ノーランとヒースの映画
シリーズものが陥る罠からのリブート
原作もののシリーズ作品は、作を重ねる毎に作品のモチベーションや精度が落ちて来るものと相場が決まっている、概してそんな先入観があります。特にいわゆる「ヒーローもの」に関しては、それは避け難く通る道なのだというのが基本認識なので、「◯◯パート2」とか「◯◯リターンズ」みたいな作品に対してはつい懐疑的になってしまいます。そしてやはり、その認識は残念ながら覆されることが少ないものです、あくまで個人的な意見ですが。
しかし、この「バッドマン」シリーズの変遷に関しては、その認識は当てはまりません。それはもちろん、ひと言で言えばクリストファー・ノーランが監督になったからに他ならないというのは誰もが認める最大の要因であることでしょう。
シリーズ1作目はティム・バートンが監督し、これはいかにもバートンらしい世界観と故プリンスの手がけた素晴らしい音楽、(そしてあの印象深いジャック・ニコルソンのジョーカー!)も相まって、私も非常に好きな作品でした。しかしシリーズ3作目からは監督がジョエル・シュマッカーに代わり、シリーズ4作目の「バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲」で文字通り「大コケ」した後、このプロジェクトは事実上凍結されてしまいます。
インタビューでシュマッカー監督は「ワーナーブラザーズに作品をもっとファミリーフレンドリーにするよう圧力をかけられた」と言っています。そもそもシュマッカーが「バットマン」を監督する必然性のある監督なのか、ということも含め、作品を作品として良いものにするということを越えて、プロデュース側がヒット作を当てにし、次作も「確実に稼ぎ出す」ことを優先順位の上位に据えてしまうことが避けられないからこそ、「シリーズもの」は避け難く作品としてつまらなくなってしまうものなのでしょう。
ちなみに、ディズニーに売却された「スターウォーズ」も同じ運命を辿るんだろうな、と思っています。売却された途端にこれだけハイペースで新作が作られるようになった時点で、前作のJ.J.エイブラムスが監督した「フォースの逆襲」を見た時点でまあそうだろうなと思っています。
「フォースの逆襲」が悪かったということではなく、やはり「ジョージ・ルーカスのクリエイティブ」がピラミッドの一番上に位置しているのと、沢山の「頭の良い人たち」の商業主義が最終決定権を持つのとでは、それはもう全く別の物にならざるを得ないからです。
「バットマン」シリーズにおいては、制作側がその失敗の原因を真摯に受け止め、クリストファー・ノーランという素晴らしい才能のクリエイティブに最大の権限とリスペクトを与えたことが、reboot(再始動)のこれほどの成功に繋がったのだと思います。
それでも蜜月は長く続かない
しかし、ノーランあるいは「007スカイフォール」を成功させたサム・メンデスと、ジョージ・ルーカスが根本的に異なるのは、ルーカスにおいてはスターウォースの物語が「彼自身の体から生み出された、紛れも無い彼のオリジナルの物語」であるという部分においてです。
サム・メンデスの近作である「007スペクター」もノーランが監督した「ダークナイトライジング」続く「バットマンVSスーパーマン」も、やはり彼らをしても「シリーズの安住感」みたいなものから逃れることはできないのだなあと半ば納得気味に残念に思いつつ見ました。
そしてそれらの仕事を通じて、最も好きな監督であったノーランやサム・メンデスのクリエイターとして「ピークの時期」は終わったとも感じ、映画監督が「巨額のバジェットのもとの商業的な大成功」を得ることで失わざるを得ないものがあるのだろうなと思ったりもしています。
ヒース・レジャー演じるジョーカーの魅力
本作は、隅々までクリスファー・ノーランの硬質で陰鬱な世界観をリアリティーをもって体現している、その素晴らしさが大前提ではあるのですが、個人的にこの映画にここまで愛着を感じる理由は、故ヒース・レジャー演じるジョーカーの存在に尽きます。
この作品は脇役に至るまで安定感のある素晴らしいキャストで固められていて、ヒロインをマギー・ギレンホールにする辺りもいかにも大人っぽくて好きだし、クリスチャン・ベールも非常に魅力的だったのですが、やはり本作に限っては、主役はジョーカーだったと思います。
しかしバットマンとは不思議なヒーローもので、いつもバットマンより悪役のほうが印象深いのです。ある種「完璧な人」であるバットマンには感情移入しにくいということもあるのかもしれません。
そしてあらゆる映画の悪役の中でも、最も好きなキャラクターのひとりである、第1作目のジャック・ニコルソン演じるジョーカーというキャラクターを、このハンサムな青年がこのように演じたのかという驚き、どうにも咀嚼しきれない存在感。
ヒースのジョーカーは、醜くいかにも不潔な外見をしていて、醜悪で嘘つきでどこまでも残酷で。それだのにどうしてこんなに惹き付けられるのだろうと思います。彼の悪のありようというのは、なぜこんなに悲しいんだろうと。彼自身が役と共に死に向かいながらジョーカーを生きていたことと、それは無関係ではないと思うのです。
ジョーカーを「わかる」ことが無い限り、この映画が退屈になることもまたないと思います。
しかし、ヒース・レジャーを27歳で失ったことは本当に残念なことです。この気骨のある、美しい若者の演技をもっと見たかったです。
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