犯罪者側家族の視点の先駆け - 風紋の感想

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風紋

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犯罪者側家族の視点の先駆け

4.54.5
文章力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.5

目次

引き込まれた序章

最初は、高浜則子という主婦が主役のストーリーなのかと思いながら読み進めていくと、次女の真裕子の学校でのシーンなども出てきて、家族にまつわるサスペンス系の話なのかなと思っていました。何だかんだ文句言いながらもお母さんからのメモ通りに言うことをきく真裕子に共感したし、誰も帰って来なくて段々不安になっていく様子が自分の子供の頃とリンクしました。夜の9時まで誰も帰って来ないということはなかったけれども、お母さんが7時近くまで帰ってこない時には、何か事故にあったのかもと悪い方によく思っていました。それでも、それを口に出すのは恥ずかしく兄に悟られまいとしてたりして、何となく真裕子に感情移入できそうだなと思ってたところで、まさかの真裕子のお母さんが殺されてしまった。しかも、死んでいく過程、死んだ後の体内の過程まで丁寧にゆっくり説明するところが、余計にびっくりした自分の気持ちを煽ってきてあっという間にストーリーの中に引き込まれてしまいました。

犯罪者側の被害者 香織

ドラマとか他の小説でも、被害者側の壊れていく家庭の様子とかはよくあるけど、犯罪者側の家族に丁寧に焦点をあてた内容は初めてでした。誰も、まさか自分の夫が殺人を起こすとは思わない。しかも、不倫の挙げ句のはてに。更に言うなら、相手は自分よりずっと年上のいわゆるおばさん。このトリプル攻撃に自分は耐えられるか全く自信がない。自分も夫の変化に気づかないと思う。何故なら子育て中だから。小さい子供が二人いて毎日が子供中心の生活の頃に、いくら普段起こさないと起きない人が数日自分から起きても、ぼうっとしてる事があっても、新聞が届いてなくっても、それが一回り年上の元生徒の親とのダブル不倫の挙げ句の殺人に繋がる程のことか。自分なら少し疲れてるのかな、又はぼうっとしてないでオムツの交換くらいしてくれって思う程度。この松永という先生が犯人だったことにビックリして、そうきたか!って思いつつも、それよりも実際に子育て中の自分にとっては松永の奥さん香織さんが破滅に向かっていく流れが辛かった。さっさと離婚すればよかったのに。仮に殺してなくても、生徒の親と不倫してた男なんか早く捨ててしまえばいいのに、誰か心の拠り所が欲しいのはわかるけど弟かよ!と、真裕子ではなくすっかり香織に感情移入してしまった。

気になる終わりかた

まさか無罪になんてしないでよねって思ったらやっぱり松永が犯人で終わってほっとしました。わかりやすい暴力的でもなく、知能犯なのかナヨナヨしてるのかさっぱり掴みどころのないイライラしたこの男は、映画化したら瑛太の弟の絢斗が最適かなぁと思ったりもしました。最後に真裕子と香織がお墓の前で出くわして、喫茶店で事故を目撃して、まるでまた第二部の新しいストーリーが展開されるようなドキドキ感まであって、最後まで本当にハラハラさせてくれた。何回か読んだけど初めてこれを読んだ時はまだ20代前半で、最後に読んだのは30代後半。20代の頃は、真裕子にしか感情移入出来なかった。ただ単純にストーリーが面白かった。今は、高浜則子の不倫を見事に家族に隠しきった凄さや、香織の子供を実家に預けっぱなしにできる心理など、新しい発見や感情があります。いい作品はやっぱり何回読んでもいい。乃南アサさんの作品を知らない人にはよく薦めるが、女性は100%で面白いというが、男性受けは半々でした。このストーリーの時代にはネットも携帯もこんなに普及してない時代だけど、読んでいて全然古くささを感じなかったし、今の時代で映画化やドラマ化しても面白いと思います。

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