ナ・バ・テアにおける主人公の変化と要因となる登場人物についての考察
主人公クサナギについての考察
説明するまでもないですが、クサナギはスカイ・クロラに登場する草薙水素です。クサナギがまだプレイヤーとして戦闘機に乗っていた頃にスポットを当てたのが本作品で、スカイ・クロラに登場するような退廃的要素はまだまだ薄い、若さと激しさのある人物として描かれています。
一人称が「ぼく」であるため、しばらく読み進めていかないと、クサナギが男性なのか女性なのか判然としません。彼女は、大人になれない「キルドレ」であると同時に、女性というジェンダーな部分を排除しようとしている人物として描かれています。地上の生活では、自分がキルドレという人種であること、女であることのせいで、周囲から特異な目で見られてしまう。そんな煩わしさから逃げるかのように、クサナギは空を求め、戦闘機に乗り込む道を選んだと考えられます。
ティーチャの存在についての考察
他人にも自分にも興味のないクサナギが、唯一興味を抱いているのが、戦闘機乗りの憧れとなっているエースパイロット・ティーチャです。本文でもクサナギは、
「外側には、あまり面白い対象がない。好きになれるものが少ない。何故か、僕の場合にはそうなのだ。みんながどうなのか、そんなことは知らない。それも、どうだって良いことだ。ただ……、僕の場合は、彼の存在だけが、例外だった。」
と述べています。この発言は、他人に興味や特別な好意を持たないクサナギにとって珍しいものです。
大人にならない子供達「キルドレ」ばかりの戦闘パイロットの中で、唯一の大人であるティーチャの存在は、クサナギだけでなく他の戦闘員からも一目置かれる憧れの、それゆえに敬遠されるものです。
大人になんてならない方がいい、と作中でも何度も言っているクサナギですが、大人に対する憧れや興味を持ってほしいと思う欲求のようなものが、ティーチャに対する思いから伺えると考察出来ます。
私個人は、このティーチャの存在の大きさから、本書は恋愛小説としても非常に面白いものだと思っています。
クサナギの心境の変化についての考察
一人でいることが好きで、他人には興味が無く、ただ空を飛ぶことだけに思いを寄せるクサナギですが、本書を通して彼女なりの変化があると考察出来ます。
その大きな要因となっているのが、もう一人の女性パイロット比嘉澤の存在です。彼女はクサナギと比較すると社交的で、若い印象を受けます。クサナギは明らかにティーチャのことで比嘉澤に対して嫉妬心を抱いていますし、その感情を抑えられず比嘉澤にぶつけてしまう場面があります。こんなことは、クサナギの閉ざした感情の中ではこれまでなかったことです。ですが二人は飛行機を通して打ち解けるようになり、比嘉澤が墜落した時には、クサナギは激しい悲しみと後悔を外に出しています。もし、比嘉澤が生きていて、もう少し長い時間クサナギの側にいたら、クサナギは違った考え方、生き方をするようになったかも知れない、と考えてしまいます。
この二人を通して考察出来るクサナギの心境の変化、変化しきれなかったことを考えると、本書の続編を読むにあたって、更に深くまで掘り下げていけるでしょう。
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