刺青人皮を巡る男たちの蘇民祭
一言で言い表せない『ゴールデンカムイ』の底の深さ
いつか、誰かが『ゴールデンカムイ』について、「この漫画は和風闇鍋ウェスタン」であると語っていたのだが、「闇鍋」ではこの漫画の魅力を十分に語り切れてはいない。
というより、『ゴールデンカムイ』を一言で表せと言われても無理なのだ。
歴史と、アイヌ文化と狩猟、敵味方問わず濃すぎるキャラクター。そしてパロディと爆笑必至のギャグ。このような設定だけでもインパクト十分なこってり系ラーメンのようなものなのに、画力や構成(たとえば、一エピソードに単行本一冊かけないことなど)、全てが洗練されており、まるで淡麗スープのような仕上がりになっている。
くどいところはくどく、あっさりするところはあっさりする。「足し算」と「引き算」を併せ持つ、まるで懐石料理のような漫画なのだ。上品な懐石にしては野趣溢れすぎているから、「ジビエ懐石」とでも称すればいいか。
この「ジビエ懐石」こと『ゴールデンカムイ』は、2016年漫画大賞を受賞した。これより先、実写化やアニメ化など苦難の道が待っているだろうが、更なる飛躍を筆者は確信している。だってめちゃくちゃ面白いんだもん。
面白いのは漫画なのか作者なのか
小学生のようなコメントをしてしまって恐縮だが、では何が“めちゃくちゃ面白い”かを冷静に考察していきたい。
冒頭でも述べたが、『ゴールデンカムイ』の面白さは一言では言い表せない。そして、どういった作品であるかも前項でおおまかに述べたが、これでもまだまだ足りない。というより、まとめきれない、と言ったほうが正しいか。
すでにこの漫画を読んだ方なら、正統派大作漫画を騙った『ゴールデンカムイ』の正体にお気付きだろう。恐るべきまでの、ネタに次ぐネタとネタ。ホモの純愛ラブコメもあるし『インディージョーンズ』『ショーシャンクの空に』もあるしドリフもあるヨ!
『ゴールデンカムイ』には、作者の知っているもの、面白いと思ったものがふんだんに溢れ、読む者を選ばない。そしてそのなかで筆者は、作者・野田サトルの“ひたむきさ”に気づかされた。
『ゴールデンカムイ』の中には常に“尊敬”がある。頻繁に登場するパロディやオマージュもそう。そして、なによりテーマに“尊敬”がある。
アイヌ文化、自然、獣、料理、マタギ、屯田兵、命。全てに野田サトルはひたむきに向き合い、綿密な取材を通して知り、自分のなかで消化して、一冊の漫画として仕上げている。
もし、野田サトルや『ゴールデンカムイ』公式のSNS、ヤングジャンプを読んでいる人がいるなら、作者がどれほどの頻度で取材をしているか知っているだろう。実際にシカの脳みそを食べてアイヌの血を引く猟師のドン引きされたり、危険なヒグマの親子に出くわしたりしている。これほど自分の漫画に力を込めている作者はそうはいない。
作品には作者の顔が見えるが、これは顔どころの話ではない。『ゴールデンカムイ』は野田サトル人生そのものを映す作品だ。混ざり気なしの一大傑作だ。
野田サトルは編集者と「いつの時代に読んでも面白い作品を作る」と語っているそうだが、それはもう間違いないことだ。
『ゴールデンカムイ』は、作者が命を閉じてもなおこの世に残り、ずっと世の人を楽しませてくれるだろう。
「命が生きた価値はなくなりはしない」とアシリパが言っているとおりに。
この漫画の価値は、名声と共にずっと世に巡り、多くの人の歓びを生むに違いない。
アシリパを裏切る男とは誰だ?
さて、のっけから『ゴールデンカムイ』への愛を隠さなかった筆者であるが、ここで一ファンらしく、ネタバレ過剰な考察をやっていきたい。
それは、占い師インカラマッが予言した、アシリパを「裏切る男」の存在である。
どうみても怪しいのはキロランケであるが、あまりにもあからさますぎてハズレだろう、と筆者は見ている。いつぞやの扉絵でキリストの位置にアシリパ、ユダの位置にキロランケを配置していると話題になったが、そもそも野田サトルがそこまでミエミエなことをするだろうか?
次に怪しいのが白石。白石が数々のドジを踏んでいるように見えて、杉元一行の助けになっていることは読者諸氏もよく承知だろう。だが、実はかなり頭が良く機転が利く。まだコミックス未収録だが、白石の数々の脱獄手段から、奴の頭の良さはお墨付きだ。コミックリリーフのような役回りを演じつつ、裏切り者とわかったときの読者のショックを考えれば、白石が妥当といえる。
また、主人公の杉元が裏切るという展開も面白すぎる。杉元は「たとえ金塊のかわりに目標としていた金が手に入ってもアシリパを裏切らない」ことは競馬の際にも明らかにされているが、もしそんな杉元が裏切る展開を作者が用意していると妄想すると胸アツだ。勃起!!
筆者の予想は白石裏切りだ。脱獄王でありコミックリリーフであり狂言回しという最高の展開。これこそページめくりからの急展開を武器とする野田サトルらしいではないか。
あぁ、木曜日が待ち遠しい。『ゴールデンカムイ』がどうなるか、読者諸兄と一緒に筆者も楽しみにしていきたい。
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