「家族愛を描いた映画」とんでもない!これは史上屈指の絶望映画だ!
目次
一度の鑑賞で評価を下すのは無粋!
本作に関して、「一度の鑑賞で評価を下すのは無粋」という言葉を投げかけたい。中には「これを評価しておけば映画通と思われるだろう」と下心満載で評価している人もいるだろうし、反対に「これを評価して映画通と思われたいだけだろう」という天邪鬼もいるだろうが、これは評価する・しないだとか、映画技術の云々だとか、そういった瑣末な尺度を超越してしまった壮大な作品なのである。
「家族愛」という単語では括り切れぬ悲しき一家の物語
本作を評価する際に「マフィア同士の絆が格好良かった!」「家族愛の話で意外と泣けた!」という文を多く目にするが、もう一歩踏み込んで考えてみたい。
この映画の最たるポイントは、「大きな力を持つコルレオーネファミリーの変遷・衰退」という内部事情と、「資本主義社会のアメリカで崩壊していく在米イタリア人の家族愛・苦悩」という外部事情が完璧なバランスで噛み合っているところにある。
シチリアはかつて長い歴史の中で多数の民族に支配されてきた。その中で虐げられたもの同士の結束が強まり、家族や親類などの繋がりを大切にする風土が根付いたのである。
それらを第一と考え、子供たちにも託そうとするドン・コルレオーネと、資本主義社会のアメリカで生まれ、洗礼を受けて育ち、軍隊に従事したマイケル・コルレオーネの価値観が違うのは当然のところ。
つまり本作は、「マフィアの家族愛を描いた作品」というところにとどまらず、「シチリアの掟を受け継いだファミリーがアメリカ資本主義の波に揉まれ崩壊の一途をたどる」悲劇の映画でもあるのだ。
なお、原作ではマイケルがアメリカ資本主義に対する考えを巡らせる側面が色濃く描かれている。これは原作者のマリオ・プーゾ氏自身がイタリアからの移民の子どもとしてニューヨークで育ち、軍隊を経験したためだと思われる。
part2と併せて1本の映画になる
ゆえに、コルレオーネファミリーの"掟"を、アメリカ資本主義で生きる五大ファミリー(※1)と比較して描いた本作と、その"掟"がいかにして生まれたか を、シチリア(ヴィト青年時)とニューヨーク(マイケル青年時)で比較して描く『ゴッドファーザーPART2』は、『ゴッドファーザー』の続編というより も、併せて380分に及ぶ1本の映画であると言える。
※1……シチリアマフィアのボス、サルヴァトーレ・マランツァーノが指導。テレンス・ヤング監督作『バラキ』(1972)に詳しい。
物語のすべてが詰まった披露宴
黒澤明監督作『悪い奴ほどよく眠る』(1960)をモチーフにしたと言われる冒頭の披露宴のシーンには、この語繰り広げられる物語のすべてが詰まっていると言ってもいい。
具体的には、後に組織を裏切ることになる運転手ポーリが組織への不満を露わにしている、長男ソニーが披露宴を抜けて愛人と逢瀬をしている(これにより生まれた子供がPART3に登場するヴィンセント・コルレオーネである)、俳優ではなくプロレスラーであったため「たどたどしい喋り方をする男」という設定に なったルカ・ブラージ、その他マイケルの妻であるケイの表情、バルジ―二の含み笑い、すべてに意味があり、繋がっているのである。
未公開部分を含め時系列順に編集した「特別完全版」の存在
本作とPART2に関しては、通常版と、未公開シーンをノーカットで時系列順に編集し直した「特別完全版」を合わせて数十回鑑賞したが、まだまだ見直すたびに小さな伏線に気付き愕然とする。ここまで徹底して作られては、受け手もそれに応えるのに苦労する。
なお「特別完全版」には、本編冒頭で登場した葬儀屋ボナセーラが組織に対して軽蔑を吐露するシーン、相談役トム・ヘイゲンの前任者であるジェンコ・アッバンダンドの最期をヴィトやソニーが看取るシーン、ヴィトとテッシオの出会いのエピソード、後にマイケルの付き人となるアル・ネリがクレメンザによってスカウトされるシーン、マイケルの潜伏先で妻になったアポロニアを暗殺してニューヨークへ逃亡したファブリツィオが組織の制裁を受けるシーンなどが含まれている。
このバージョンは全4本で450分あり、2本合わせて380分の本家と比較するといささか冗長だと言わざるを得ないのだが、ゴッド・ファーザーファンならば抑えておきたい小ネタや伏線も非常に多い。
ゴッド・ファーザーはまるで「沼」である
この映画の欠点を挙げるとするならば、そのあまりに入り組んだ人間模様と深遠極まりない背景の渦に呑まれ、何度も鑑賞した後に訪れる至福感に比べ、初見時のカタルシスが微細すぎるところにある。
特にPART2では2つの物語が同時進行する上、滞在する国がころころ変わったり、キューバ革命などの歴史事象も含まれるからである。「複雑すぎてよく理解できなかったが、壮大だった」という感想を持たれたならば、ゴッド・ファーザーという名の巨大な底なし沼に沈んでいくがごとく、何度も何度も鑑賞してこの世界観に入り浸ってほしい。
なお、本来は字幕派の方も、この映画に関しては字幕では表現し切れない部分を徹底的にカバーした優れた吹き替えが存在するため、物語を把握する上で「字幕+吹き替え」という方法で鑑賞するのも一つの手段かもしれない。
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