弁護士事務所をテーマに据えたエンタメ作品
法律事務所の内実をあばいた金字塔的作品
マフィアの片棒をかつぐ弁護士事務所、FBIへの協力との葛藤がテーマです。ハーバード法律大学院をトップクラスで卒業した主人公は夢のような待遇の大手法律事務所に就職。そのかわり早朝から深夜まで働き通し。そんななかで、マフィアに関連するマネーロンダリングを請け負う仕事に手を染めざるをえなくなり、FBIの接触で捜査協力の要求、身の危険などなど、追い詰められていくなか、主人公はFBIとマフィアの両方をうまく操り、大金をせしめて逃亡するという結末です。
著者のジョン・グリシャムはこの一作で、地方の一弁護士から一気に著名人になりました。彼を追う形で弁護士作家がどんどん生まれる元にもなっったようです。タックスヘイブンの存在や、弁護士生活の悲喜こもごもなど、これまでにあまり知られていなかった世界を見せた作品です。そういう意味では忘れ得ぬ金字塔的な作品ではあるのでしょう。
前半部の超VIP的暮らしは垂涎もの
前半部分の弁護士の超VIPな生活ぶりは秀逸で、私たち一般ピープルにとってはとても興味深いです。だから、よだれを垂らしながら読む感じ。そういう意味の読み応えがありました。そしてリーダビリティーがお見事。オミットのタイミング(つまり必要ないシーンの削除)もいいです。
後半になるにつれご都合主義で、疑問点が散見
ただ、この作品は後半になるにつれ、急ぎ足になりすぎて、ご都合主義的な所がばんばん出てきて気になりました。たとえば、前半部で存在感のあった弁護士事務所の幹部が後半の追いつ追われつの所では全く姿を消している(どこに行ったんだ?)、主人公の夫人にほとんど危害が及ばない(もっと、脅しに使われていくだろうのに)、主人公を助ける女(探偵事務所の秘書)にも同様(どうしてFBIは彼女を見つけることができないのだろう)、FBIもマフィアも血眼になって特定地域を探しているのに主人公一行は見つからない(そんなこと有り得るだろうか?)、マフィアが海岸を占拠している風なのに、何の傷害もなく逃げ切れたなど。ちょっと現実的には疑問点がありありです。
あっけないラスト
ラストの処理もまずいですね。読後感に不安と幸福を同居させたものをもたせることを狙いとしているようですが、ちょっと軽くてあっけなさ過ぎます。ハッピーエンドと言われればそれまでですが。
ただ、とにかく一気に読め、エンターテイメントとして言うことはないとは言えますけど。
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