな作品を書く意味がどこにあったのでしょう?なんの感情移入もできず、釈然としなかった。世界的に他の作品とはまったく共通項がない作品ではありましたが、もっといえば、なぜ、このタイトルと言いたくなる作品で、オチもリーダビリティーもなしでした。
もう一捻りして、ワクワク感がほしかった
「錆びる心」は、夫婦の裏切り裏切られたの話ですが、読み応えは一番ありました。だが、これもモチーフになるものが弱い。夫への復習といったって、黙って出て行くことだけ。それが復習になるの?という点。そして主人公が家政婦として雇われる先の家が、多少魅力的な設定になっていますが、これもまたもっと気味悪くできたのにと思います。たとえば、近親相姦な感じを全面に醸し出すとか、家族共通の犯罪があるとか、実は、全員、過去の家政婦で成り立っている家族で、オリジナルの家族はみんな殺されているとか。そうすればワクワク感が生まれたはず。この作品も「錆びる心」というタイトルと、内容があっていない。確かに主人公の疲れ具合というか、やり場のなさ、みたいな感じはよく伝わってはきましたが。
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