より濃厚な夏休み - 愛なんていらねえよ、夏の感想

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愛なんていらねえよ、夏

5.005.00
映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
5.00
感想数
1
観た人
4

より濃厚な夏休み

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

ちょっとしたトリック

最終話をみたときに、「だから渡部篤郎か!」と衝撃が走りました。内容もさることながら、この最後の衝撃が忘れられない作品です。別に、なんで渡部篤郎なんだろうと疑問を感じていたわけではないのですが、最後に、この人が一番ぴったりだったんだなーって「わー。わー。」と一人で感動してしまいました。誰でも少しはそう思ったんじゃないかな。声や話し方が特徴的でないといけなかったんですね。まあ、いけなくはないんですけど、個性があったほうがよりいい。このラストを通して、亜子にとってどれほどレイジが特別なのかが、より深く刺さってきました。見えなくても間違わないことが彼女の自信にもなり安心にもつながっていたのだと思います。そして、見えても間違わないことが、彼女の勇気を支えていたのだと思います。見えなかったものを見るのには覚悟がいったはずですから。

ラストを見るまでは、藤原竜也が渡部篤郎の口真似をするのが上手くて面白いなあ、なんて、それで渡部篤郎がレイジ役なのかななんて、のんきに見ていましたが。それさえも、ラストのための伏線だったのでしょう。渡部篤郎も、人が真似れるくらい特徴的に演じていたのか…と、後で気づいた次第。わざとらしくなくて、すごい。ドラマスタッフ全員にしてやられた感じです。

傷ついた人間の恋

人のひかれあいが描かれたドラマだったように感じます。ホストのレイジは、ずっと「ひかれる」側だったのですが、亜子とはひかれあった。自然と亜子がレイジを乗せて行ったのが興味深かったです。レイジは最初、お金のためだったのに、そうではなくなっていった。避けようとしてもどうしようもなくて恋の魔法とでも言えばいいのか、二人が惹かれあっていく過程が見所だったと思います。

この二人は似た者同士だったのかもしれません。恋愛には別のパターンもあって、自分の夢や理想や憧れに近い人物に惹かれることや、自分とは違う性質をもつものに興味を抱いて惹かれることもありますが、似た者同士が惹かれあうさまは、繊細で慎重です。似ていないところが無いか、恐る恐る探るようなやり方で、自分たちが似ていることを確かめるからです。裏切られたくない、とお互いに思っている。

例えば、自分と違うものを好きになる時は、「裏切る」ことが無いのが前提なので、恐れは少ないのだと思います。裏切られても悲しめばいいだけです。もともと違うのだから、仕方のないことです。けれど、似た者同士のときは、裏切られた瞬間に完全に別のものになってしまう。せっかく似ている、同じかもしれない、そう思っていたのに、違ったら、裏切られたというより、騙された、と感じてしまうのではないでしょうか。これまで信じていた気持ちを返してほしいと思ったり、騙された自分をなじったり、とても悲しみでは片づけられない苦しみを味わうのだろうと思います。だから亜子はよく「嘘つき」と言いますし、レイジも「愛なんていらねえ」と言っているのだと、見ていて分かります。特にレイジは騙されないために騙していたのでしょう。騙している限りは、騙されることはないので。

人気は少なめ?

あまり視聴率は良くなかったようですが、私は放送時も見ていましたし、もう一度、一気に見てみました。吸い込まれる内容だと思うのです。主題歌を聴いたときに、前回見た時のことが押し寄せてきました。さすがに、細かい内容は思い出せませんでしたが。この歌にも惹きつけられるパワーがあります。

今作に吸い込まれない人は、放送を見るのをやめたのか、吸い込まれるのが重たくて避けたのか。テレビドラマはさっくり明るく見たい人も多いと思いますし、食事や晩酌をしながら見たいものです)、吸い込まれるなりのリスクがあるように感じます。真剣勝負で見ないといけない、なんだかそんな気持ちにさせられるドラマでした。だから、学校に行って感想を話したりしにくいドラマだと思います。隠れた名作だと思うのですが…つまらないと感じる方がいるのも納得できます。ドラマに期待しているものが、それぞれ違うので。主には気分次第なのです。俳優陣は見ごたえ満足な方たちが揃っていたのに。

名作の素質は十分

私が名作だと思う理由として、時代に左右されない点があげられると思います。恋愛・相続・お屋敷ものって物語の定番じゃないでしょうか。国や世代の枠を超えて、親しまれてきた筋です。お姫様と乞食が結ばれるお話はよくあるのです。恋愛ストーリーは、ドラマの定番ですし、相続争いはいつの時代にも物語になります。そして、お屋敷は、いつ見てもお屋敷なので、映像にしても新旧を感じずに見ることが出来ます。(新宿の繁華街や、ホストクラブの雰囲気もしばらくの間急変することはないでしょう。)だからものすごく「時代」を感じなくていいんですね。時代背景があんまり関係ないとみやすいです。親近感がより沸くので。

そして、もう一つの理由は、ハッピーエンドだからです。不幸な人が幸せをつかむために葛藤する、生きる上で当たり前の姿が描かれています。そしてそのまま不幸でおわらずに、ハッピーエンドということは大切です。見てよかったな、と思えるからです。回を追うごとに、亜子とレイジのことがわかり、応援したい気持ちになる作りになっています。二人に幸せになって欲しい、視聴者としてはその願いが叶うことで満足が得られるのです。ただ、この作品を見始めて、諦めたくなるのは、ハッピーエンドにならないだろう…と予測されるからかもしれません。最後まで見ないと、あんなにうまく終わると思えない雰囲気が常々漂っている作品です。それで、敬遠されたのかな?と思ったり。登場時の二人は好感の持てる人物ではありませんし。

夏の魔法

今作は、文学的な真面目な仕上がりで、深みがあっていいんです。とはいえ、タイトルを見た時は、微妙な笑いが出てしまうのですが。クサいというか。ただ本当に、「夏」だなと感じます。これが夏の設定じゃなかったら、全然「うっとおしさ」が無かったと思います。画面のぼんやりした白っぽい映像も、夏祭りも(そしてあのスーパーボールの演出も)、庭に水をまくのも、全部夏じゃないと雰囲気が出ません。

夏の雰囲気と登場人物たちの心持が上手く混ざり合って、魅せられます。夏に読んだ本って、印象に残りますよね。夏の印象的な出来事って、毎年夏になると思い出されまこのドラマには、夏の持つ効果、夏マジック(?)が必須だったと感じます。何だか自分の夏の思い出なのかと思うくらい刷り込まれて、夏と言えば「愛なんていらねえよ、夏」と答えてしまいそうになるくらい。私はちょっと極端ですけど。

それぞれの季節にその季節の持つ効果があると思いますが、今作は、夏の効果を思う存分利用した、そんな風に見えます。きっと二人が夏に出会わなければ、成立しにくかった恋愛です。亜子の視覚障害に対する苦悩がストレートに描かれていたのも良かったです。それを取り巻く人たちの反応も嘘が無かった。そういうのを見ると、自分だったらどうするんだろうと、考えさせられるのです。傍観できないというか、そういう意味でも引き込まれる作品でした。そして、苦悩する亜子を開放的な方向へ導けたのも「夏」の力が一役かっていると言えるでしょう。これは、彼女の「夏休み」のお話なので。

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