現実のように描くばかりが能じゃない - バットマンの感想

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現実のように描くばかりが能じゃない

4.64.6
映像
5.0
脚本
4.4
キャスト
4.8
音楽
4.8
演出
4.2

目次

ティム・バートンの描く魅力的なゴッサムシティにわくわく

つい先だって「ダークナイト」で、クリストファー・ノーランの陰鬱で硬質でリアリティー溢れるバットマン、そして何よりも、作品と共に心中したとも言える故ヒース・レジャーの強烈なジョーカーを見て、圧倒されつつもしばらくどんよりと沈んでいたわけですが、1989年ティム・バートン版のバットマンを見直して、ああ、やっぱりこれが一等最高だな!とご機嫌で再認識したのでした。

ティム・バートンは、1982年の監督デビュー以来、常に映画を撮り続けている、パワフルさの衰えを見せない全くすごい監督ですけれど、個人的には1994年の「エド・ウッド」までのバートンに非常に愛着を感じていて、その後の作品にはさほどの思い入れはありません。とはいえ、どの作品を見ても、一目でそれと分かる「ティム・バートン印」の刻印が押された多くの作品たち。その確固たる世界観でもって精力的に作品を生み出し続けていることは驚嘆に価します。

そんなティム・バートンの仕事の中でも、「バットマン」は幾つかの成功を経て、いよいよ大きなバジェットでもって彼の才能とこだわりを存分に表現出来るという時期の作品であり、バートンの世界観の魅力と迫力といったら、全く古さを感じさせないどころか、改めて新鮮ではっとさせられるものがあります。

CG全盛の今では、どこまでも現実のように、本物のように描く、作り込むということが極まっていっていますが、それって果たして本当に必要なこと?とこの作品を見ていると改めて思わずにいられません。画質はいいほうが当然いい、ということで、どんどん高画質になって4K,5K・・・どこまで行くの?的な進化と同様、本物らしく作り込むことがいつでも正しいというような前提は、所詮枝葉末節というか、バートン版バットマンを見ていると、ある種のごまかしのようにすら思えるのです。

確固たるイマジネーションがあり、どこまでも暗く予感的な夜の暗さがあり、そこに跋扈する異形の者たちがいる。そんなバートンの描く、ゴッサムシティで繰り広げられる毒気のある笑いを含んだファンタジーのシンプルな力強い表現は無性にわくわくさせられる面白みに満ちていると思います。

ダニー・エルフマンの出世作でもある。そしてプリンス

全ての要素がひとつの方向に向かってそれぞれを高めるように作用し合っている調和は、優れた映画の常ですが、この作品においてもさまざまな調和の素晴らしさに感心せずにはいられません。

その中でもやはりティム・バートン作品の常連であるダニー・エルフマンの音楽。重厚で仰々しい迫力があって、夜の予感に満ちていて。私、今でもこのバットマンのテーマを聞いただけで反射的にわくわくします、笑。本作以降もエルフマンはバートン作品にとって最も重要な一部を担い続けていて、エルフマンなくしてはティム・バートンの映画は成立しないと言っていいくらい、切っても切り離せない存在です。

今作では、プリンスの起用も話題になりました。作中とエンドロールでは幾つかプリンスの曲が使われてはいるものの、プリンス版「BATMAN」の位置づけは、この作品にインスピレーションを受けたイメージアルバムで、映画がここから幾つかを引っ張って来て使用した、というものです。

しかし、今改めて見ると、プリンスの音楽が挿入された箇所は、プリンス色が強すぎて、今ひとつ映画に馴染まないかんじは否めません。色々大人の事情があったには違いないのでしょうが、無理に曲を使わず、イメージアルバムはそれはそれとして独立してあっても良かったのじゃないかなーとは思います。

でも、このアルバム、高校生の頃好きで良く聞きました。プリンスは映画のセットに入った途端、「音楽が聞こえる」と言って、スタジオに戻ってすぐさま書き上げ、かかった製作期間はたった一週間だったという伝説がありますが、細かなクオリティーぶっとばして、すごく勢いがあってキャッチーで楽しくって、聞けばあっという間にあの怖いようなわくわくするようなバットマンの夜の世界に引き込まれてしまって。

それだけ美術監督のアントン・ファーストの作り上げた毒とユーモアのある、どこかロマンチックなゴッサムシティのイメージは素晴らしかったのだろうなと思います。

魅力的なジョーカーとブルースとヴィッキー

誰もが認める、至上最高のヒールの一人であるジャック・ニコルソンのジョーカー。やっぱりやっぱり大好きです。滑稽なのに底知れないギャングの怖さがあって、予測不能な狂気があって。ギャングの親分を殺すシーンとか、残虐なのに声を出して笑ってしまう。多くの人にとって、この作品のイメージはこの完璧すぎる「笑う殺人鬼」ジョーカーのイメージなのではないかと思います。

そしてブーイングの中キャスティングが決まり、見事なブルース・ウェインを演じたマイケル・キートン。このバットマンが後年「バードマン」として結実すると思うと、また感慨深いものがありました。

キム・ベイシンガーはこの「バットマン」と「L.A.コンフィデンシャル」が一番のお気に入り。この作品では、衣装がとっても素敵で、エレガントなものからマニッシュなものまで、小物使いも含めてヴィッキーの多面性、分かりやすい女じゃないわよ的魅力がファッションでよく表現されていたと思います。ちょっとダイアン・キートンみたいな鼈甲の眼鏡にベレーのパンツスタイルとか、すごくチャーミングでした。

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