品があるストーリーと文章で読みやすくうまい - 一九七二年のレイニー・ラウの感想

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一九七二年のレイニー・ラウ

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
3.50
感想数
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品があるストーリーと文章で読みやすくうまい

4.04.0
文章力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
設定
4.0
演出
3.5

目次

品があり優しい作品群

8つの作品が収められていて(エピローグ、プロローグ的な作品も含みます)、一気通読して、それぞれの物語がテーマや登場人物が違いこそすれ、同じ作者により書かれたものだとわかります。一言で言えば、品がある、ということなのでしょうが。決して、文章が荒れたりせず、それぞれのシーンは柔らかくつながれ、登場人物たちの会話もどちらかというと物静かに、丁寧な受け答えを通して、進んでいきます。そしてそれぞれの主人公は決して本心を言葉では語らず(脇役の人が代弁することこそあれ)、恋という関係性のもと、大人の男女がそれぞれの気持ちを探り探りして、最後は、成就するかな、というところで、いずれの物語も幕を閉じます。

とにかく優しくて、まるで、記憶を呼び起こし、角を取って、セピア色にデフォルメして、書いているという感じなんでしょうか。奇しくも作品の一つで、「経験が少ないことの自覚」して、「可能性があったかもしれない恋愛(でも実現しなかった恋愛)」を書けば小説になるなんてことをまさに言っていて、その通りだと思っています。

ちょっと危険な性愛の醸し出し

この物語群には不倫はもちろんのこと、近親相姦や同性愛などが、醸し出すという範囲で(そのものの描写や実現した場面はない)通底に流れています。表題作では、娘と父親の関係がそう。娘がなんか、父親を誘っているように見えます。父親の気持ちは香港で出会った女性にあるように書かれていますが、本当は逆なのかな(つまり、娘への気持ちを香港の女で処理しようとしている)と思ったりしますが、実際には長年の愛なので、香港の女性を本当に好きなのでしょうけど、娘がこの香港の女性と父親が再び恋に寝ることをけしかけるという行為をもってしても、なんか、父と娘の共通した思いがあるような気がします。少なくともこの作品では明らかに、父娘の隠れた思いが通底に流れています。

「満月の惨めで」では、同性愛です。しかし、まだ始まってなくて、お互いにそうなってもいいかなと思っているという状態です。非常にスムーズに文章は流れ、危うさとか醜さとかいうのがありません。ここでは女性の娘(好きな男の子が死んだのになんの反応もしない)が、サイドストーリーとして持ち出されていて、最終的には、娘がその男の子のお通やに行っているところを母親が目撃して、同性愛が成就しそうでしなかった(のではないかと思われる)。どう関係があるのか、読みとく必要もないのかもしれませんが、少なくとも「こんなことしてちゃだめ」と母親が自制したという風でもなく。まあ、間を刺されたという感じなのかな。でも母親の気分はとてもよさそうでした。

男が上品で強引でなはいものの、物欲しそうで

文章はハードボイルド調ではありますが、ハードではありません。それからそれぞれの作品の男の行動が、どちらかというと、相手任せ、引っ込み思案、積極性の欠如、言葉だけ巧み、という感じで、本当は女性を欲しいと思っているのに、手に入らなくてもいいと思っているというか、手に入らなくてもそれは自然なのだ、ということを、あれこれ巧みな文章(まあ言い訳と言われても対抗できないでしょう)で語っています。それはそれでとても上手で読み応えもあるのでよろしいのですが、男の立場からいうと、のろのろと女のそばをうろうろするのはどうかなという気がする。相手が呼んでいるとか(「こっちきて」とか)リーダーシップを持っているならともかく、そうでもないのに、エッチさせてあげると言ってもらえるまで、できるだけ、女のまわりをうろうろしていると批判されても仕方ない行動様式になっています。この短編集に出てくる男性たちに共通している。そういう意味では物欲しそうで、共感はできなかったです。もっと強引でもいい気がしました(もっとも、そうなってくると、その辺のハードボイルド小説と大差なくなるとかいう批判も出てきましょうが)

練りこまれた文章、上手な会話

文章がとても巧みですね。これは本当に勉強になります。文章創作講座で使えそうな感じです。それは綿密に計算されたというよりは、角をとり、できるだけやわらかいコネクションを使って(選んで)言葉をつなげていくという感じでしょうか。

会話も非常にうまい。ハードボイルドの書き手たちが好んで使う「するよね?」「するってわけ?」

「きみはする」「そしてあなたもする」みたいな、オウム(付け足し)返し、質問返しの上級レベルが横行しています。そして、彼女はのけぞって笑ったとか、声を出さずに笑ったとか、付け加わりますが、面白い会話(つまり、ぷっと、笑ってしまうような会話)はあまりなかってですね。巧みな、まあ、口説き会話とでもいうんでしょうか。それは秀逸です。

この作者はまあまあもてたんだろうなと思って、あとで画像を探しました。

それからびっくりするような場所設定とかはなかったですが、逆に、リアルでした。

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