本当にずっと、スープのことばかり。
書店で見つけてタイトル買いしたくなる
立ち寄った書店でふらふらしていたら、この本を見つけて思わず買ってしまった。タイトルの「それからスープのことばかり考えて暮らした」という言葉のくすぐったさが心地良くて嬉しくなったから。実際、この本は休日の喫茶店でのんびり読むのにはうってつけの本だった。主人公の若い青年オーリィが出会う人々と、古い小さな映画館とサンドイッチとスープのお話。
オーリィの目線から見る街の情景は、オーリィののんびりして優しい内面から映し出されているからすべてがほんのり温かい。毎日仕事で急かされているとこういうものが見えなくなってくるから、本を通じて思い出させてくれるのはありがたいと思う。オーリィが古い映画館で何回も見たはずの映画を見ていると、隣の女性からスープのにおいがしてくる。彼はポップコーンを食べているけれど、ひどくお腹がすいてくる。それから彼はスープのことばかり考え始める。わたしもつられてスープのことを考え始める。
「名前のないスープ」を飲んでみたい
オーリィはサンドイッチ屋で働きながら、サンドイッチと一緒に出すスープの試作をはじめる。何章にもわたっていろいろなスープが出てきて、最後には「名前のないスープ」が出てくるのだけれど、なにが入っているのか全然わからないのに、とても美味しそうで無性に食べたくなる。
文中の「わたしのノートにある名前のないスープは、どれも主役のいないスープだから」という言葉にほっこりする。野菜をたっぷり入れて、とろけるまでぐつぐつ煮込んで、寒い手をじんわり温めるようなスープは幸せの象徴のようだ。「名前のないスープ」は「主役がいないスープ」だったし、それはこのお話のなかに出てくる人々が溶け合ってできたスープだったんだと気づかせてくれた。自分を形成するスープはどのようなものだろうと考えた。
道で拾ったちいさな宝物みたいな一冊
この本は全体の時間の流れがゆったりしていて、自分もその流れのなかに混じって心地よいのも良いのだけれど、わたしは章ごとの始まりの一文が特に好きだ。「ときどき、自分は映画が好きなのか、それともポップコーンが好きなのかわからなくなる。」や「このところ僕は水曜日を除いて毎日のように耳を切り落としていた。」なんて思わず顔がほころんでしまうような言葉が並ぶ。こんな言葉を思いつくなんてすごいなあと素直に感心しながら一日読みふけってしまった。
冬に風邪をひいてしまってひどい寒気のなか、母がつくってくれたスープを食べてふんわり温まって眠ったことを思い出す。あれはシチューみたいだったけど、もっと薄い色で野菜の味がしたな、と。寒くなってくると帰ってくる人のためにスープを作ってあげたいとも思う。これから難しいことを考えなければいけないし、仕事で嫌なことも多いけれどとりあえずスープでも飲もうかな、と思わせてくれる一冊。
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