なぜ長期連載にならなかったのか
クリエーター集団のCLAMPの良作
漫画好きを公言している人で、CLAMPの名を全く聞いたことがない、という人はいないだろう。80年代から同人作家として、90年代からは商業作家して第一線で活躍するクリエーター集団。『カードキャプターさくら』『X』『魔法騎士レイアース』などなど、代表作を挙げれば枚挙にいとまがなく、アニメ『コードギアス』や『BLOOD‐C』のキャラクターデザインを手がけたことでも知られている。『コードギアス』では、狙っているのかCLAMP作から飛び出してきたようなキャラクターがいたり、『BLOOD‐C』の構成・脚本がCLAMPのストーリー担当・大川七瀬であったりと、アニメ業界にも強い影響力を持っているのだろうと予測させる。事実、CLAMP作品は短編を除いてほぼアニメ化している。
『ANGELIC LAYER』も、五巻で終了という極めて少ない刊行数でありながら、アニメ化までこぎつけている。しかも漫画版とは結末が分岐する……という手間の入れっぷり。となれば、アニメ業界からCLAMPがいかに寵愛を受けているか推して知れるというものだろう。
だが、実際『ANGELIC LAYER』は、影響寵愛云々以前の問題として、非常に面白い設定の物語である。
そもそもCLAMPは導入部から読者の興味を惹き付けるようなインパクトのある設定を持ってくることが多い。『ちょびっツ』などはその最たるもので、連載一話カラー1ページ目でパソコンが人間型、というド級のインパクトを与えてきた。
『ANGELIC LAYER』は、一ページ目でこそないものの、「動き、戦わせる人形を創る」というわくわくする第一話に仕上げている。みさきがヒカルを創り上げるシーンは実につぶさで、まるでミニ四駆やガンプラを作るときの楽しみが、そのまま表現されているようだった。当時『ANGELIC LAYER』を読んだ中学生の作者は、「なにこれ作りたい!」とひどく興奮したものだ。VRが家庭用ゲーム機でも導入される今の技術なら十分作れそうなのだが、どうなんでしょ。
その後も、ヒカルと共に勝ち上がっていくみさき……と少年漫画顔負けのワクワク展開が続いていった『ANGELIC LAYER』だが、なぜかそのまま勝ち進み続け、一発目で地区大会優勝、全国優勝とトントン拍子に進んでしまい、終わってしまった。あまりにもあっさりしすぎていて、「あれ? この大会ってめっちゃ簡単なんじゃないか?」と思ってしまったほどだ。
もちろんそんな訳がなく(たぶん)、単に製作者側の都合で、あっさりと連載を終えた可能性が高い。
ではなぜ『ANGELIC LAYER』が短命に終わったのか、次項から考察していこうと思う。
作者都合なのか人気がなかったのか
これを紐解くには、当時の状況を拾い集める必要がある。ちなみに、筆者は当時の掲載誌月刊少年エースを読んでいた訳でも、連載当時ネットを観て当作品の評判を追っていた訳ではないから、全て推測になることを容赦されたい。
少し情報を集めてみたが、『ANGELIC LAYER』が“打ち切り”という意見はみることが出来なかった。ご存知のとおり、打ち切りというのは「人気のない漫画を編集部が強制終了させる」という意味だが、『ANGELIC LAYER』はそれにはあてはまらないのだろう。そもそもアニメ化までした作品が打ち切りになるとは考えにくい。
では、やはり作者都合、または意図という線が濃厚になる。
そもそもCLAMPは序盤から伏線をめちゃくちゃに張りまくる印象の強い作家だ。イメージとしては、ひっかけるための紐があちこちに張り巡らされ、脱出できないので仕方なくひっかかってやったら上から金ダライが降ってきた、という感じのトラップ系伏線を仕掛けてくる(『カードキャプターさくら』の月関連、といえば頷いてくれる人もいるはずだ)。
それにしては『ANGELIC LAYER』は伏線が少なく、ストレートに物語が進んでいく。少年エースは少年向けというより、中学生ぐらいの年齢層が購読層だ。そんな年齢層を相手にするには、やや素直すぎるようにも思えた。
これが意味することはつまり、『ANGELIC LAYER』は最初から長期連載をさせるつもりはなかった、という風に考えられる。
振り返ってみれば、弱点を看破すれば一瞬でやられていくライバルたち然り、都合よく空手をやっている友人の姿を見てみさきがパワーアップしたりと、『ANGELIC LAYER』は使い捨ての設定が盛りだくさんだった。
あれだけワクワクする導入部を持ってきておいて、現実とは非情なものである……。もっと広げられる設定だっただけに、もうちょっと読みたかった、というのが素直な感想だ。
それを差し置いても、面白い良作
だが、そもそもCLAMPは長期連載をすることがほとんどない。あれだけ少女たちに人気だった『魔法騎士レイアース』も続編合わせてたった六巻で終了、と調べてびっくりしている筆者である。
『ツバサ』や『xxHOLIC』を除けば、CLAMP表題作はほとんどが短命だ。なれば、『ANGELIC LAYER』短命も必然のことだったのかもしれない。
『ANGELIC LAYER』も短命で終わるにはもったいない作品だったが、それを嘆くよりも、CLAMPがコンスタントに良作を生み出せることクリエーターであることを確認できることが何よりなのかもしれない。
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